【ライブレポート】沖ちづる×徳永憲
、<DECEMBER'S CHILDREN EXTRA>で
異能共演

徳永憲沖ちづるが2017年12月1日、イベント<DECEMBER'S CHILDREN EXTRA>に出演した。
声を発するだけで、空気をガラリと変える特異なシンガーソングライターの2人が共演するのは2015年3月以来、2年9ヶ月ぶりのこと。心の奥深くを揺さぶる物語を紡ぐ異能のストーリーテラー、2人の夜が幕を開けた。
▼沖ちづる
2017年はバンドセットでのライブにも挑戦した沖ちづる。同年最後となるライブは沖ちづるのパーソナルな心模様がむき出しになる弾き語り。ステージは新曲の「恋の秋」で始まった。“ひとりぼっちのあの子”をモチーフにして、自らに問いかけるように“恋をしなければ”と歌う「恋の秋」。憂いのあるメロディーラインとテンポアップしていく展開がザワザワと焦燥感を掻き立てる。そんなもやもやした気持ちを払うように2曲目は「それがどうした」。できることとできないことの間で“こんなんじゃだめだ”“変わりたい”という思いがほとばしる。
“遠く、遠く、どこか遠くへ”と“ここではないどこか”を求める「離れてごらん」から、中学時代に亡くなった級友に“大人になったよ”と語りかける「クラスメイト」へ。なくしたもの、過ぎ去ったものへの向けた別れの美学が沖ちづるの歌には通底しているが、この「クラスメイト」はとてもあたたかな目線が込められている。どちらかというと痛切な心情が突き刺さる沖ちづるの歌のなかでは、優しげな歌だ。とはいえ、目の前の世界が漂白されていくような何とも言い難い静けさが怖くももあるのだが……。
続いて「ひとりで歌を歌っていきたいと思わせてくれた人たち」という言葉が添えられたeastern youthのカバー「青すぎる空」。ひとりの帰り道、静寂のなか“いつか失うから辞めることもない”という諦観が逆に生命力を感じさせる「街の灯かり」。若者が集う街の喧騒を描いた「下北沢」へ。沖ちづるの世間とフィットできない孤独と、それでも歌っていくんだという決意が、様々なシチュエーションで物語られていく。
この世間とのズレは友人たちとの楽しい席でも拭えない。「向こう側」の主人公と友人たちの間には、同じ場所で同じものを見ているのに、どうにも取り払えない膜がある。そして、「負けました」では敗北を歌う。“自分は何者なんだ”というもどかしさのなか、疎外感に立ち向かうよう孤独に夢を追う。そんな主人公が登場する青春映画のようにステージは進んだ。
最後は「僕は今」。自分を育てるために夢を捨てた父、夢がないと嘆く友人を対比させながら、夢を追うことの痛みと覚悟を高らかに歌う。彼らの夢も背負うかのように。沖ちづるが描く物語は一見、万人向けの明るい青春ではない。でも、誰もが心に負っているひっかき傷を照らしている。それは万人の青春の一場面といってもいい。そんな青春をリアルタイムで生き、歌にする沖ちづるはどんな決着をつけるのだろうか。
▼徳永憲
徳永憲のファンならニヤリとするであろう、『信じるに値しない男』という“らしい”タイトルのニューアルバムがリリースされる直前(配信は先行販売)に行われたこの夜のライブ。約2年9ヶ月ぶりのライブということで、熱心なファンが会場を埋めた。徳永憲のデビューは1998年。見渡すと古くからの愛聴者だろうなとわかる。
徳永憲というと“異能の人”という言葉が頭に浮かぶ。極限まで削ぎ落とした言葉で巧みに情景を描写。日常に潜む違和感を“ただそこにある普通の風景”として現し、立ちすくむ男の姿が物語とされる。また、一聴するとスラッと耳に入ってくるメロディーはところどころに不穏な気配をはらみ、また、劇的な鮮やかさを生むフックも忍ばされている。つまり、聴いていくうちに、当たり前の日常や常識がグラリと揺らいでいくのだ。
ステージは、マイナスとプラス、レオポンとライガーなど異なるものの組み合わせを挙げ、それがプラスになればいいとどこか諦め気味に歌う「アンサンブルー」で始まった。“アンサンブル(調和)”とは“ブルー”なものなのか……。失望感を悲しむこともなく苦笑いで済ませるようなラブソング「お先に失礼」、君のことがまたわからなくなるけど気にしないでと歌う「気にしないで」と続く。
諦めや失望の底なし沼から響いてくるような言葉が、でも、愛情を失ったわけではない言葉が、美しいメロディーとギターの調べに乗って続く。この感覚は徳永憲にしかないバランスで成り立っている。諦めたから愛がなくなるとか、愛があるから諦めないとか、そういうことではないのだろう。それらは最初から同居していて、今も居続ける。そんなことを聴いていて考えた。
真骨頂の不穏な気配を歌のところどころに打ち込みながら、「コートを召しませ」「メタルが好きだ」「君ははぐれている」「肩車の思い出がまた肩車を作る」と続く。「君ははぐれている」では、得意げに鳴っているバブリーなラジカセを壊してやれと敵意を露わにする。「肩車の思い出がまた肩車を作る」では、肩に乗せた王様をゆらしてやろうかと反骨を見せる。ため息のような諦めのなかから、ギラリと牙をむく攻撃性にドキリとする。実は諦めていない……。
美しいアルペジオで綴られる「悲しみの君臨」「ただ可憐なもの」。過ぎた年月に惑わされずに足元を見つめる「暖かなもの」。初期のナンバー「魂を救うだろう」では一転、厳かな祈りのような歌を聴かせる。ニューアルバムに収録されている「クロスカウンターズ」を挟み、本編最後は「7(セブン)」となった。「7(セブン)」に登場する男は、午前2時、誰もいない交差点の真ん中で愛する人の名前を叫ぶ。7文字のフルネームで。ここには皮肉も苦笑いもない。最後に徳永憲はてらいもなく愛を歌った。
アンコールでは「本屋の少女」を歌った後、1998年の1stアルバム『アイヴィー』に入っている「いつまでも生きていたい」を沖ちづるとセッション。“いつまでも生き続けたい。太陽が爆発するのを見るんだ”と繰り返される。この荒ぶるフレーズに触れるとゴダールの映画『気狂いピエロ』の最後で主人公が爆死するシーンをなぜか思い出す……。
あと印象的だったのは沖ちづるがセッションのとき、とても楽しそうだったこと。またいつか、この“代えのきかない2人”の共演を見たい。1年後、3年後、5年後……。人生の孤独や愛を物語にするに長けた2人はどんな再会をするのだろう。
取材・文◎山本貴政

撮影◎SUSIE
■<DECEMBER'S CHILDREN EXTRA>2017年12月1日@六本木Varit.セットリスト


【沖ちづる】

01.恋の秋

02.それがどうした

03.はなれてごらん

04.クラスメイト

05.青すぎる空 (※eastern youth)

06.街の灯かり

07.下北沢

08.負けました

09.向こう側

10.僕は今

【徳永憲】

01.アンサンブルー

02.お先に失礼

03.気にしないで

04.コートを召しませ

05.メタルが好きだ

06.君ははぐれている

07.肩車の思い出がまた肩車をつくる

08.悲しみの君臨

09.ただ可憐なもの

10.暖かなもの

11.魂を救うだろう

12.クロスカウンターズ

13.7 (セブン)

encore

En1.本屋の少女

En2.いつまでも生きていたい (※沖ちづるとのセッション)

■徳永憲アルバム『信じるに値しない男

2017.12.5 RELEASE

WAKRD-064 2300円(税抜)

01. 理論値ブルース

02. 夢から醒めてこぶしを見る

03. クロスカウンターズ

04. アイコンがいっぱい

05. 雪の結晶

06. 紳士協定

07. コックピットで怪気炎(instrumental)

08. ユーアーダンシンクイーン

09. 嵐が来たのさ

10. 信じるに値しない男

11. 火がともる

12. やさしき人

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

新着