「余韻の残る物語を演じたい」――人
気急上昇中!新国立劇場バレエ団ソリ
スト渡邊峻郁インタビュー

すらりとした180cmの身長に優しそうなマスク。貴公子然とした立ち居振る舞い。そうかと思えば時々ドキッとするような鋭い眼光をみせる――。
モナコのプリンセス・グレース・バレエアカデミーで学び、トゥールーズ・キャピトル・バレエ団でソリストとして古典からコンテンポラリーまで様々な作品を踊ってきた渡邊峻郁(わたなべ・たかふみ)。2016/2017シーズンから新国立劇場バレエ団にソリストとして入団し、その容姿と濃厚な演技力で一躍注目のダンサーとなる。去る6月の公演『ジゼル』では、パートナーの木村優里とともに若々しくひたむきなジゼルと貴公子アルベルトとの恋物語を熱演。大絶賛を得るとともに、ダンスール・ノーブルの一人としての存在をファンに強く印象付けた。
今後ますます活躍が期待される渡邊に直撃インタビューを行った。
■綿密に話し合いとリハーサルを重ねた『ジゼル』
――まずは『ジゼル』公演の成功、おめでとうございます。ジゼル役の木村優里さんとのパートナーシップが素晴らしく、お二人でとても努力し、リハーサルや話し合いを重ねて物語を作り込んできたんだなぁというのが舞台から伝わりました。今のお気持ちは。
正直終わってしまって寂しい感じです。もう少しあの世界に浸っていたかった(笑) 『ジゼル』のアルベルト役は上演予定を聞いたときから、ぜひ踊りたいと思っていた役でした。木村さんとは表現したいことなど、ベクトルの向きが同じだったので、「一つの物語を作ろう!」と、互いに強い目的を持てました。パートナーとの話し合いも、今までにはないくらい綿密にやりました。
――それがあの濃厚な物語世界になったんですね。お二人がとくに重点を置いたのはどういった部分だったのでしょう。
1幕の現実世界と2幕の幽玄な世界の差をしっかり見せる、ということです。そのために1幕の冒頭の、2人の幸せな部分を一番大事にしました。その場面の空気で作品の雰囲気すべてが決まるので、難しかったです。
『ジゼル』2017年公演 渡邊峻郁、木村優里 撮影:瀬戸秀美
――あの冒頭の部分は2人の初々しさ、幸せな気持ちが伝わり、見ていて赤面しそうなくらいに恋心いっぱいのシーンでした(笑) どのようなアルベルトにしようと考えていたのでしょう。
『ジゼル』の時代の貴族は政略結婚が多かったと思うんです。アルベルトはそれが嫌で城から逃げ出した先でジゼルに出会い、恋心を抱いた。ただ若さゆえ、どう対処していいかわからず、悲劇になってしまったという。
――なるほど。そして後悔の気持ちを抱きながらもジゼルに命を救われ、最後にお墓にキスをしますよね。それがとても自然でしたし、「ありがとう」という思いとともに希望のようなものも感じられ、とても印象的でした。
お墓のキスは自然に出たんです(笑) 「ありがとう」という気持ちも自然と湧いてきました。不思議ですね。本番前は魂の抜け殻のような気持ちで終わるのかと思っていたのですが、木村さんのジゼルのひたむきな思いにふれ、命を救われ、物語が終わるときは前向きな気持ちになれていた。舞台上で違った自分になっていました(笑)。
■「居残り組」からキャピトル・トゥールーズの主演に
――渡邊さんのキャリアについてお伺いします。2006年にモナコのプリンセス・グレース・バレエアカデミーに入学されました。その時の思い出や、学んだことなどをお聞かせください。
ジャパン・グランプリのコンクールでスカラシップをいただき、16歳の時にモナコの学校に入学しました。「これが世界か!」と衝撃を受け、自分のレベルの低さに愕然として落ち込みました。その頃はまだ身長も低く、外国の子達と体格もまるで違う。モナコでは3年間学びましたが、1年目はとにかく必死でした。クラスが終わった後、僕だけ残されて、居残りレッスンをしていたり……。
でもヨーロッパで基礎を学べたのは大きかったです。バーレッスンの先生がフリーデマン・フォーゲル(シュツットガルトバレエ団)のお兄さんで、フリーデマンも時々クラスに来ていたんですが、間近で見ていて同じ人間とは思えなかったです、すごすぎて(笑)。
――世界のバレエの一端を直接肌で感じられたのですね。そして2009年にキャピトル・トゥールーズ・バレエ団に入団されます。
いろいろなバレエ団を受けたのですが、受かったところがコンテンポラリーのバレエ団だったんです。僕はクラシックを踊りたかったのでそれを断り日本に帰国したところ、「キャピトル・トゥールーズでダンサーに空きがあるが、今週オーディションに行けるか」という電話があったんです。「行きます!」と即答して、すぐにフランスに飛んでオーディションを受け、決まりました。ガラ公演の『ライモンダ』3幕の男性4人の踊りがプロの初舞台でした。2010年にデヴィッド・ニクソン振付『三銃士』でポルトス役を踊り、それがソリスト昇進のきっかけになりました。
――スピード出世ですね! キャピトル・トゥールーズで学んだこと、糧になったことは何でしょう。
いろいろなレパートリーを踊れたことが大きかったです。『くるみ割り人形』『ジゼル』の主演、バランシン、キリアン、ベジャール……。インバル・ピント&アブシャロム・ポラックの『オイスター』というクラシック要素の何一つない踊りなど、本当に幅広く踊れました。
クラシックは型が決まっていますが、コンテンポラリーは踊りでみせなければならない。クラシックにはない表現が学べ、それをクラシックにも活かせる。表現の幅が広がりました。
――カデル・ベラルビ監督のもと、『美女と野獣』『海賊』の主演も踊られました。
『美女と野獣』は辛かったです(笑)。ファーストキャストということで精神的プレッシャーも大きかったし、リハーサルは足の1歩の出し方で10分かけるほどに厳しかった。精神的なものも鍛えられました。
■新国立劇場バレエ団のレパートリーに惹かれて入団。「重厚な物語世界を演じたい」
――そして2016年から新国立劇場バレエ団に入団となりましたが、そのきっかけは。
すごく漠然と、「僕は20代の半ばで日本に帰るんだろうな」と思っていたんです。また物語を伝えるドラマチックバレエを踊りたかった。新国立劇場バレエ団はマクミランの『ロメオとジュリエット』『マノン』など、ドラマチックバレエのレパートリーがあったので、日本で踊るなら新国だと思っていました。
――物語を伝えるうえで大事にしていることはなんでしょう。
パートナーとのつながりです。僕はパ・ド・ドゥが好きなんです。登場人物の関係、つまりバレエの物語を一番伝える大事な部分がパ・ド・ドゥだと思うので。
あと周りのダンサーの方々との呼吸です。皆さん自分のすべきことをわかっているので、『ジゼル』のときも木村さんと僕のやりたいことを汲んで合わせてくれました。ありがたいです。
『ジゼル』2017年公演 渡邊峻郁 撮影:瀬戸秀美
――新国立劇場バレエ団に入ってご自身の踊りや考えで変わったことはありますか。
バレエに対する向き合い方で、いい意味で職人っぽくなったというのでしょうか。海外はビジネスライクで、時間になったら終わり、という感じなのですが、新国の先輩方は常に上を目指していて、バレエに対して貪欲で真摯です。自分もそうなので、同じ考えの仲間が増えて嬉しいです。海外の先生に教わる機会もあり、先輩や仲間同士切磋琢磨する環境もいい。「もっとがんばれる、もっと上手くなりたい」という気持ちがいっそう湧きました。
――今後の目標は。
まずは自分のいいところを伸ばしたいです。ちゃんと踊るというのは大前提なので、さらに感情、心情を伝えたい。チケットを買って劇場に来てくださったお客様に、いつまでも余韻の残るような舞台をお見せしたいです。
――『ジゼル』はしっかり余韻が残りました! 7月下旬には「こどものためのバレエ劇場『しらゆき姫』」で2人の女性ダンサーをパートナーとして出演しますね。アプローチの仕方もそれぞれ違うと思いますが、いかがでしょう。
はい、それぞれ個性が違いますので切り替えが大変だと思いますが、頑張ります。子供向けのバレエですが楽しいお話ですし、大人が見ても満足していただけるクオリティのものをお見せしたいと思います。王子は踊るところは少ないですが、大好きなパ・ド・ドゥもあるので頑張ります(笑)。
――ありがとうございました。
『眠れる森の美女』2017年公演 渡邊峻郁 撮影:鹿摩隆司
一つひとつの質問に真摯に答えてくれた渡邊。「こどものためのバレエ劇場『しらゆき姫』」のあとは、新制作『くるみ割り人形』、『シンデレラ』、『白鳥の湖』に主演が決まっている。今後も目が離せないダンサーだ。
(文章中敬称略)
取材・文=西原朋未
公演情報

こどものためのバレエ劇場『しらゆき姫』

■会場:新国立劇場オペラパレス
■日程・出演
2017年7月27日(木)11:30/米沢 唯、井澤 駿
2017年7月27日(木)15:00/柴山紗帆、渡邊峻郁
2017年7月28日(金)11:30/池田理沙子、奥村康祐
2017年7月28日(金)15:00/木村優里、渡邊峻郁
2017年7月29日(土)11:30/木村優里、渡邊峻郁
2017年7月29日(土)15:00/池田理沙子、奥村康祐
2017年7月30日(日)11:30/柴山紗帆、渡邊峻郁
2017年7月30日(日)15:00/米沢 唯、井澤 駿
新国立劇場バレエ団

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