舞台『オーランドー』インタビュー 
小芝風花×戸次重幸×池田鉄洋×野間
口徹「芸術家・白井晃と我々との戦い
の結末を観にきて!」

2017年秋、ヴァージニア・ウルフ原作、サラ・ルール翻案・脚本の舞台『オーランドー』がKAAT神奈川芸術劇場の公演を皮切りに、東京、松本、兵庫にて上演される。一夜にして女性へと変貌し、真実の愛を追求して16世紀から20世紀までを生きる美貌の青年貴族オーランドーを演じるのは多部未華子。オーランドーを寵愛するエリザベス女王には小日向文世。そして、小芝風花、戸次重幸、池田鉄洋、野間口徹がオーランドーの数奇な運命の中で巡り会う人々を演じる。合計6名で20人ものキャラクターを担う、なんとも不思議な舞台だ。
8月1日から少しずつ稽古を始め、のべ2週間ほどをかけてこの日初めて、全5幕すべての立ち稽古が終わった。「やっと終わりまでいけた」と安心した表情を浮かべる稽古終了後の小芝、戸次、池田、野間口の4名。白井晃の演出や、立ち稽古を最後まで行ってみての今の気持ちなどを聞いてみた。

稽古での真のストレスは、まだこれから
――初めて最後まで通してやってみて、いかがでしたか?
池田:ほっとしています。1回やってみるまでは手探りだったので大変だったんですが、ここからようやく楽しめるかな。これまでにない役をやるので新鮮な気持ちを味わいながら、「この芝居わりとおもしろいな」と思っています。
野間口:みんなが悩んだりストレスを感じるのはすごくわかりますよ。僕はもう白井さんの演出に慣れすぎていて、「いつもより稽古が進むのが速いなぁ」くらいにしか思わなくなりました。ただ、真のストレスはこれからだよ、と言いたいですね(笑)。
戸次:こわ……TV業界にも白井さんの稽古は大変だって知れ渡っているそうですね。
野間口:こちらが要求しない限り、休憩は取らないかもね。
池田:田山涼成さんの名言……「タバコを吸わせてくれえ~!」
小芝:ええっ!(笑)
野間口:僕とイケテツ(池田鉄洋)さんが出演していた『4 four』という舞台の時だよね。3時間くらいぶっ通しで稽古した時に田山さんがなかば土下座に近い形で頼んだら、白井さんは「ああ、もうこんな時間か。じゃあ10分休憩しましょう」って。
池田:10分かい!ってね。
小芝:(爆笑)
野間口:たぶん白井さんとしては稽古は進んでいるんでしょうけど、役者には何も手がかりがないからストレスを感じるんですよね。白井さんは、本人のなかで十中八九ないだろうということでも、とりあえず「やってみて」と言うんです。ダメなのかどうかを確認したいから一度動いているのを見てみたいんじゃないかな。初参加の方々にとっては「さっきのは違ったんだ、また別のことをやるんだ……」となると思うんですよ。
戸次:今聞いてすごくストンと落ちました。あ、披露宴にのぞむ花嫁のドレス選びと一緒だなあ〜と。とっくに正解は最初からわかってるんだけど、これが正解だって確かめるために2着3着と着るんだな、と。
野間口:白井さんの確認作業なんでしょうね。一度ちゃんと拾ってから捨てたい。「うんこかな?」「うんこでしたー!」って。
戸次:例えが悪い!
小芝:かりんとうかもしれないですもんね!
野間口:風花ちゃん、ノるところじゃないからね!?(笑)
小芝風花  撮影=岡千里
最後のシーンを終えて「ほっとしているけど、怖い」
――稽古場でも明るい小芝さんがムードメーカーですね。今回は多部さん演じるオーランドーが恋をするサーシャを演じますが、どうですか?
小芝:最初に台本を読んだ時の感想は、すごく難しいな、と。言葉も遠回しなものが多くて、観ている人にわかるのかなあと不安だったんですけれど、稽古場で動きがついてきたら「楽しそう!」って思いました。6人で20役をバタバタと演じて、役者が舞台セットも動かして、少人数で一生懸命やってるので見ごたえがあります。物語は人によっていろんな捉え方があるけれど、「すごく楽しかったね、あっという間だったね」って感じるような作品になったらいいな。
池田:最初に「わかるのかなあ」って思った感覚はすごく僕もわかる。そこは忘れちゃいけない。
小芝:自分の役もまだわからないんですよ。どういうふうにオーランドーを誘惑したらいいんだろう……とか。すでに小日向(文世)さんは稽古でどんどんアイデアを出されていますが、私にはアイデアがない。どうなるのか少し怖かったので、早く最後のシーンまで終わらないかなと思っていました。でも最後の方は楽しかったです。なにより、今回の出演者の方が大ベテランの方ばかりなので勉強になります!
野間口:大ベテランではないよ! こひさん(小日向)だけだよ!
小芝:でもみなさんTVや映画・舞台で観ていてすごいなとずっと思っていた方ばかりなので、もともと不安だったんです。このメンバーの中に立って、観てくださったお客さんに「あ、やっぱり小芝は若いな」と思われたくない。ちゃんと6人で創っている一員に入りたいという思いで参加してきました。今日やっと全編通したので、明日からは少しずつ役をつかんでいきたいです。
野間口:う~ん……でもここからぶっこわす作業が始まると思う。
小芝:え?
野間口:白井さんは「大枠はとりあえず決めました。さて、どうはみ出ます?」という創り方が好きな方なので。
戸次:はみ出ていいのかな?
野間口:いいよ! ルールにのっとる必要も全然ない。白井さんは「そういうふうにはみ出るんだったらこう変えようか」という柔軟性がある方なので、これからははみ出る作業が始まりますよ。
小芝:怖い~!
野間口:こわくないない、こっちの好きにやればいいんだもん。「白井さんはこう言ったけど私はその時こっちに動きたい」と思ったらそっちに動いてみればいい。
池田:風花ちゃんは最後の方は楽しかったって言ったじゃん。そのままもっと楽しめばいいよ。こひさんを見ていれば正解が見えるんじゃないかな。あの人は「なんとなく楽しい!」じゃなくて積極的に「楽しまなきゃ!」と思っている人だから、あの人を見ていれば大丈夫です。我々もこひさんを見ていますし、勉強になるよ。
――力強いアドバイスですね!
小芝:ありがたいです。『オーランドー』の稽古に入る前に、学ぶことしかないよ、と先輩方から言ってもらいました。だからスポンジになれるように頑張ろうと思って、いっぱい吸収できるように絞ってきました! 小日向さんたちにご飯屋さんに連れて行っていただいた時も、いろんな話をしてくださるのがすごく嬉しいんです。
――戸次さんは、最後まで通してみていかがですか?
戸次:ストレスという言葉が出ていますけれど、俺は役者の仕事をものすごくドライにやっているんですよ。映像だったら監督さん、舞台だったら演出家さんに言われたことを仮におかしいと思ってもまずやってみる。でも今の稽古は「ちょっとお任せしますから」というふうに指示が明確じゃない時もあるから、「あ、俺、ストレス感じているのかもな」と思っていました。でもとりあえず最後まで通したから、すごくほっとしているんです。ここからさらに稽古して、徐々に見えてきた自分のアイデアややりたいことを出していこうかなと思っていたんですが……今、野間口さんが「さあここからぶっ壊し作業だ」と言うから、怖くてしょうがない(笑)。
野間口:確認および再構築になると思いますね。白井さんは効率よくやろうとは考えていないんじゃないかな。
戸次:芸術家ですよね。絶対にいわゆる“職業演出家”ではないスタンスで稽古場にいる。だから評価を得ている方なんだと思います。
戸次重幸  撮影=岡千里

6人で20役とスタッフワークもこなす
――『オーランドー』は6名で20役を演じます。いったいどうなるんでしょう?
戸次:何役もやるのは『オーランドー』の見どころの一つですね。しかも男女どちらも演じます。
野間口:3人(野間口、池田、戸次)でそれぞれ5役くらいやってますよね。でも役が多いことはあまり意識していない。役がパッと切り替わる瞬間もあるし、ずるっとゆっくりと変わる瞬間もある。
池田:私も野間口くんもコントをやっているけど、それとは違う。コントでは「次の瞬間はこの役」と切り替えることに慣れていますが、それじゃ面白くない。あと、着替える時間がないので衣装で役を変えることもできそうにないですね。
野間口:チラシほどの衣装はつくりこめないですよね。チラシでハードル上げすぎかも!
――チラシはメイクもカツラも衣装もメルヘンチックでお洒落ですよね
池田:チラシを見て「来たい」と思った人が満足できるような可愛らしさを創りたいですよね。
野間口:素のおじさんたちが出てくるかもね……そこは覚悟していただこう。でも、おじさんの格好でチラシの光景が見えるまでを目指します。
――おじさまたち3人は同じ動きをすることもありますが、個性がバラバラで面白いです。
池田:座組みが決まった時に「個性はまったく違うけれどこのメンバーを選んだ白井さんはおもしろがるんだろうな」と思いました。バラバラでありながらお互いをチラチラ見て「どうやる?」と稽古しているのはすごく楽しいです。たまには3人で同じ動きをしてみたり、舞台上での遊び方がいろいろあります。
――楽しそうです! 「白井さんの舞台は大変だ」とおっしゃっていますが、また出たいと思う何かがあるんでしょうね。
戸次:そこ聞きたいですね、先輩方!
池田:前回公演で答えが見つからなかったからってのはあるのよ。白井さんのお芝居は、千秋楽が終わっても大正解が見つからないことも多い。たぶん白井さんは正解なんて求めてないんだろうなあ。白井さんからは本番中もものすごくダメ出しもらいますし。
野間口:うんうん。
池田:演出家の串田(和美)さんとお芝居した時にも思ったんですけど、正解を作らず常に探しておくというおもしろさがあるんだなとわかりました。そうなると達成感はないですけどね。
――明確な正解がなく、家に帰ってもベッドの中でいろいろ考えてしまうのは、白井さんの舞台の魅力でもある気がします。想像力を刺激されるような……。
野間口:そう!白井さんの舞台を好きな人ってそうおっしゃるんですよね。「帰り道もずっと考えていたい」って。
戸次:白井さん自身も「観劇後に『あの時のあれはなんだったんだろう』って議論してほしい」というようなことをおっしゃってたな。
野間口:自分にない考え方だなあ。僕は「なんだかわかんなかったけどおもしろかった!」ってことをやってきたし。
戸次:僕も帰り道では「楽しかったけどよく覚えてないよね」っていうのが良いよなあと思っていたりもします。
池田:白井さんは真反対にいらっしゃる方。5月に拝見した『春のめざめ』では嫌~な気持ちがずっと残ってた。“残す”ことも一つの表現なんだろうなと思いました。
――また白井さんの舞台では、お客さんも「演じていいよ」と言われているような気がします。2016年の『マハゴニー市の興亡』ではお客さんにプラカードを持たせて出演させていました。
池田:『4 four』の時は、お客さんに役者の役柄と同じく裁判員、法務大臣、刑務官、未決囚のカードを渡して芝居に巻き込もうとしましたもんね。でも『オーランドー』は主人公が300年も生きるという話なので、お客さんがついてこられなくなる可能性もある。だからこそしっかりと巻き込んでいかないとなと思います。
――チラシにも書いていますね、『めくるめく冒険の旅にでかけよう!』
池田:そうなるといいな。我々役者がまずお客さんを冒険の旅に連れていければいいですね。
池田鉄洋  撮影=岡千里

コント系俳優vs.芸術系演出家の戦い!?
――最後に、観に来られる方、観に来るか迷っている方にメッセージをお願いします!
戸次:じゃあオレから……劇場で待ってるぜ!
小芝:なにそれずるい~! では私は……女性に観てほしいです。昔は女性が働くことは難しかった。でも男女関係なく自分がいちばんやりたいことをやり、それを生き甲斐とするのは素敵だなと感じた作品なので、女性が観て「ちょっと頑張ろうかな」と思ってもらえたら嬉しいです。
――ある日突然男性が女性になる、という、フェミニズムの要素がある原作ですよね。ちなみに原作者のヴァージニア・ウルフは「女性が小説を書こうとするなら、お金と自分だけの部屋を持たなければならない」と主張した女性小説家です。
池田:たぶんジェンダーについては考えなきゃいけない。とはいえ俺は、女性の気持ちを書いたり理解したりするのが難しいので、脚本を読んで「こんなことが書けるなんて羨ましい」と思います。女性が想像する男性像のようなものも描かれていて、「むらむらした時にはドングリを踏みつぶしたい気持ちだ」というセリフではちょっと笑っちゃいました。でももしかしたら女性が想像する男性の性欲ってそういうことなのかもしれないし、おもしろいことを考えるな、と。最初から「負けました」と敗北宣言してしまうくらいの素晴らしい言葉がたくさんある。あと、多部ちゃんと風花ちゃんの可愛いけどちょっとセクシーなシーンがありますね。ふたりのファンにとってはなかなかの見せ場になるんじゃないかな。
小芝:うわあ、がんばろう~!
野間口徹  撮影=岡千里
――では最後に、白井作品へ出演経験の豊富な野間口さんから……。
野間口:そうですねぇ……おもしろくしますから来てほしいです。
池田:野間口さんはコントをずっとやってきた人だから、笑いに関しては厳しいはず(笑)。たとえ白井さんに反対されても、ちょっとした遊び心はふんだんに入れようと思っているよね。
野間口:そうですね。僕は最初に『オーランドー』を読んだ時はものすごく面白いコメディになるな、と思ったんですけど、白井さんはコメディ寄りにはしてくれないらしいですからね。
戸次:でもね、我々は抵抗しますよ!?
野間口:ぜったいにコメディ寄りにしてやる!
池田:してやる!
戸次:というわけで、コント寄りなた我々と、芸術家・白井晃の戦いの結末やいかに! その成果を見に来てください!
野間口:役者陣の討ち死にっぷりを確認しにきてください(笑)。
小芝:楽しみ~!

 撮影=岡千里

インタビュー・文=河野桃子
公演情報

KAAT✕PARCO プロデュース公演
『オーランドー』
◆日時・会場:
【KAAT公演】2017年9月23日(土・祝)~10月9日(月・祝) KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
【東京公演】2017年10月26日(木)~29日(日) 新国立劇場 中劇場
【松本公演】2017年10月18日(水) まつもと市民芸術館 主ホール​
【兵庫公演】2017年10月21日(土)~22日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
◆原作:ヴァージニア・ウルフ
◆翻案・脚本:サラ・ルール
◆翻訳:小田島恒志/小田島則子
◆演出:白井晃
◆出演:多部未華子 小芝風花 戸次重幸 池田鉄洋 野間口徹 小日向文世
◆お問合せ:
チケットかながわ 0570-015-415 (10:00~18:00)
http://www.kaat.jp
パルコステージ 03-3477-5858 (月~土11:00~19:00/日・祝11:00~15:00)
http://www.parco-play.com/

◆企画・製作:KAAT神奈川芸術劇場、株式会社パルコ

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