ミュージカル『レディ・ベス』開幕!
花總まり×山崎育三郎×未来優希×
平方元基ver.レポート

2017年10月8日(日)より、東京・帝国劇場にてミュージカル『レディ・ベス』の幕が開けた。2014年の世界初演で大人気を博した今作は、3年ぶりの再演に当たりほぼ同じキャストでの上演となる。2014年版と比べいくつかエピソードが減り、さらに主人公のレディ・ベス(後のエリザベス1世)にとって転機となる二つの楽曲が追加されたことで、より鋭さを増した。Wキャストで演じられる主要4役のうち、真っ先に初日を迎えたのは、花總まり(レディ・ベス)✕山崎育三郎(ロビン・ブレイク)✕未来優希(メアリー・チューダー)✕平方元基(フェリペ)バージョン。今回は、この組に焦点を当ててレポートしたい。
ベスが25歳でエリザベス1世として戴冠するまでを描いた本作。ベスを演じた花總は、女王になるために産まれたような特別な存在感で立っていた。何も知らない無垢な天使のようだが、か細いながらもその芯は強く、絶望にうちひしがれる様子も庶民にまぎれた姿も常に凛としている。「私だって自由よ!」とロビンに意地を張る様子は愛らしく、微笑ましく観ていたが、未来の女王として聴かせるその歌声に思わずひれ伏しそうになった。今回再演にあたり追加された、ベスが女王となる強い決意をうたう新曲では、「この少女がこの後45年間イングランドを治める女王となるのだ。イングランドの未来は明るいのだ」と、強く確信させるものだった。
花總のベスは、“淫売”と呼ばれた母の、その言葉の意味も知らない無垢な少女。しかし恋を経験することで様々なことを知り、受け入れ、やがて国民を統べる高みへと歩んでいく女性像だ。特に働く女性が観れば「私も自分の人生を胸を張って生きよう」と背筋が伸びることだろう。その伸びやかな歌声と存在感で大きなカタルシスへと観客を導く。花總のベスは一人の女性の生き様を通した、すべての女性への応援讃歌を具現化した存在となっていた。
ベスと恋に落ちるロビンは、自由を愛する吟遊詩人だ。山崎の柔らかい歌声と軽やかな足取りは、何にも捕われない自由そのもののようだ。尊い一人の少女を慈しみ、大切にしたいというロビンの包み込むような愛情に、こちらも穏やかな気持ちになる。周囲に翻弄されるベスにとって唯一安らぎを感じさせる優しいロビンだった。
また、花總のベスが女王になるポテンシャルを秘めた少女であるがために、ロビンはベスを次の高みへと押し上げる導き手のようにも見えた。城から一人で出たことがないベスを「外に出よう」と誘うロビンは、ベスにとっては未知の世界の象徴であり、普通の女の子であれば選べたかもしれないもうひとつの人生への扉。笑顔溢れる安らぎの人生を選ぶか、激動の政治の中に飛び込むか…。ロビンの手を離すことは、誰も届かない女王という圧倒的な存在になることを選ぶことでもあった。
山崎育三郎、花總まり
ちなみに加藤和樹が演じるロビンは、情熱的に恋い焦がれるワイルドな男性像となるので、加藤との組み合わせでは花總もまた異なる顔を見せることとなるだろう。
ベスと対立する異母姉メアリー役の未来は、初演に引き続き大迫力の歌声で圧倒する。すべてを掌握しそうな存在感は、“ブラッディ・メアリー(血まみれのメアリー)”の異名もぴったり、血塗られた魔女のようだ。不遇の幼少期を送り、歪んでしまった女のなれの果て。生まれながらの女王である花總とは、姉と妹というよりも、血の繋がりという川を挟んで対峙する魔女と魔女のようだ。周囲の男たちは出る幕がないのではないかと思うほどの二人の対立は、観る者を恐怖に陥れるほどの凄みがあった。
平方元基、未来優希
4人目のWキャスト、スペインのフェリペ王子を演じたのは平方。改訂によりベスとのシーンが初演より減り、なぜフェリペがベスを手助けするのかを観客が想像する余白が広がった。芯の強さを感じさせる平方のフェリペは、女好きをきどっているがどこかまじめさがにじみ出る人物。当時全盛を誇った“太陽の沈まぬ帝国”スペインの次期王として、そのレールを着実に歩く堅実さを持ちながらも、胸に秘めた苦悩と消化しきれない反抗心を持て余しているようだ。
平方が見せるキレのいいダンスは気持ちがいい。スペイン大使役の吉野圭吾と二人並ぶといやがおうにも目に留まる。暗雲立ちこめるイングランドの興亡の中で異質なスペイン勢として、二人が共に踊るシーンは観客を楽しませるショーのようだった。
吉野のスペイン大使シモン・ルナールと、石川禅のイングランドのカトリック大司祭ガーディナーが、憎めない悪人を演じている。コミカルなのに軽くなく、ベテランならではの安定感で舞台を支えていた。二人の歌う「ベスを消せ(She must be removed)」は、過激な悪意をエンターテイメントとして見せており、キャラクターの違う二人のダンスの質の違いが楽しい。
ベスの教育係のキャット・アシュリー(涼風真世)と家庭教師ロジャー・アスカム(山口祐一郎)があたたかくベスを見守る。彼らだけは、ベスに何かを強要したりせず、優しく接する大人たちだ。日々心配しながらも、彼女が女王になるために手助けをする。二人の包み込むような歌声は、ベスの身の回りの人間というより、彼女をそっと導く「運命」という名の精霊のようだ。
山口祐一郎、花總まり、涼風真世、石川禅、
ベスを悩ませる母=アン・ブーリンの存在がこの物語の救いとなっている。アンは王である夫以外の男と密通した罪で殺された“淫売”で、実際の歴史でも浮気者で派手好きだと伝えられている。けれども和音美桜のアンは、色気がありながらもまじめで優しい雰囲気をまとう。なによりその歌声が、娘ベスへの慈しみに溢れている。その歌に「もしや濡れ衣だったのでは」と思わせる説得力があるからこそ、ベスの葛藤や選択が際立っていた。
終始、舞台の頭上には、ベスの父王ヘンリー8世の時計塔がある。それは占星術のホロスコープでもあり、定められた運命を見つめる神の目でもあるようだ。その運命の道を、ベスがどう歩んでいくのか…花總と山崎の組み合わせは、己の使命に向き合いあるべき場所に辿りついていく女王誕生の物語をダイナミックに見せていた。
取材・文=河野桃子
公演情報

ミュージカル『レディ・ベス』
■脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
■音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
■演出・訳詞・修辞:小池修一郎
■出演:花總まり/平野綾(Wキャスト)、山崎育三郎/加藤和樹(Wキャスト)、未来優希/吉沢梨絵(Wキャスト)、平方元基/古川雄大(Wキャスト)、和音美桜、吉野圭吾、石川禅、涼風真世、山口祐一郎 ほか
<東京公演>
2017年10月8日(日)~11月18日(土)
■会場:帝国劇場
<大阪公演>
2017年11月28日(火)~12月10日(日)
■会場:梅田芸術劇場メインホール

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