“見えないものを見る”ことこそがア
ートを鑑賞する醍醐味 【SPICEコラ
ム連載「アートぐらし」】vol.2 遠山
昇司(映画監督)
今回は、映画監督の遠山昇司さんが「十勝千年の森」へ行かれた際に感じた、アート作品を鑑賞する醍醐味について語ってくださっています。
窓の外を眺めると、まるでパッチワークのような緑と茶色の田園が広がっていた。まっすぐに伸びた白い道は、まるで定規で引いた線のようで、地上が近づくと、それが白樺の並木道だとわかる。
どうしても見たい風景のために旅に出たのは、いつぶりだろうか。
空港に到着した僕は、バスで帯広駅へと向かった。
本当にこっちであっているのだろうか、と不安に思いながら細い路地を進むと「フローモーション」という看板が見えてきた。
陳列されている本から店主の心が垣間見えてきて、素敵なお店だなと感じた。
ページをめくった瞬間、新しい世界が広がった。
初めて訪れた帯広という街に、知らない世界の入り口のようなお店が存在していることに嬉しくなった。
僕がこのお店を出た後に、誰かが一冊の本を手に取り、ページをめくる。
そこには絵が描かれているかもしれないし、知らない風景の写真が広がっているかもしれない。
その誰かの存在は、僕と交差することなく続いていくのだろう。
「十勝千年の森へ行ってきます。」
東京ドーム85個分に当たる400haもの広大な敷地内には、「フォレストガーデン/森の庭」「ファームガーデン/農の庭」、そして世界的なガーデンデザイナー、ダン・ピアソンによってデザインされた「アースガーデン/大地の庭」「メドウガーデン/野の花の庭」の4つの庭があり、目の前に広がる雄大な自然と共生するように現代アーティストの作品が点在する。
夜になる。月明かりに照らされて小さく光る七つのダイヤモンドがある。
見えないものを見るという体験こそが、アート作品を鑑賞する際の醍醐味ではないだろうか。
閉園時間の16時が近づく中で、森の緑が金色へと変わり始めていた。
夕陽が森と庭を包み込み始めていくのを感じた。
僕の旅も終わりを迎えようとしている。
SPICE
SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。