マーク・ジョンソン

マーク・ジョンソン

音楽チャリティープロジェクト
『PLAYING FOR CHANGE』創設者、
マーク・ジョンソンが語る音楽の力

大和証券グループのCMがきっかけで日本でも有名になった音楽チャリティープロジェクト『PLAYING FOR CHANGE』。その創始者であり、グラミー賞を受賞したプロデューサー、マーク・ジョンソンが来日。彼自身の人生をも変えたストリートミュージシャンとの衝撃的な出会い、文化や言葉の違いを飛び越えて繋がれる音楽のパワーについて熱く語ってくれた。

プロジェクトを始めたきっかけは
ストリートだった

——まず、マークさんがチャリティープロジェクト『PLAYING FOR CHANGE』を立ち上げた想いについて教えてください。
「世界には壁や分け隔てがあるけれど、我々をひとつにする上で、音楽の力ほど強力なものはないんじゃないかと。そういう想いから立ち上げたプロジェクトなんだ」

——カリフォルニア州サンタモニカの路上で出会ったストリートミュージシャン、ロジャー・リドリーさんに出会ったことも引き金になったそうですね。
「ある日、通勤の途中でロジャーが「スタンド・バイ・ミー」を演奏しているのを聴いたのが始まり。感動して「機材を持ってくるからストリートで演奏しているところを録音させてほしい。その曲を持って世界中を回っていろんなミュージシャンの演奏や歌を足して編集したいんだ」と申し出たんだ」

——ということは、最初からマークさんの中に世界中のミュージシャンがひとつの曲を奏でているイメージがあったのですか?
「このプロジェクトのアルバム『SONGS AROUND THE WORLD~Playing for Change』を制作したいというアイディアはあったよ。人種、文化、宗教を超えていろいろなミュージシャンがひとつの楽曲を奏でているものを作りたいって。そう思っていた時にロジャーの歌を聴いて世界を回ろうと決意したんだ。彼の歌声は本当に情熱的で説得力があって、しかも「スタンド・バイ・ミー」は普遍的な価値を持った曲なので、ロジャーによるこの曲から始まるコンビネーションがプロジェクトを始動させるのにもっとも相応しいと」

——「スタンド・バイ・ミー」と「ドック・オブ・ザ・ベイ」を彼が歌う動画を観て、こんなにすごい人が路上で歌っているんだと驚きました。
「まるでオーティス・レディングのようで驚いて、「どうして路上でやってるんですか?」と尋ねたら「人に喜びを与えるのが俺の仕事なんだ。みんなと一緒にいたいからここで演奏してる」と。音楽を通じてコミュニティーとつながる彼の気持ちが僕に『PLAYING FOR CHANGE』のインスピレーションを与えてくれたね」

——ロジャー・リドリーは亡くなってしまいましたが、彼の素晴らしい歌と演奏を世界に広めたのはマークさんですね。
「彼が亡くなった後、奥さんは悲しみのあまり音楽も聴けない状態だった。『SONGS AROUND THE WORLD~Playing for Change』のDVDを生前にプレゼントしていたけれど、ある日、彼女はリモコンの操作を間違えたことで映像を観ることになったんだ。プロジェクトに参加していることを知らなかった奥さんはロジャーが歌ったあとに世界中のミュージシャンがプレイしているのを観て涙を流して、「彼の音楽を世界に広めていただいて感謝します」と言ってくれた。せめてもの恩返しができて、とても嬉しかったよ」

——マークさんは名もないストリートミュージシャンに焦点を当てたくてこのプロジェクトを始めたのでしょうか? それともプロやアマチュアに関係なく、多くの音楽家たちをつなげたかったのですか?
「ストリートで音楽に触れるといろいろなことが学べるんだよね。有名なミュージシャンは多くの人たちに曲を届けることができるけど、ストリートミュージシャンは何のフィルターもかかっていない状態でダイレクトに多くの人に音楽を届けられる。会社で嫌なことがあった帰り道に聴いた音楽で、人生が変わることがあるかもしれない。プロジェクトを始めたきっかけはストリートだったけど、そこからどんどん広がっていった」

——世界中を旅してプロジェクトに参加した多くのストリートミュージシャンに出会ってきたと思いますが、何カ国ぐらい廻ったのですか?
「50カ国に行って1000人ぐらいのミュージシャンの曲を収録したよ。アフリカに行くとストリートミュージシャンはいないんだ。なぜならどこでもすぐに演奏が始まるから(笑)。今の活動以上の大きなものの一部に加わりたいと思っている人を求めて世界中を旅しているんだ」

——すごい! その情熱の源となっているものは?
「音楽がより世の中を良くする最善のツールだから。ノーマン・リア(アメリカのTV界の重鎮プロデューサー)が言った言葉だけど、“人生で我々をつなげてくれるものは3つある。音楽と笑い、自分を超越したものの一部になることだ”と。僕自身、そのことを大事にして活動しているよ」

音楽は我々の見方を
再定義してくれる世界的な言語

——『PLAYING FOR CHANGE』のYouTubeチャンネルの動画は4億5,000万回以上も再生されています。こんな現象が起きると想像していましたか?
「想像はしていなかったけど、各国を旅していると楽曲の一部になれることをミュージシャンのみなさんが素晴らしいと言ってくれるので、これは重要なことをさせてもらっているんだなとは思っていた。YouTubeによって世界中の方々に観てもらえるようになって、このプロジェクトの意義が浸透していったのはとても嬉しい。一番誇りに思うのは195カ国の方が観てくれているということ。本当に世界中の方たちが観てくれているということなので」

——1980年代にはチャリティーソング「ウイ・アー・ザ・ワールド」が大ヒットしましたが、SNSがあることによってマークさんのような活動は無限に広がる可能性を秘めていますよね。
「テクノロジーで世界中の人がつながることができる時代だからね。でも、ただつながるだけではなく、分け隔てがある世の中でいかにつながるかに焦点を当てる必要があるよね」

——私が『PLAYING FOR CHANGE』を初めて知ったきっかけは大和証券グループのCMでした。海外のミュージシャンとクロスするかたちでCharさんがギターをプレイしているのを観て気になったんです。
「YouTubeの動画を観たって大和証券グループの方から連絡をもらったんだ。日本のみなさんに知っていただくきっかけになったのが、あのCMだと思う。扉を開いていただいて、今回、やっとバンドを連れて来日してコンサートができることになったのもとても嬉しいよ」

——ビルボードライヴ東京で開催されたコンサートにはCharさん、福原美穂さん、平井 大さんがスペシャルゲストで参加しましたが、どんな印象をお持ちでしょうか?
「彼らはファミリー。ミュージシャンとしても人としても素晴らしい。今回のコンサートでは10カ国のミュージシャンが一同に会したんだ。演奏しているのを観ると現実の世界もこんなふうにつながっていけるのでは?と感じると思う。音楽は我々の見方を再定義してくれる世界的な言語。言葉が理解できなくても感じることができる。国や文化への先入観もなくなるんじゃないかな」

——海外でもU2のボノなど多くの有名ミュージシャンがマークさんの活動に共鳴、参加していますよね。
「ボノもキース・リチャーズもロジャー・リドリーもアフリカの村のミュージシャンもみんな音楽の力はもちろん分かっている。僕は彼らが一緒に参加する機会を作っただけ」

——プロジェクトの収益の一部はPLAYING FOR CHANGE基金を通じて南アフリカでの音楽スクールやアートスクールの設立、インドやネパールの難民への物資の提供など多くのことに役立てられていますね。今後のマークさんの夢というのは?
「南アフリカの学校の他、ルワンダの学校には大量虐殺によって孤児になった子供たちが通っているんだ。音楽は悲劇に見舞われても前に進まなければならないという気持ちにさせてくれる。僕は音楽スクールで偉大なミュージシャンを養成したいのではなく、素晴らしい人間を育成したい。現在、15校の学校を設立したけれど、それぞれの地域が直面している問題に対して手を差し伸べたい。きれいな水を手に入れる方法だったり、前向きになれる方法だったり。お互いに信頼しあえる関係を築ける子供たちが育っていくことが僕の願いでもある」

取材:山本弘子

『PLAYING FOR CHANGE』紹介映像

マーク・ジョンソン

OKMusic編集部

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