音楽がすっと心に響く、居心地のいいバーを紹介 『よい音楽で、よい時を』#11 LADY JANE

    刺激的なライブが楽しめる、老舗ジャズバー
    音楽をよりよい環境で聴くために、こだわって作られたミュージックバーやジャズ喫茶などを紹介する本特集。
    今回は、1975年から営業を続けている下北沢の『LADY JANE』。
    若き日に、ジャズ、映画、演劇に魅了され、今もなお実験精神を忘れないオーナーが生み出す刺激的な空間。
    変わらないために変わり続ける、そんな歴史の一部を紐解いてみた。
    僕にとってジャズは戦いの音楽
    生きるための心の武器だった

    渋谷や新宿といった中心部からほどよく近く、80年代頃からはライブハウスや小劇場が点在するようになった下北沢。アパレルショップや雑貨店、飲食店などが密集しており、その不思議な街並みに引き寄せられるように、近年は外国人観光客の姿も多く見られる。そんなローカル感漂うエリアに、1975年から続く老舗のジャズバーがある。その名は『LADY JANE(レディ・ジェーン)』。今は亡き、松田優作さんが通い詰めたことでも知られ、現在も多くのミュージシャンや演劇・映画関係者に愛されている。取材時も、若い劇団員がチラシを置かせて貰うために来店していた。オーナーは音楽プロデューサーとしても活躍する大木雄高さん。
    「15歳からモダンジャズを聴いていて、映画もお酒も同じキャリアがあったんです。その3拍子を揃えたバーなら、素人の自分でもできるかなと思って」
    LADY JANE
    広島で生まれ育った大木さんは、高校入学を控えた頃、友人に誘われ、繁華街にあった『PAD』というジャズバーを訪れる。カウンターバーの狭い店舗ながら、そこには巨大なスピーカーシステムが置かれていた。
    「被曝都市・広島というだけあって、地元には負の遺産みたいな空気が流れていたんです。自分もその考え方に染まっていたところ、爆音で流れていたジャズの音にパチーンと覚醒させられちゃって。だから、ジャズ好きとかいうよりも、これしかないと思っちゃったんです。僕にとっては戦いの音楽、生きるための心の武器だった。だから、イーストコーストジャズ、つまりブラックジャズしか聴かなかったですね。映画も、映画好きというより映画館が好きだったんです。あの場所も差別のない空間だったから」
    その後、広島を脱出するように東京の大学へと進学。演劇部の門を叩いたことをきっかけに、1960年代のアングラ演劇に魅了される。そして、自らも小劇団を主催。バイトをしては演劇につぎ込む日々だったが、30歳を迎えるにあたり、定期収入を得るため『LADY JANE』をオープンすることに。当初は食堂が隣にあり、現在の半分程度の広さだったとか。内装は舞台美術をしている演劇仲間に頼み、狂気的でアバンギャルドなジャズバーが完成。それが演劇人や映画人の噂となり、地元の人たちも含め大きな話題となっていった。
    LADY JANE
    ライブは実験。これに勝るものはない

    「突然話が変わるようだけど、当時、小野田少尉がルバング島から帰国して。そうしたら、毎日のようにマスコミに追われて見せ物みたいになっちゃったんですよ。そんな日本が嫌になった小野田さんは、一族郎党を引き連れてブラジルへ渡ることになったんです。そこで初めて知ったのですが、隣の食堂をやられていたのが小野田一族だったんですよ。オープンから3年後にちょうどそこが空いたので、壁をぶち抜いて広げたんです」
     リニューアル後は、毎週日曜および、土曜もしくは祭日に行われる月6回のライブをスタート。内装も現在と変わらぬままの姿を保ち続けている。
    「演劇青年だったくせに商売に邁進するなんてという、自分への罪意識もあってライブを始めたんです。最初はモダンジャズとかをやっていましたけど、すぐに寛ちゃん(三上寛)とジャズドラマーの組み合わせとか、実験的なことを始めて。とにかく、ライブは実験に勝るものはないと思っているから。和楽器奏者やクラシック奏者など、垣根を越えていろいろやってきました。リズム隊なしの編成でジャズをやったり、今では普通のことになっていますけど、当時はミュージシャンやお客さんに文句を言われることもありましたね」
    LADY JANE
    現在も、灰野敬二さんなどさまざまなスタイルのミュージシャンが実験を重ねている『LADY JANE』。現在の客層は40~50代が中心だ。若い男性は減ったが、20代の女性はよくやってくるという。
    「この街は変わった部分もあるし、変わらない部分もある。乗降客数は圧倒的に増えましたよ。でも、まだ文化人とまではいかないような、これからの人が住む街というイメージはかろうじて残っている気がします。昔はよく、山下洋輔日野皓正、あとは詩人の吉増剛造とか、カメラマンの高梨豊がうろうろしていましたよ。敗残者が潜っているような、匿名性のある人が生きる街。だから、この店にもいろいろ有名人が来たけど、キャーッなんてことにはならない」
    大木さんは、ホームページなどで、音楽や映画の話はもちろん、お酒や時勢にまつわる話を書き続けている。それだけに、オリジナルカクテルの種類も多く、東京ローズ、LADY DAY、日本酒ベースの枯山水、風花など、メニューを見ながら味を想像するだけでも楽しめるラインナップを誇る。それらもまた、お得意の実験精神により生まれていった。
    LADY JANE
    今は映画を作りたくてお金を集めているんです

    15歳のときに衝撃を受けた、音楽、映画、お酒についての興味はいまだに衰えていない大木さん。最後に、これからやりたい新しい試みについて伺った。
    「映画を作りたくてお金を集めているんです。もう脚本もできていて、監督は廣木隆一にお願いしています。1億円集まったら、すぐにでも撮影を始めますよ。それをやって死にたいと思っているんです」  天井には映画のポスター、壁にはジャズミュージシャンたちの写真が飾られ、カウンター席とテーブル席のある落ち着いた店内。間接照明の柔らかい光のなかで、グラスを傾け音楽を楽しむ時間。この空間にいる間は、どんな人も対等だ。老舗ゆえに、さまざまなエピソードがあるが、オーナーもスタッフも今を生きる夢追い人。つまり、誰にでもこのお店を満喫するための扉は開かれているのだ。気負うことなく、まずは一度足を運んでみることをおすすめしたい。あなたの生き方が、この店の新たなエピソードになるかもしれないのだから。
    LADY JANE
    取材・文=富山英三郎 写真=JAMANDFIX(REALROCKDESIGN)

    店舗名 LADY JANE
    住所 東京都世田谷区代沢5-31-14
    営業時間 19:00~03:00
    定休日 月曜定休
    電話番号 03-3412-3947
    オフィシャルサイト:http://bigtory.jp/

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