【ライブレポート】<VISUAL JAPAN
SUMMIT 2016>3日目前編…朝からライ
ブハウス化。午前帯6組の真剣アクト

あの無敵バンドをも含めれば、のべ60組を超えるバンドのステージを観続けてきた3日間。そのすべてを同じ鮮明さで記憶できているかと問われれば、確かに怪しいところもあるし、さすがに集中力が途切れてしまう局面というのも幾度か訪れはした。が、BARKSからレポートを任された最終日については、一瞬たりとも見落とすことのないよう、全出演者のステージの一部始終を観てきたつもりだ。もちろん出演者のなかには、すでに何度観てきたかわからないバンドも、初めて目撃するバンドも含まれている。そうした意味において、すべてについて完全に均一な深度での解釈をすることなど不可能といえるわけだが、少なくとも僕という定点から捉えたものとして読者には受け止めていただければ幸いだ。僕自身の記憶が薄まらぬうちに、さっそくあれこれと綴っていくことにしよう。
午前9時、VISUAL STAGEの幕が開くと、そこには死霊のごときたたずまいをした白装束の4人が。ぞんび、である。ZOMBIEでもゾンビでもなく、ぞんび。その字面の感触が象徴しているように、そこに深刻な暗さやホラー感は伴っていない。十字架を模したマイク・スタンドに向かいながら歌う奏多の振り付けを伴ったムーヴに、フロア前方の観客が同調する。開演前にGEORGE(LADIESROOM)とともに司会進行役としてステージに登場した逹瑯(MUCC)が「もうすぐそのへんが高田馬場AREAになる」なんてことを口にして笑いを誘っていた(さすがに3日もこの役割を務めていると司会術も板についてくるものである)。
そのAREAにはもう長いこと足を運んでいない僕が言うのもナンだが、幕張メッセという巨大空間のごく一部がまさにライヴハウスと化していたことは間違いない。そして、ぞんびのパフォーマンス自体も、コンセプトのわりにはいい意味でごく真っ当なもの。歌謡テイストや女性目線の表現などについてはいくつかの先達もいるだけに斬新さは感じないが、「朝の9時から集まってもらって悪いんですけど、死んじゃうくらい暴れてみませんか?」という煽りを伴いながら披露されたラスト・チューン「死ねばいいのに。」はなかなか印象的だった。ただ、ステージ上の奏多(Vo)が言うように「朝からこんなこと言えるの、ここぐらいしかない」というのは確かだが、すでに一度死んでいるからこそもう死ぬことのない死霊たちが「死んじまえ!」と叫ぶ光景には「ちょっとコンセプトが矛盾してないか?」と突っ込みたくなりもした。彼らの言う「一緒に死んでくれますか?」というのは、「一緒に死霊になりませんか?」ということなのかもしれない。
続いて、JAPAN STAGEの一番手として登場したのはTHE MICRO HEAD 4N’S。ダンス・ビートが鳴り響くなかで配置についたメンバーたちが最初の一音を鳴らした瞬間、その説得力に眠気が吹き飛ばされた。敢えて乱暴な言い方をさせてもらうならば、FANATIC◇CRISISのギター・チームとD'espairsRayのリズム・セクションの合体を基盤とし、そこに新進ヴォーカリストを据えた形で成立しているこのバンドだが、その2組のバンドについては、ずっと続いていたならばメイン・ステージの美味しい時間帯に出演していてもおかしくないはず。そんな4人が鳴らす音はさすがに貫禄充分だし、安心して聴いていられる。こうしたイベントでは、ステージ上でのサウンドチェックもろくにできないのが常だが、そうしたところでの不安感がまるでないし、やはり聴こえてくる音自体が、経験の浅いバンドとは明らかに違う。
実際、音響が最重視されているわけではないこうした大型会場においては、観る側がどこに立っているかによって音の聴こえ方にも大きな差が生じてくるわけで、僕自身は(フロアを行き来できる環境である限りは)3日間を通じてなるべく複数のポジションから音を聴くようにし、公平なジャッジをしようと務めたつもりだが、このバンドの発する音は、ステージ正面の一帯を離れたところでも良好なバランスで聴こえた。そうしたところにも、いわゆる“バンド力”の違いがうかがえたし、フロントマンのNimoがそれに負けていなかったことも付け加えておきたい。正直、楽曲そのものについてはあまり独創的だとは思えなかったが、実力者揃いであるだけに、チャンスひとつで大きなステップ・アップを遂げることになるのではないだろうか。
「幕張ーっ、元気? もうちょっと待っててね!」

まだVISUALステージの幕が閉ざされているうちから聞こえてきたこのメッセージに、場内が沸く。声の主は、団長(Vo)。次なる出演者は、彼が率いるNoGoDだ。白塗りのメイクを施した彼のたたずまいは、ヴィジュアル系の王道(というのが何を指すのかというのはさておき)からは距離感のある、トボケた味わいを伴ったもの。彼のまわりを固めるメンバーたちのたたずまいも、ストイックで気高いというのではなく、親しみやすいものだ。しかしメロディとウタゴコロの伴ったハード・エッジなロックとしての王道性に濁りは感じられないし、演奏ぶりからも真摯さが伝わってくる。音響的な事情からか、やや音がこもり気味に感じられ、肝心の団長の歌声が抜けの良い感じで聴こえてこなかったのが悔やまれるところではあったが、このバンドならではの持ち味というのは充分に発揮されていたのではないだろうか。
最後の最後、「We are……?」とオーディエンスに呼びかけ、「X!」という当然のリアクションを獲得しながら、「NoGoDだっつーの!」とかわして笑いを巻き起こす、お茶目なセンスも彼らならではだ。公演初日のトップバッターを務めたX-SUGINAMIでもフロントマンを務め、さまざまな場面に顔を出していた団長は、このイベント全体を通じての、隠れたMVPの一人だったと言えるかもしれない。
NoGoDの余韻が残るなか、午前10時を15分ほど過ぎた頃に場内はふたたび暗転。JAPANステージの二番手となるゴシップのライヴは「声ちょうだい!」という第一声から始まった。この言葉は今や、「いけるか!」とか「かかってこい!」に並ぶ煽りワードの基本形のひとつに数えられているようで、3日間を通じ、彼らに限らずいくつものバンドの演奏中に耳にさせられた。赤と黒を基調にした統一感のあるコスチュームで演奏するこの5人組のライヴを観るのは僕自身にとって初めてのことだが、強固な固定層をつかんでいることは、フロア前方のライヴハウス然とした盛り上がりからもうかがうことができる。
「♪囲メ囲メ/リンチはつづくよ どこまでも」といった物騒でありつつも世相が反映された歌詞がちゃんと耳に届いてくるのは、フロントマンである朔-saku-の歌声にちゃんと力があるからだろう。ただ、随所にみられるファルセット使いには少しばかり疑問をおぼえた。せっかくの声の力が、そこで半減しているように感じられたからだ。とはいえ、バンド側はこの日、限られた枠のなかでギリギリまで自分たちをアピールすることには成功したのではないだろうか。その証拠に、メンバーたちがステージを去ろうとするや否や、幕が閉じ始めた。こうした長時間のイベントにおいてはタイムテーブル厳守が鉄則(ヘッドライナーたちはそれを守れていたのか、というのはともかく)。彼らはまさに、その限界寸前に演奏を終えたのだった。
ダンス・ビートが鳴り響くなか、続いてVISUAL STAGEに姿を見せたのはダウト。「始めようか、幕張!」という第一声とともに、真っ赤な照明に塗りつぶされた空間でオープニング・チューンの「感電18号」が炸裂する。このバンドも実は初めて観たのだが、フロントマン、幸樹の声質が独特で、それ自体がある意味フックになっている。つまり、彼の声質についての好き嫌いがこのバンドを好きになるか否かの決め手にもなってくるわけだが、僕自身としては、その特徴的な声を楽曲的にもサウンド的にもまだ活かしきれていないという印象を抱かざるを得なかった。また、もしかすると緊張感ゆえの硬さが残っていたのかもしれないが、終盤のポップな楽曲などではもう少し若々しい躍動感が欲しかったようにも思う。特に極端な弱点が目に付いたわけでもなく、むしろヴォーカルの個性を強調するうえでのもっと有効な手段を見つけることができれば、このバンドも飛躍を遂げ得るのではないだろうか。三三七拍子で観衆をひとつに束ねて彼らがステージから去っていったのは、時計の針はようやく午前11時を過ぎた頃のことだった。
「ボンジュール、VISUAL JAPAN SUMMIT 2016!」

この一言で、次なる出演者が誰だったかはご理解いただけるに違いない。発言の主は、KAMIJO(Vo)。この夏に完全復活ライヴを行ない、去る9月には全曲新録音によるベスト・アルバム『The Greatest Hits 2007-2016』を発表しているVersaillesが、JAPAN STAGEの三番手として登場した。薔薇の末裔という別称に相応しく、ドラム・セットには赤い薔薇が絡みついており、王宮内の舞踏会さながらのいでたちと相まって、華々しい空気を醸し出している。
限られた演奏時間のなかにできるだけ数多くの楽曲を詰め込もうとするバンドもいるが、彼らの場合はそもそも楽曲のあり方自体がコンパクトではないだけに、そうしたアプローチをすることには無理がある。結果、この日の彼らが披露したのはわずか3曲。しかし、水準の高い演奏をもって1曲1曲の持つドラマをその場に構築してみせた彼らは、自身の特性を存分に発揮していたといえるし、やはりそのミュージシャンシップの高さは印象に残った。KAMIJOが、ベートーヴェンの時代を引き合いに出しながら、ヴィジュアル系がクラシックになり得るものだという話をした場面ではさすがに少々驚かされたが、同時に、表現者の側にはそれくらいの自意識が備わっているべきではないかという気もする。また、たとえば楽曲自体がいわゆるスピード・メタル然としたものであろうと、それがその典型には聴こえてこないのがこのバンドの興味深さでもある。
最後の最後、KAMIJOは「俺たちがVersaillesだ!」と叫びながらも、その直後「メルシー・ボク」と言い残し、華々しい残り香のような余韻に包まれながらステージを去った。来年2月のヴァレンタイン・デーには日本武道館公演が控えていたりもする彼ら。そこにどのような風景を作り上げてくれるのかも楽しみなところだ。
取材・文◎増田勇一

写真:VISUAL JAPAN SUMMIT 2016 Powered by Rakuten

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