【インタビュー】黒木渚、復活を語る

止まっていた時計がまた動きはじめた。9月20日、復活シングル「解放区への旅」リリース。9月24日、復活ライブ<音楽の乱>東京公演。喉の疾患によって約1年間の音楽活動休止を強いられた、運命が与えた試練への鮮やかなカウンターパンチ。黒木渚はいかにして過酷な状況を乗り越え、解放区へ向けて軽やかに飛翔する境地に達したのか? これはライブの興奮さめやらぬ翌日、25日に行われたインタビュー。新しい声と新しいパフォーマンス、黒木渚の新章はここから始まる。
◆<音楽の乱>東京公演 ライブ画像
  ◆  ◆  ◆
■ 理由なく“この人たちが好きだ”という

■ 愛しているに近い感覚でした
▲<音楽の乱>東京公演


── 昨日はすごかったですよ。何がすごいって、とにかくお客さんが。
黒木渚(以下、黒木):すごかったですね。イヤモニを突き破って声が聞こえていたから、カウントを聞き逃したりしてました(笑)。
── 普通じゃなかったですね。
黒木:めちゃくちゃ泣いてる人もいっぱいいたし。その人が本当はどんな人間かなんて、誰もお互いにわかっていない状態で、理由なく“この人たちが好きだ”という、愛しているに近い感覚でした。そこに理由はなくて、その人が悪い奴でも嘘つきでもかまわないという、あの感覚って普通の人は味わえないと思います。あと、守るものがあると強くなるって言うじゃないですか。私の場合は守るものが1000人単位でいると思うと、めっちゃ無敵だなと思います。みんなの顔を見てそう思いました。ほんと、泣けました。
── 泣いてましたね。
黒木:もしかしたら涙が出てしまうかな?と思ってたんですけど、あんなに普通に泣くとは思いませんでした(笑)。
── 幸せな空間でした。黒木さんのライブはいつもそうだけど、昨日は特別でした。
▲<音楽の乱>東京公演


黒木:あんな思いをしたら早死にするんじゃないかと、みんなで言ってました(笑)。でも本当にみんな優秀でしたね。私以外のメンバーやスタッフに、いつもより非常にカロリーの高い仕事をお願いしていて、誰一人ミスをしなかったんですよ。その集中力はすごかったです。
── パフォーマーとして参加した、ダンサーの伊藤キムさんも素晴らしかった。度肝を抜かれました。
黒木:キムさんは、日本人で二人ぐらいしか取っていない国際的な踊りの賞を取っていたりして、本当はああいうライブに呼んじゃいけない人というか、やってくれない人なんですけど、“おねげえします〜”って泣き落としで(笑)。
── 異様な盛り上がりでしたね。お客さんを巻き込んでのダンス、メンバーを巻き込んでのパフォーマンス。
黒木:あそこは全部即興なので、毎回違うんですよ。ある程度段取りが決まってるところもあるんですけど、本番でぶっこんで来るんですよ、みんな。聞いてない!みたいなことを。でもゾーンに入ってるから全部打ち返す感じで、面白かったですね。みんなステージマンなんだなと思いました。
▲<音楽の乱>東京公演


── ということで、本当に久々のライブ。終わって、何を感じました?
黒木:休んでる期間にいろんな人が心配してくれて、喉の心配という意味でもそうだし、この人音楽をやめちゃうんじゃないか?という心配を、近い人がみんなしていて。“あなたはステージの人だからステージから降りちゃダメだ”とみんなに言われて、その時は“もちろん降りる気はないです”とか言ってたんですけど、昨日あらためて、あれは人の口から出た私の願望だったんだなと実感して、本当に降りちゃダメだなと思いました。いい意味で開き直りましたね。
── MCで、直前までは怖くて仕方なかったと言ってましたね。何が怖かったんですか。
黒木:相変わらず歌が同じように響くのか?ということもあったし、喉がまだ本調子じゃないという状態もあるから、パワーダウンしたと受け止めらたらどうしようと思っちゃってたのと、新しい演出に手を伸ばしたことで、真意が伝わるかな?と。ごまかしじゃなくて、これがやりたいんだという気持ちが伝わったかな?と。結果的に、完全に受け入れられたとは思うんですけど。
── そこに関しては、100%だと思います。
黒木:私は休んでいた間に、もう一度尖った気持ちを取り戻した感じがあって、やっぱり優しいだけじゃダメだし、ガンガンやっていこうということを表明する場所だったから、すごく怖かったんですね。あと、本当に待ってたのかな?とか。チケットは売れたかもしれないけど、転売とかいろいろあるから、実際は20人ぐらいとかだったらどうしようとか(笑)。本当に気の長いファンだなと思いましたね。
◆インタビュー(2)へ
■ 声が全然出ない時に

■ 夢から音声が消えたんです
▲<音楽の乱>東京公演


── 正直、喉の具合は何%ぐらいだったんですか。
黒木:最近の中ではかなり調子が良かったほうだと思います。シングルのプロモーションでしゃべることが多くて、一回元に戻っちゃったんですけど、でも悪い声の状態になった時に、それを引き戻す力がだんだんついてきて。合間に一人でカラオケに行って、歌うための喉に調整するとちょっと良くなる。感覚を失わないように、使い込んでは戻し続けるみたいなことが、ちょっとずつできるようになりました。でももっと行けると思ってたから、悔しい点はけっこうありましたね。
── そこも含めての感想を言うと、すごく初々しかったですね。一度完全にニュートラルになって、長年の癖も消えて、まったく新しい声で歌い直すみたいな。
黒木:過去の歌声に固執すると、本当に戻れなくなっちゃって、一回そういう状態になってたんですね。“前は歌えてたのに”ということを思いすぎて、昔を完コピしようとして、でもそれだと全然進めないし、焦るし、お医者さんとも相談して、新しい声を一から作っていこうということで。歌う筋肉を動かす脳内回路がおかしくなってたわけだから、その回路を千本ノックで直していく。積極的にリハビリして、新しい回路を作るということで、脳科学なんだなと思いました。
── ステージ上の動きに関しては?
黒木:全然大丈夫です。体は健康なんで(笑)。
▲<音楽の乱>東京公演


── 新曲「解放区への旅」の初披露は、どうでした?
黒木:いつも曲が私の先を走ってる感じがしていて、曲が先に私の人生を感知して、そのあとを追っかけてると、曲が助けてくれる出来事が起きるんですよ。「解放区への旅」もそうで、開き直った曲を書けば、本当に開き直れるし、解放されると願えば、本当に解放される。それをライブの轟音の中で歌ってみて、本当に実感しました。“本当に解放されたな、今”という感じはありましたね。
── 曲が自分の人生の先を走っているというのは、「革命」の時に言ってましたよね。自分で書いた曲に励まされたという。ミュージックビデオの撮影の時でしたっけ。
黒木:そうです。馬に乗る時ですね。「革命」を聴いて“頑張るぞ!”と思ったし、「ふざけんな世界、ふざけろよ」も、曲ができて、そのあと喉を壊して、本当に“チクショー、ふざけんな!”と思いながら歌っていたし。よくわからないけど、何かを察知してそういう曲を作っているのか、歌詞の意味も、曲がリリースされたあとに自分の中にストンと落ちてくることが多いんですよ。
── 「解放区への旅」を作ったのは、いつ頃ですか。
▲シングル「解放区への旅」通常盤


黒木:去年の年末とかかな。寒い時期だったと思います。
── まだ回復の先が見えてない状況ですよね。その時期は。
黒木:そうです。その時は“治らないかも”とか言われてたし。でも病名ははっきりして、決まった治療法はないけど、できることはいくつかあるから、地道にやっていこうみたいな状態の時ですね。
── そんな時に出てくる言葉とは思えないですよ。この力強さは。
黒木:不思議ですよね。助けてくれ!という気持ちが、遠くに行きたいという表現や、この不自由さから解放されたいという表現になったのかもしれない。あ、そうだ、この一行目って、検査のために注射で声帯を緩めていた時期があるんですけど、声が全然出ない時に、4日目になって夢から音声が消えたんですよ。
── 音声が消える? 本当に?
黒木:夢からさめて、起きたあとにめちゃくちゃ怖くて。宇宙は真空で、音が聴こえないじゃないですか。だから宇宙は孤独だじゃなくて“孤独が宇宙なんだ”とその時思って、怖い!って。
── 孤独は宇宙だ。真空で息もまともに吸えない。その時の心境でしたか。
黒木:あれは不思議な体験でした。それで生まれた歌詞です。この時期はどちらかといえば沈んでる時期で、自分を助ける曲を書こう、自分を助ける本を書こうということを、すごく考えてた時期でした。
── 砂漠も海もジャングルも直線で駆け抜けて、無敵になってゆく。そして最後の一行が「今を生きる」。
黒木:今を生きる、それ以上のことを悟れなかったです。マインドフルネス的なことというか、今に集中するってけっこう難しいんですね。過去や未来に引きずられたり引っ張られたりして、意外とおろそかにしてたかもなと思ったんですけど、本当に今に一点集中できると、悩みから解き放たれるという感覚はありました。声が出ること、息をすること、そういう単純なことに感謝するのは難しいんだなって、純粋に思いました。これぐらい劇的な出来事がないと、そういうことを見つめ直さないし、この歌詞は出てこなかったなと思います。
◆インタビュー(3)へ
■ せっかくどん底から這い上がってきたんだから
▲シングル「解放区への旅」初回限定盤 A


── 今回のシングル、4曲入ってるじゃないですか。去年配信リリースした「灯台」は別にして、3曲はこの1年間の黒木さんのドキュメントそのものだと思うんですけど、どの順番で出来たのかな?ってずっと考えていて。悲しみに沈んでいる「ブルー」があって、そこから怒りをバネにして立ち上がる「火の鳥」があって、スピードをつけて明るく駆け抜けていく「解放区への旅」ができたのかなって、勝手に想像してたんですけど。実際どうだったんですか。
黒木:順番は、「解放区への旅」ができて、そのあとの2曲は同時です。
── 全然違った(笑)。「解放区への旅」が最初だったというのは意外かも。
黒木:できたのは先だったけど、リリースするかどうかはまた別の話で。「火の鳥」ができた時に、私はこれがリードになるのかな?と思ったんですね。けっこうアップダウンが多い病気で、今年に入ってすごく良くなってたんですよ。よっしゃ!って活力が湧いてきて、復讐に燃える「火の鳥」みたいな気持ちになった瞬間に、また具合が悪くなって。焦って練習しすぎるとまた悪くなって、いちいちへこむんですよ。それで「ブルー」が同時期にできたんです。
▲シングル「解放区への旅」初回限定盤 B


── ああ。なるほど。
黒木:「ブルー」は家の屋上で作りました。平日の昼間に屋上から街を見下ろして、むなしい気持ちでいっぱいになって。街って生きてるじゃないですか。毎日同じように生活していて、私だけが屋上でぼんやりと回復を待っている。空は最高の晴天なのに、なんでこんなに無力感があるんだろうという、これはバラードだなと思って作った曲です。
── こういう、内面の弱さと向き合うような曲って、あまりなかったですよね。
黒木:ないですね。強いヒロイン像が多かったし、自分もそうあるべきだと思っていて、女の子っぽいめめしさを人様に見せるのは恥ずかしいと思ってたんですけど。今作らないともう出すタイミングはないかもしれないし。
── 「ブルー」があることで、このシングルは深みがぐっと増してると思います。片や「火の鳥」は、復讐心で燃え上がる激情の曲。
黒木:やっぱり怒りがあるって元気ですよ。めっちゃ怒ってるのが「火の鳥」で、怒る気にもなれないのが「ブルー」。復讐に燃えるということは、生きる理由になるんですよね。でも私には明確な敵討ちの相手もいなくて、運命というか、なぜ歌手にこういう難しい病気を落雷のように落としてくるのかという、天に向かって“そこから降りてこい!”みたいな気持ちになっていて。その時にちょうど手塚治虫の『火の鳥』を読んでいて、火の鳥は永遠に生きてるんだけど、定期的に燃え尽きて、灰の中からまた生まれることが書いてあって、区切りはあるんだなと。一度ちゃんと死を通過して、次の命につなげていく、そのシステムがあったらいいのにと思ったんですね。私も何回も生まれ変われたらいいのにと思って、よし、「火の鳥」という曲を書こうと。
── あぁ。なるほど。
黒木:だけど、戦う意思はあるんだけど、心はまだボロボロみたいな。その不安定な感じを音にも反映させたくて、この曲の駆け上がっていくコード進行は“飛翔”と呼んでるパートなんですけど、そのあとに墜落したような音を入れたりとか。そうやって抗っている姿がきっと一番美しいんだという気持ちで作りました。この曲は、レコーディングがぐっときましたね。
── ライブと同じバンドメンバーですよね。
黒木:みんなすごい気合入ってました。宮川(トモユキ)さんは、レコーディングに初参加だったということもあって、一番気合い入ってたかもしれない。キムさんも、初めて会った時には私の曲を知らなくて、“歌詞を読んで、その中から踊る曲を決めていいですか?”って言われたんですよ。そしたらまっすぐに「火の鳥」を指して、“僕はこの曲で踊ります”と。
▲<音楽の乱>東京公演


── 力のある曲です。「火の鳥」と「解放区への旅」の、リード曲争いがあったわけですか。
黒木:いや、リード曲はスタッフ含め色々な人の意見も聞いて決めました。やっぱり「解放区への旅」がリードという意見が多かったですね。気持ちは「火の鳥」のほうに入ってたけど、でも「解放区への旅」でカラッと復活するのも自分らしい気がするし。「火の鳥」はちょっとヘビーじゃないですか。それよりは「解放区への旅」で、明るく笑いながら復活するほうが性に合ってると思います。
── シングルを出して、復活ライブを果たして。一つ壁を抜けた感覚はありますか。
黒木:あります。曲ができて、ライブをやって、自信を取り返したし。まだまだ、悔しい思いもしていくと思うんですよ。だけど、気持ちの支えは出来上がったと思います。
▲<音楽の乱>東京公演


── このあと、ツアーは12月まで、合計4本。
黒木:けっこう間があくので、またトレーニングしながら頑張ります。
── 伊藤キムさんとのコラボを見て思ったんですけどね。音楽だけじゃなく、アートやパフォーマンスと連動するライブのやり方は、黒木さんにぴったりじゃないですか。
黒木:そういう人になっていきたいですね。せっかくどん底から這い上がってきたんだから、ルールなしで何でもやっちゃうみたいな。映像作家とコラボとかやってみたいし、プラネタリムでも歌ってみたい。やりたいことはまだまだたくさんあります。
取材・文◎宮本英夫

ライブ写真撮影◎椋尾詩
  ◆  ◆  ◆
黒木渚 ONEMAN LIVE<音楽の乱>


9/24(日)渋谷O-EAST ※SOLD OUT

16:00/17:00

チケット料金:¥4,800-(+1 drink)
10/7(土)福岡スカラエスパシオ

17:00/18:00

チケット料金:¥4,300-(+1 drink)
[追加公演]

12/1(金)大阪 BIGCAT

18:30/19:30

チケット料金:¥4,300-(+1 drink)
12/15(金)名古屋 Diamond Hall

18:30/19:30

チケット料金:¥4,300-(+1 drink)
■9/5(火)23:59まで オフィシャルHP2次先行受付中

URL:http://eplus.jp/kn17t-hp2/

※PC&携帯(i-mode・ezweb・yahoo!ケータイ)

シングル「解放区への旅」

2017年9月20日発売

【CD収録曲】

1. 解放区への旅

2. 灯台

3. 火の鳥

4. ブルー
■初回限定盤 A

CD+DVD(Music Video Clips vol.2)

¥2,300+税 / LASCD-0080

-DVD収録曲-

・虎視眈々と淡々と

・君が私をダメにする

・大予言

・ふざけんな世界、ふざけろよ

・カイワレ
■初回限定盤 B

CD+冊子(小説「やとわれ地蔵」)

¥2,300+税 / LASCD-0081
■通常盤

CD

¥1,200+税 / LASCD-0082

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