yulayulaz『幾何学模様』【時代は戻
る、のではなく、したたかに巡り還る

 喩えの内部に主体性が収容されるならば、小さい薬局内でミスチルやスピッツ、ワンオクなどの過去の曲群がオルゴール・アレンジで流れているのが気になりながら、先月ほどのクアラルンプールという都市の大きなモールでは兎に角、EDMもそうだが、アッパーなものがモール内の筏を揺らせていたのをなぞる。ザ・スミス、モリッシーのウェアを着ているアーティストが増えている写真を見るのは奇遇ではなく、影響力と加齢の中で、また若い人たちとのやりとりの中で、直截的表現ではなく、違和を表象するにはという波待ち、波の待ち方を思う。「Still ill」、「How Soon Is Now?」。

 「あぶくのようだ」は偶さかあちこちでよく聴いていたのでネクスト・シングなのだなと思いながら、このバンドの全容やまだまだのポテンシャルは見えないままでいる。

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 この映像内で見せる楽器が密接に寄り合わずにも、ただ、鋭利に朗らかにホメオスタシスを紙縒りの上に置いているのはクラムボンのややアシッドな時期、いやもっと、MPB、ブラジル音楽の行間の中でのドミンゴを確かめる風情に重なりあるリズムは重なる風情もおぼえては、サイケデリックとかローファイ、ネオ・フォークなどの冠詞はいいとして、ソリッドな、ピアノボーカル、トロンボーン、ベース、ドラム編成の男女混合バンドとしてはオルター(Alter)なようでリズムの精確さと、ときに無秩序に譜面から離れたときの自在さには“ゆらゆら”はゆらゆら帝国、フィッシュマンズ、昨今のポスト・クラシカルといった過去例をシンクさせずとも、瀬戸際の葛藤を音の中に漬け込んでくれる。

 もっとドープなところと、軽やかなシェルターを往来する内層にこそ一層、彼らの音・音楽はアート性と、伝言板みたく翻訳できない人にも届く気がしている。そして、ファンク・トゥ・ソウル、ソウルからモノクロームと浅いステージ・ライトのあいだの小声の優しさが模様にはならないよう、模様は感応できる誰かが居て成立する気がするだけにグルーヴが優しく。

 新しい世代の良質なシティポップや、デカダンスを前提としたリプレゼントが目立っているなかで、かのクレプスキュール・レーベルから、全冷中な何か、また、矢野顕子女史、自問自答が巡る感覚の彼らの音楽は何だか真摯過ぎて、ゆらゆらしていられなくなってくる。行間を墨汁で塗りつぶしてゆくのではなく「間、が美しい」のがいいのもあるが、こういった音に、ライヴに触れてしまうだけで虜になる人はいるのでは、と思う。時代は戻る、のではなく、したたかに巡り還る。

(2017.8.15) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))

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