客席数480席の心意気、指揮者 牧村邦
彦に今年の「みつなかオペラ」の見ど
ころを聞く!

昨年20周年を迎えた川西市みつなかホール。「市民の芸術、文化の振興に寄与する」事を目的に、川西市に作られた客席数480席のホールだが、ここで制作される《みつなかオペラ》がクラシック界に刺激を与え続けている。開館以来このオペラを指揮するのが、牧村邦彦だ。オペラ指揮者として定評のあるマエストロに、今年の《みつなかオペラ》の見どころを聞いてみた。
ーー 今年の《みつなかオペラ》は、昨年から取り組んでいるプッチーニ・シリーズの第2弾として「妖精ヴィッリ」と「外套」を上演するという事ですが、この二つのオペラを組み合わせた意図は何でしょうか?
牧村 オペレッタ、イタリア喜劇、名作もの、ドニゼッティ、ベッリーニ……。《みつなかオペラ》では3年ごとにテーマを決めてシリーズ化してきました。
プッチーニ・シリーズ第1弾は「マノン・レスコー」(2017年10月) (c)みつなかオペラ実行委員会
今年はプッチーニ・シリーズの2年目で、比較的珍しい作品2本立てでお届けします。「妖精ヴィッリ」はプッチーニ最初のオペラで、24歳の若い作曲家としての意気込みが感じられます。特徴は歌の部分に比べてオーケストラだけの音楽の部分が多く、合唱とバレエを伴うリズム感にあふれた珍しい作品です。その中にも後のプッチーニ作品にみられる美しいメロディーラインを十分感じられる作品に仕上がっています。ドイツの妖精伝説を基につくられたこのオペラのテーマは〈復讐〉。愛を裏切った男には妖精(=魔女)と化した女の復讐がある!……怖いですね(笑)。
「外套」の立ち稽古。ミケーレ役 井原秀人さんとジョルジェッタ役 白石優子さん。 提供:みつなかホール
そして逆に「外套」は女の裏切りに対する男の復讐。未完に終わった「トゥーランドット」を除けば、40歳を越えたプッチーニ最後の作品だけに、作曲技法も格段に進歩しており、熟練の仕事ぶりが光ります。通常、ダンテの「神曲」に対応させ、三部作として「修道女アンジェリカ」「ジャンニ・スキッキ」と一緒に演奏する機会が多いのですが、三部作の上演は、演るほうも聴くほうも負担は相当なもの(笑)。その点、この二作品の組み合わせは、作曲家としての成長過程がよくわかる組み合わせで、テーマ同様にその対比を楽しんでいただけると思います。この組み合わせ、実はプッチーニ自身も望んだ組み合わせだと言われています。
ーー客席数480席のホールで、この規模のオペラを1996年の開館以降、ずっと続けておられます。いろいろとご苦労も多いのではないでしょうか。
「外套」のルイージ役 千代崎元昭さんにスコアを示して話すマエストロ。 提供:みつなかホール
牧村 川西市は文化、芸術に対する理解があり、とても協力的です。《みつなかオペラ》はそのフラッグシップ的な役割も有り、質を落とす訳には参りません。今では歌い手の間でもブランドの一つとして認識されて来ており、毎回のオーディションには本当に素晴らしい歌手が集まります。現在は指揮が私、演出が井原広樹さん、合唱指揮が岩城拓也さん。この3人体制が理想的な形で機能しています。
一番の問題はオーケストラピットが狭く、作曲家の指定通りの楽器編成では演奏できないことです。なので、スコアをリダクションしています。弦楽器は楽器数を減らし、管楽器は別の楽器と組み合わせる《みつなかオペラ》独自のオーケストラ編成です。作品を作った作曲家さんのことを考えると決して胸を張って公言する行為だとは思いませんが、欧米の小さな劇場では普通におこなわれていることです。そしてそれが出来るのは、演奏してくれるのが《ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団》だからだと思います。この楽団はオペラ作品を演奏することに愛情を注いでくれますから。
音楽助手の指揮をチェックするマエストロ 提供:みつなかホール
また昨年から音楽助手を自前で育て、指揮することだけでなく、オペラ公演に携わるための音楽面以外のところも教えています。こういった事もこれからオペラを上演していくために必要なことだと考えています。
もう20年になるのにここまで再演は一本もありません。私自身のキャリア形成の礎となり、共に歩んできた《みつなかオペラ》ですが、来年の「トスカ」で私自身が還暦を迎えます。そんなこともあり、次の世代、次の関西におけるオペラの在り方を危惧している今日この頃です。
ーー 最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。
牧村 今年の《みつなかオペラ》は比較的珍しい二つのオペラをセットでお届け致します。男女の愛と裏切り、そして復讐がテーマです。暗い題材、暗い幕切れ(笑)ですが、その対比をいかにエンタテイメントとして提供できるか、演出家井原広樹の腕が光るところです!
チラシのデザインが既にその対比を上手く表現しています。一度じっくりご覧ください。
今年は本当に良い歌手が揃いました。両日ともに最高のパフォーマンスをお聴きいただけるはずです。ぜひ劇場に足をお運びください。お待ちしております。
細部にまでこだわり抜いたチラシ
取材・文=磯島浩彰
公演情報

第26回みつなかオペラ
G.プッチーニ・シリーズ~そして新たな幕を開けるイタリア・オペラの世界~II
プッチーニ:歌劇「妖精ヴィッリ」全2幕/歌劇「外套」全1幕(原語上演 字幕付き)
■日時:
2017年10月8日(日)16:00開演(15:30開場)
2017年10月9日(月・祝)14:00開演(13:30開場)
■会場:川西市みつなかホール
■指揮:牧村 邦彦
■演出:井原 広樹
■合唱指揮:岩城 拓也
■出演:
[妖精ヴィッリ]全2幕 10/8 | 10/9
アンナ :内藤 里美 | 中嶋 康子
ロベルト :小林 峻 | 水口 健司
グリエルモ :森 寿美 | 迎 肇聡
[外套]全1幕 10/8 | 10/9
ミケーレ :桝 貴志 | 井原 秀人
ジョルジェッタ :並河 寿美 | 白石 優子
ルイージ :松本 薫平 | 千代崎元昭
フルーゴラ :福原寿美枝 | 岸畑真由子
ティンカ :谷口 耕平 | 柏原 保典
タルパ :片桐 直樹 | 松森 治
恋人たち女性 :西上亜月子 | 林 真央
恋人たち男性 :矢野 勇志 | 矢野 勇志
小唄売り :岩城 拓也 | 岩城 拓也
■演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■バレエ:法村友井バレエ団
■合唱:みつなかオペラ合唱団
■料金:一般7,000円、割引(小・中・高生、障がいのある人)4,500円(当日各500円増)
※就学前のお子様の同伴・入場はお断りいたします。
※前売にて完売の場合は、当日券はありませんのでご了承ください。
■問い合わせ:みつなかホール 072-740-1117
■みつなかホール公式サイト:http://www.mitsunaka-bunka.jp/

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