あらゆる制度を超える、自由を求めた
グラフィティ 『Big Sky Little Mo
on バリー・マッギー+クレア・ロハ
ス展』レポート

2017年6月24日(土)より、ワタリウム美術館にてグラフィティ・アーティストのバリー・マッギーと長年のパートナーであるクレア・ロハスによる『Big Sky Little Moon展』が開催中だ。
80年代後半からグラフィティとアートにおいてスターのような存在となったバリー・マッギー。2007年のワタリウム美術館での初めての個展を終えたとき、「10年後にまた何かやろう」と交わした約束を果たすように開催された本展は、バリー自身だけでなく世界のストリートの変化も映し出すのではないだろうか。さらに本展は、「アート✕音楽✕食」をテーマにして今年の7月から宮城県石巻で始まる『Reborn-Art Festival』の関連企画でもある。石巻では屋外で巨大なインスタレーションを制作予定だというバリーの10年ぶりの個展をレポートする。
制度を横断するバリー・マッギーとTWIST
バリー・マッギーは1966年生まれのサンフランシスコ出身のアーティストだ。1998年にはミネソタ州のウォーカー・アート・センターで初個展を開催。さらに2001年にはヴェネツィア・ビエンナーレに参加するなどグラフィティ界のみならず全米のアート・シーンに大きな衝撃を与えた。
バリー・マッギー 無題 2014年 Photo: Jay Jones Courtesy of Ratio 3, San Francisco and Cheim & Read, New York
日本でも2007年のワタリウム美術館での個展だけでなく、2005年にはテイ・トウワのアルバム『FLASH』のジャケットを担当したほか、ユースカルチャーに影響を受けた作家が多く参加した『ビューティフル・ルーザーズ展』などで注目を集めていた。
サンフランシスコ近代美術館のパーマネント・コレクションにも選定されるなどアート・シーンにおいて高く評価される一方で、「TWIST」という名でタギングを続けるグラフィティ・アーティストとしても知られている。
美術館とストリート、グラフィティとアート。制度によって区切られてしまった両者の間を行き来するバリーの作品の魅力は、技巧的な側面だけでなく常にストリートに足を踏み入れ規制やモラルの縁をアイロニカルに描写しようとする、変わらない彼の姿勢にあるのだ。
バリー・マッギー 無題 2015年 Photo: Jay Jones Courtesy of Ratio 3, San Francisco and Cheim & Read, New York
パートナーとのコラボレーション
グラフィティ・アーティストのパイオニア的存在のバリーだが、10年ぶりのワタリウム美術館での個展では長年のパートナーでもあるクレア・ロハスとのこれボレーションに挑戦している。バリー作品の特徴でもある人の顔と、クレアが描く抽象的な模様がひとつの空間で心地よいリズムを生み出していた。
ひとつの導線に沿って作品を鑑賞するというよりも、まるでバリーとクレアの部屋に訪れたかのように自由に視線が動いてしまう展示空間は、時間を忘れて楽しめることだろう。そしてビンやお皿、DIY精神に溢れたZINEなど様々な日用品に描かれた作品には、生活の延長にアートが持つ原始的な衝動が宿っているようだ。
地下1階のミュージアムショップでは、10年ぶりの帰還を記念して「TWIST GENERAL STORE」が期間限定オープンしている。オリジナルのZINEの販売や、メッセンジャーバックが有名な「ZO Bags」の創設者であるエリック・ゾー、セレクトショップ「ストレンジストア」を手がける現代アーティスト加賀美健らによるユニークなアイテムが並ぶ。またこちらでは、10年前の展示のドキュメント映像も見ることができる。展示と合わせて是非ご覧頂きたい場所である。

制御の無い自由を求めて
24日のオープニング・イベントではバリーとクレア、ゲストDJらによるトークやライブが行われた。
来場者からの質問に答えるかたちで進められたトークでは、日本だけでなく10年前から刻々と変化している世界情勢への言及が印象的だった。2007年から現在までに起った様々な事件を思い返せば分かるように、多くの国が問題を抱え、そこに暮らす人々もまた不安を感じている。しかし、そうした変化の中だからこそ、アーティストやミュージシャンなど表現に関わる人々は団結をみせるべきだと話す。制度に縛られない自由を守るために、仲間たちとの絆を堅くする必要があるだろう。
クレア・ロハス 無題 2016年
また、ヴィーガン(菜食主義者)でもあるバリーとクレアは、"食べる"という行為も世界に対する意思の表明であると言う。身近な日用品を作品に使用したり、ストリートで活動を継続する点も含めて、生活の延長に表現を捉えるバリーの哲学のようだ。
そして東京の印象について、ここ10年で静かでキレイな街に変わったと言う。それが良いか悪いかは分からないと述べたが、東京に暮らす人々はその変化に気がついたのだろうか。私たちの生活を取り巻く街もまた様々な制度によってかたちづくられている。バリーが制御の無い自由を求めてグラフィティとアートを横断して活動を続けるように、私たちもまた目に見えないわずかな変化に意識的になるべきではないだろうか。
君たちの世代が街を取り返す。
周りのみんなを怒らせて、泣かせることになっても、
それでも信じさせなければならないんだ。
沢山のすごいことが起きる。
今は本当にすごい時代。
信じられないような時代なんだ。
バリー・マッギー(2017年、学生に向けたメッセージより)
2020年には東京オリンピックを控えた今、私たちは何を信じてこの街と向き合うべきなのか。
強烈なアイロニーが隠された10年ぶりとなるバリー・マッギーの試みは見逃せない。
イベント情報
バリー・マッギー + クレア・ロハス 展
Big Sky Little Moon
会期:2017年6月24日(土)-10月15日(日)
休館日:月曜日[7/17, 9/18,10/9は開館]
開館時間:11時より19時まで(毎週水曜日は21時まで延長)
入館料:大人 1000 円 / 学生[25 歳以下] 800 円
会場:ワタリウム美術館
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-7-6
Tel:03-3402-3001 http://www.watarium.co.jp

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