Jプログレ界黎明期を支えた伝説のバンド、シェラザードが結成40周年を迎え、全編新曲によるアルバム『once more』を発表した。体調を崩していた時期もあったが、それを乗り越えて楽曲を完成させたというコンポーザーの平山照継(Gu)にメールインタビューに答えてもらった。
過去にDVD化された2011年11月19日の恵比寿LIVE GATE TOKYOでのライヴの時に“今さら新曲は〜”ということを言われていたので、全新曲のアルバムが出るとは驚きでした。
2011年のライヴで言ったことは覚えていませんが、“今さら新曲はやらない”というようなことを言ったのなら、当時のシェラザードは再現バンドであり、セルフカバーでファンに楽しんでもらうという意識(コンセプト)で活動していたと思われます。そのあとに“どうせなら前向きな活動を”と新曲も考え始めたということなのでしょう。
新曲はいつ頃から作り始めたのですか?
それはやはりシェラザードでやるためのものになるのですか? 曲によっては平山さんのソロプロジェクトであるTERU'S SYMPHONIAでもやれそうなものがあるなと思ったのですが。
もちろんシェラザードのためだけの創作です。私の作るものなので、テルシン向きの楽曲も出てくるでしょうね。
1992年の再結成の時に発表したアルバム『Scheherazade』にも新曲が収録されていましたが、やはりその時とはバンドに対する意識だったり、作ろうとした曲のイメージは違ったのでしょうか?
1992年の時も今回も、あと2002年にもシェラザードで2曲作っておりますが、基本は同じですね。新曲を作る時は前向きな活動を意図しています。現在、私にとって活動できるバンドはシェラザードのみですので、ノヴェラ、テルシン、シェラザードの垣根を取っ払ったようなものになればとは思ってました。
今回のアルバムですが、どんなビジョンを持って制作されたのですか? 何かメンバーと話し合ったりされたのでしょうか?
上記のようなことを意識していましたね。特にメンバーと話し合ったわけではありません。他のメンバーの楽曲提供があればコンセプトも変わっていたかもしれませんが、なかったのでこういうかたちにさせてもらいました。
1曲目の「ROCK'N ROLL DIVA」は重ためのR&Rナンバーなのですが、パソコンを買って、初めてDAW(音楽制作ソフトウェア)を使って作った曲だそうですね。
まだパソコンも使えず、DAWなど入れてみたものの、さっぱり分かりませんでした(笑)。なので、デフォルトの状態でしか打ち込めなかったのです。テンポチェンジや拍子の設定も分からず、とりあえずそのまま打ち込んでみようということで作り始めました。専門用語も分からず、“デフォルト”の意味さえ知りませんでしたから苦労しました…。
「虚言」は2曲目にして10分オーバーの大曲なのですが、ドラマチックな展開であり、歌詞が描く世界で引き込まれて、時間的な長さはまったく感じませんでした。
最初は5〜6分の曲になればと思っていました。インストのメロと歌メロが基本同じなので、自然な流れが作れて長く感じさせないのかもしれませんね。
ナチュラルな歌声とハイトーンとを使い分けて、歌詞の中の“あなた”と“君”を演じているのは、まさに五十嵐さんのヴォーカルならではと思うのですが、それもイメージされていたのですか?
もちろん五十嵐の音域を意識して考えました。男と女の会話が成り立つと。本の主人公の彼氏と読み手の彼女が出会う、2次元と3次元の不思議な世界ですね。筒井康隆さんの『虚人たち』や映画『ネバーエンディング・ストーリー』などにヒントを得ました。
「GAIA VIRUS」はスリリングなサウンドと歌詞の持つ緊迫感がリンクしていて、映画のクライマックスシーンを観ているような感覚になりました。
私が時々作るSF系です(笑)。独自のギターリフの曲を作ってみたくて。
あと、《どんな命でも 守るべきなのか?》というフレーズで終わるのも意味深で。
“命を大切に”という漠然とした命題に疑問を持っていたので。自分たちの命を奪う命、それが有るとすれば敵ですからね。地球もひとつの命だとするとそれを脅かす存在は排除しなければ…。
「揺るぎなき世界」はやさしさと温もりのあるメッセージソングだなと。《これはドラマじゃない》という言葉がリアルで印象的でした。
これは震災を体験した時から、避けては通れない問題だと思っていました。自分も被災者ながらテレビで流される映像は夢でも見ている気分でしたので、《これはドラマじゃない》なのです。
「Get to My Heart You Turn it Up」はブリッジ部分のピアノソロなど、ジャジーなアプローチもあるのですが、軽快なものではなく、どこか鬱屈しているような感じで。《傷つきたくなかっただけさ 逃げたわけじゃない》というフレーズにも共感してしまうのですが…。
私は無類の酒飲みでしたが、家庭の事情などから断酒を余儀なくされ、5年半前から1滴も飲んでおりません。その切なさと酒を彼女に見立てた、何とも言えない曲です。なので、鬱屈してるのは正解でしょう。ジャジーなアプローチは過去に「魅惑劇」などでも実践しておりますが、シェラザードはこういうアプローチも似合うと思いますね。難しいですが(笑)。
ライヴの絵が浮かぶHRチューン「Child in Time」は、“そらに星が投げられる”“地球のネジが巻かれる”“悠久のとき”…と過去曲を匂わす言葉であり、フレーズが散りばめられているのが印象的でした。
シェラザード流のHRナンバーですね。斬新でメロディック、初めてドロップDで録音しました。私は変則チューニングは嫌いなのですが…。歌詞は知っている人だけがニヤリとできるというファンサービスのようなものです。
「夜の散文詩」は内なる闇に向かっている感じで、もがき疲れているような印象を受けたのですが。
この曲は入院中に病室にパソコンとギターなどを持ち込んで作りました(手術前ですが)。ある種の死刑宣告であったので、正に暗中模索です…。
こういう曲のヴォーカルのディレクションも平山さんがされるのですか?
五十嵐が歌うことを想定して曲は作りますので、一切のオーダーはしません。40年の付き合いですから(笑)。お任せです。
ラストを飾る「Once More Something」はサウンドはポップに弾けていて、《どんなことでも どうでも良い 折りたたんでポッケに仕舞え!》というメッセージもあって、鬱々とした気持ちを蹴散らすような印象がありました。《ときめいたことは 生きてること 生まれて死ぬまで 生きていた だけ》のフレーズがアルバムを締めるのも興味深いなと。
この曲も入院中に作り、退院してから歌詞を乗せました。客観的に見ますと生きていること(命そのもの)に意味はありませんが、主観的には一番大事なもの(意味のあるもの)になります。説明は難しいですが、まだ生きていけるという想いが書かせた歌詞でありましょう。《ポッケに仕舞え》は恥ずかしいですね(笑)。
今回のレコーディング等で何かエピソードがあれば教えてください。
今回のアルバムの曲は私が作った順番に収まっています。リリースが決まって曲順を考えましたが、これ以外の選択肢は考えられませんでした。
平山さんの中で今回の収録曲で、思い入れのある曲を挙げるとするとどれになりますか?
どれか1曲となると「揺るぎなき世界」でしょうか。自分で作りながら涙が止まりませんでした。おかしな話でしょうが、ほんとです。
このアルバムに“one more”というタイトルを掲げた想いを教えてください。
“one more”…“もう一度”のひと言に尽きますね。“もう一度”があれば、そこには希望が生じます。日々の生活、いろいろあると思います。嫌なこと、辛いこと、哀しいこと。でも、生きていればこそです。どうせ死ぬんだからそれまで生きてりゃ良いのです。ダメでも“もう一度”があります。
今回のアルバムですが、どんな作品が作れたと実感していますか?
現在のシェラザードの姿です。40年前と変わっていないのかもしれないし…。聴いてもらえれば一目瞭然、って感じのアルバムに仕上がったと思います。
取材:石田博嗣
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アルバム『once more』2017年9月27日発売
NEXUS/KING RECORDS
- 【完全限定プレス盤】
- KICS-93526 ¥3,300(税抜)
- ※紙ジャケット&SHM-CD仕様
- 【通常盤】
- KICS-3526 ¥3,000(税抜)
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『シェラザード結成40周年&ニュー・アルバム「once more」発売記念ライヴ』
10/14(土) 大阪・心斎橋 soma
10/21(土) 東京・吉祥寺 ROCK JOINT GB
シェラザード:1977年3月に大阪で結成。79年に『ロッキンf』誌のアマチュアバンドコンテストでグランプリを獲得するが解散。しかし、関西ライヴハウスシーンで人気を二分していた山水館のメンバーと合体し、ノヴェラが誕生。関西HR/HM系はもちろん、ノヴェラが影響を与えたバンドは数知れないことは周知の通り。シェラザードは99年に再結成され、初めてのアルバム『Scheherazade』をリリース。その後も不定期ながら再集結し、2010年に『オール・フォー・ワン』を、11年に『THE ORIGINAL~Songs for Scheherazade』を発表した。Scheherazade オフィシャルHP