金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第2回「プログレ
”布教”奮闘記~小学校編~」

プログレを青少年に広めようという連載企画、第2弾である。
プログレを聞き始め、演奏を始めて26年。プログレ・バンド「金属恵比須」を主宰し、10月14日にはプログレの聖地「シルバーエレファント」でワンマン・ライヴを行なうなど、精力的にプログレの“布教”活動をしている。
そんな私が今まで行なってきた“布教”活動を思い返してみたい。
父親が70年代ロックのファンで、物心ついたころには、シカゴやピンク・フロイドのレコードが大音量で流されていた環境に育った。
小学校5年生。ちょうどレコードからCDへのメディアの移行期で、父がディープ・パープルのベスト盤CDを買ってきた。休日の朝はかならず「ハイウェイ・スター」が流れるような週末。そのうち、休日ではなくてもみずからそのCDをかけるようになり、ロックの道に目覚めたのが最初である。
その後、父がかつて録画していたビデオが見つかる。88年にフジテレビの深夜に放映されていた『アトランティック40周年記念コンサート』をみるようになり、それに出演していたレッド・ツェッペリンに熱狂し、イエスでプログレの道へと入ったのが最初である。
1991年当時、巷ではチャゲ&アスカ「SAY YES」が大ヒット。同級生に「イエス(プログレ・バンド)」と言ってほしかったが、なかなか叶わなかった。
とにかく同級生児童に多く聞いてもらうことが“布教”になるかと思い、学期の終わりごろに開催されるクラスのお楽しみ会のイス取りゲームの音響担当を買って出た。
そこで選曲したのはイエス「チャンスも経験もいらない(No Opportunity Necessary, No Experience Needed)」。
イエス「チャンスも経験もいらない」

「軽快でいい曲だろ~、「SAY YES」よりも「イエス」のほうがコーラスきれいだろ~」――なんて思いながら、CD停止ボタンを押さずについつい聞き込んでしまっていた。同級生たちは視聴覚室に並べられた椅子の周りを延々と回り続けている。
「まだかよ……」という苛立ちの視線に動じもせず、
「もうすぐくるサビがいいんだな~」と、“布教”の悦に入っていた瞬間、バタバタバタとみんなが座りだす。やっとそのときがきたとばかりに殺気立った同級生は死闘を繰り広げた。
否、ボク、まだ、停止ボタン、押してないんだけど……。
――理由はすぐにわかった。サビに入るときに「♪ジャン!」といった直後、一瞬だけ無音となり、歌が始まる。その一瞬の無音で、座る瞬間を待ちわびていた同級生がほぼ全員過剰反応してしまったのだった。
私は審判も兼ねていたので「今のはヒッカケです!」とその場を取り繕い、威厳を保った。
「ずりーよ!」「ヒキョーだよ!」なる無数の罵詈雑言を浴びながらも、彼らをすべて失格にした。残ったのは全くやる気のないヤンキー候補2人となり、虚しい椅子取りゲームは続行したのだった。
クラス内で、「高木が聴くのは、いきなり止まるわけわかんない音楽」という印象が根付いてしまい、以降、クラスでは“邪教”となり、“布教”活動ができなくなってしまった。
クラスではあきらめた。
では、学年で権威ある同級生を“洗脳”し、トップダウンで広めるのはどうかと思い立った。小学校での権威とはすなわち、ガキ大将(以下「ジャイアン」と呼ぶ)で、受け皿は手下(以下「スネ夫たち」と呼ぶ)である。
ということで、プログレの“布教”のために、単身、ジャイアンのグループにもぐりこむことに成功する。不安でいっぱいだったが、目的遂行の希望が私を支えた。フランシスコ・ザビエルはこんな気持ちだったのではないかと想像した。
ジャイアンのグループは、児童館にタムロしていたので、そこにあるラジカセを借り、寝転がって漫画を読む脇で、あらゆるロックをサブリミナル的に流した。
ジャイアンは、まずビートルズが好きになった。
ビートルズ「She loves you」

続いてヴァニラ・ファッジも好きになった。
ヴァニラ・ファッジ「You keep me hanging on」

ロックの道になんとか引き込むことに成功した。次なるはプログレである。
ジャイアンに合うプログレはなんだろう……。やはりヴァイオレンスな集団なので、血の気の多いものがいい。――思いついたのが、エマーソン・レイク&パーマー(ELP)だった。
オルガンの上にまたがりロデオの真似をする、鍵盤の上にナイフを突き刺す、挙句の果てには蹴り倒すという過激なパフォーマンスは、狙い通り大受けだった。
特に、「ロンド」におけるクライマックスのグリッサンド奏法(鍵盤の上を高速で掌でこする弾き方)は、「♪チャートゥルル」との愛称で後の不良集団に親しまれたのである。
エマーソン・レイク&パーマー「トルコ風ブルーロンド」

児童館には、ELPの使用するオルガンの形に似たエレクトーンがあったので、私はその真似を始めるとジャイアンは喜んだ。エレクトーンにまたがりガッシャーンガッシャーンと揺らしたりすると、これまた喜んだ。東急ハンズで買ってきたサバイバルナイフの形をしたオモチャを鍵盤にぶっ刺したら、これも腹を抱えて笑ってくれた。
ジャイアン軍団には、どうやらプログレが浸透したようだった。“布教”の成果があった。
喜びをかみしめ、ある日、1人で児童館へと赴いた。「ロンド」だけではつまらないと思い、次はELPの前身バンドであるナイスの「カレリア組曲」を練習するためだった。この曲にも同じようなパフォーマンスがある。
ナイス「カレリア組曲」

するとどうだろう。エレクトーンの鍵盤が半分もぎ取られていたのである。
どうやら、私の過激なパフォーマンスをあまりにジャイアンが喜ぶもので、ご機嫌を取ろうとしたスネ夫たちが、それを真似したようだった。
私は一応楽器の限界を考えながら行なっていたため、エレクトーンをほぼ壊さずに済んでいた(それでもナイフのオモチャの影響により、高いファは鳴らなくなっていた)。しかし、楽器のこともわからず、ましていわんや血気盛んな輩だけあって、スネ夫たちはエレクトーンを壊せばいいのだと勘違いをしたようなのだ。
無残なかたちのエレクトーンを前に呆然と立ち尽くす私。
とりあえず、「カレリア組曲」の最初のメロディを弾こうとしたが、黒鍵しかなく、シ♭しか鳴らせない。
下の鍵盤はまだかろうじて残っていたので、仕方なく「ロンド」の「♪チャートゥルル」の「♪トゥルル」部分――すなわちグリッサンド奏法を弾いてみた。
すると、左手の甲の皮が剝けてしまった。
右手の「♪チャー」は鍵盤がないので弾けず、左手の「♪トゥルル」は怪我をして弾けず。
プログレ“布教”のために血の気の多い集団に入ったのに、ケンカで血を流すこともなく、楽器の「返り血」を浴びるという非常に情けない小学校時代を過ごしたのだった。
こうしてジャイアンからのトップダウン式“布教”にも終わりを告げたのだった。こうして次なる策を考えるのである。
(以下次回)

公演情報
金属恵比須ワンマン・ライヴ「戦国恵比須」~歴史は我々に何をさせようとしているのか?~
■日時:2017年10月14日(土)18:30開演
■会場:SILVER ELEPHANT(東京・吉祥寺)
■チケット一般発売:2017年8月19日(土)11:00
■出演:金属恵比須
vo.稲益宏美
b.栗谷秀貴
dr.後藤マスヒロ(ex.人間椅子頭脳警察・GERARD)
g.vo.高木大地
key.宮嶋健一
■公式サイト:http://yebis-jp.com
(9/25時点で前売完売)

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