毎年必ず来るけれど、19の秋は一度きり。人生で一番特別な秋を歌った「思秋期」

毎年必ず来るけれど、19の秋は一度きり。人生で一番特別な秋を歌った「思秋期」

毎年必ず来るけれど、19の秋は一度き
り。人生で一番特別な秋を歌った「思
秋期」

春夏に咲いた花たちが枯れてゆき、気温はどんどん寒くなる。クリスマスやお正月のようなイベントもない…確かに地味な季節ではあります。だからこそ、そこに焦点を当てたこの曲、岩崎宏美の「思秋期」を是非聴いていただきたいと思います。
号泣、そしてレコーディング中止

リリースされたのは1977年の9月。今からちょうど40年前、岩崎宏美は当時19才で、この年の春にちょうど高校を卒業したばかりでした。高校の卒業後は、今まで地元で一緒に過ごしてきた人と初めて離れたり、就職して友人ともなかなか会えなくなるなど、それまでの「学校」が中心だった生活が人生で初めて大きく変わるターニングポイントです。そんな心情を、そのさなかにいる岩崎宏美に歌わせたのがこの曲。

岩崎は、この歌詞を読んだときに、作詞をした阿久悠に「なぜそんなに私のことが分かるんですか」というようなことを訊いたといいます。そしてレコーディング中も感極まってしまい歌うことができず、何度も録り直しをしたと語っています。この曲のどこが、人生の分岐点を迎えた彼女の琴線に触れたのでしょうか?

歌詞の主人公も十八から十九へのステップを踏み、恋人との別れも経験しています。生活スタイルの変化とともに別れを迎える恋人たちは多いですが、ここでは、友人ともなかなか会えない生活の中で、恋人という「学生時代からの深いつながりの象徴」と別離することに意味があります。もしかしたら、主人公にとってはじめての恋人だったかもわかりません。
そんな人との別れから、もう高校生の時の自分ではないという自覚、そして自分だけでなく自分の知っていたはずの世界もどんどん変わっていってしまうことへの虚しさを抱くさまが伝わってきます。

青春の終わりに気づくということ
このサビに関しては、ただただあなたにとっての青春を思い出しながら聴いて欲しいです。いつか、こんな言葉を聞いたことがあります。「『あの頃が青春だった』と振り返るときには、もう青春は終わっている」。こわれもので、忘れもので、もろいけれども美しい。流れるようなストリングスがそんな儚さをさらに引き立てます。
一人で「紅茶」を飲み「絵葉書」を書く、そんないかにも「大人」なシチュエーションの主人公。もう昔には戻れないことを理解し、「会いたい」ではなく「いつか逢いましょう」と言いながらも、続く大サビでは再び過去を振り返っています。青春を過ぎたといっても、大人ぶっていても、まだたった半年。その苦みも輝きもまだまだ昨日のことのように思い出せるはずです。
高校生・岩崎宏美にとっての学校生活
岩崎宏美自身は16才の時にデビューし、2枚目のシングルである「ロマンス」で早速大ヒットしています。デビュー曲から毎回作詞は阿久悠、作曲も筒美京平大野克夫などの大物だったことからも、最初から大きな期待をかけられていたことが分かります。おそらくプレッシャーも相当なものだったでしょう。そんな中ゆえに、人並みの高校生活こそ送れなかったかもしれませんが、芸能界とは全く別の「学校」という世界があったことが彼女にとってよい気晴らしや息抜きになったのではないでしょうか。
しかし高校を卒業して皆社会人や大学生として次の人生を歩いていき、新たなコミュニティを作っていく様子は、学校という場を失くした岩崎にとってとりわけ切ない部分があったのかもしれません。だからこそ主人公と自分との経験と重ねあわせ、感極まってしまったのではないかと推測します。

「19の秋」は人生の秋
秋というのは、いくつになってもセンチメンタルな気分を誘うものです。それは春のはなやかさ、夏のあざやかさを振り返らせ、寂しくさせてしまうからなのだと思います。しかしそれだけで終わらせず、「19才の秋」という切り口で、「十九の岩崎宏美」に等身大の思いをぶつけさせた阿久悠の力量を感じます。過ぎた青春を懐かしみ、それまでとは違う人生を歩み始めたことを自覚するちょうどその時。自分も前に進まなければいけないんだな、でも、もう少しだけこのまま思い出に浸らせてほしい…そんな十九の秋は、岩崎宏美に限らず多くの人にとって、人生で初めて訪れる秋なのかもしれません。

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