桑田佳祐『若い広場』【オマージュと
ポピュラー音楽の敬意に溢れたひとつ
ひとつを紐解いてゆくだけでも】

 某・公共放送の朝の連続ドラマを観なくなって随分経つ。いや、テレビ、あらゆる大きなメディアからどんどん遠のいている。耳から得られる異言語のニュースや落語、プログラム、音楽から自分なりに時代に色を付けて、相当なものじゃないと自身で得られる多様なタイムラインで、事足りてそれでいい。

 ドリフのコントのような、昭和の一風景をもじったような卓袱台で、亡きレジェンドたちの意志を継ぐみたく桑田佳祐は道化でどうしようもない、おじさんをわざわざ演じてみせて、ベタさが泣かせる。もう彼の周囲を見れば、戦友と言えるようなアーティストやバンドはいなくなり、想い返すは郷里か、彼方かという状況で、落語調にアルバム『がらくた』のプロモーションをしたり、サザンで出たCMが三ツ矢サイダーだったり、仮想や過重情報を上回り、古典たる道のつづきを進む。しぶとくも逞しく。

 この『若い広場』に含まれている要素には贅沢なハーモニー、ストリングス、昭和歌謡の浪漫の模写が高精度なポップ・ソングとして昇華しながら映像もいかにもで、これで和みながらビールを飲む/飲まない人たちの些細な生的な余白に祝福をしている気さえする。なんでも過ぎてしまったら、いい時代だったと言えることもある。それでも、いい時代にでも飛び込むのは今のこの判断としたら、AIやIoTやシンギュラリティなどがどうしようもない状況になっても、人がそこにいて吐息の加減で、無償の慈愛とユーモアの穴に落ちる。落ちてしまえばいいくらいに、広場の上でのくだらないジョークをメタに遠目に笑いながら、涙腺が緩む感じで、生きられるまで、あなたがずっと居られる日々にエールをおくっている気がしてくるから桑田の曲は不思議だなと思う。ふざけているようでどこか異様に切実で、情熱に満ちていて。

 そう、言われなくても、がらくたで、この憂き世に溢れている大体の諸事は。だからこそ愉しいし、功利、効率的に生きようとしなくてもいいという背中を強く押してくれる。 多くの言葉を費やさずとも、この曲は2017年という時代性のひとつの象徴記号を越え、その以後も口ずさまれていくだろう。桑田佳祐という才人の在り方にまたしても、やられた一曲だった。オマージュとポピュラー音楽の敬意に溢れたひとつひとつを紐解いてゆくだけでも楽しくも、同時に、この時代も幻影じゃないと今に照射させる軽快さは流石だな、とさえ。不器用なまでに細部に器用にこだわる体質は変わらずに。

(2017.8.12) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))

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