大竹しのぶがなんと10代のナイーブな
少年に扮するミュージカル『にんじん
』、今夏開幕

フランスの片田舎を舞台に、真っ赤な髪にそばかすだらけの顔をした少年、通称“にんじん”と、その家族を描いた物語『にんじん』。フランスの作家ジュール・ルナールの小説を原作に、1979年の夏、音楽劇として世界初演された時、主演の“にんじん”を演じたのは当時22歳の大竹しのぶだった。あれから38年。今年還暦となる大竹が、再び“にんじん”を演じる。演出を手がけるのは、今年の春に上演した『フェードル』でも大竹と組んでいた栗山民也だ。共演者には中山優馬、秋元才加、中山義紘、真琴つばさ今井清隆、宇梶剛士、キムラ緑子といった実力派、かつ個性的な顔ぶれが揃うことになった。家族の愛に飢え、逆境にめげずに成長していく少年“にんじん”を、栗山がどう描き、大竹がいかに演じるのか、興味は尽きない。38年ぶりに挑む『にんじん』への想いを、大竹に語ってもらった。
大竹しのぶ  撮影=岩間辰徳

――今回、『にんじん』に38年ぶりに挑むことになったきっかけは、アメリカの女優キャシー・リグビーさんが60歳を越えても『ピーターパン』を演じ続けているということに、大竹さんが感銘を受けたことからだと伺いました。
ある芝居の稽古場でプロデューサーさんに「これまでやってみた役の中で改めてもう一度トライしてみたい役ってある?」と聞かれたことがきっかけだったんです。「『にんじん』は一回だけしかやっていないけれど、すごく楽しかった。忘れられない役です」と答えたら、「だったらそれをやりましょう、アメリカには『ピーターパン』を60歳過ぎでやっているキャシー・リグビーという女優もいるんだからできるわよ」と言われてしまって。
大竹しのぶ  撮影=岩間辰徳
――“忘れられない役”とのことですが、『にんじん』のどういうところが魅力だったんですか。
孤独で、愛されていないという哀しみや、どうやって生きて行ったらいいんだろうと、もがいているところ。そして山本直純さんの美しい音楽にのせて、その想いを叫び続けるところ。そうやって、舞台上でにんじんとして生きる数時間が楽しくて楽しくて仕方がなかったんです。38年前の初演時には、客席に子供たちが大勢いて。ある時、カーテンコールで5歳くらいの子がパーッと駆け寄って来て、舞台に立っている私に向かって「にんじん!」って声をかけてくれたんですよ。あの時は本当に感動しました。本当にそこににんじんという少年がいるみたいに錯覚をして、清らかな感情で「がんばれ!」って言ってくれていた。忘れられない光景でしたね。
とにかく今回は「なんでおばさんがにんじん役なの?」って、思われないようにしなければ!(笑) ピーターパンの場合は普通の人間ではないわけですけど、キャシー・リグビーが演じるのを見ると、もちろん若くはないけれど、そこには不思議な深さというものがあって。私もそれを表現できなければやる意味がないので、そこのところはしっかりがんばりたいですね。それと今回はやはり、栗山さんが新たに演出をしてくださるというのも、すごく楽しみなところです。
大竹しのぶ  撮影=岩間辰徳
――音楽は38年前と同じく、山本直純さんの音楽を使われるんですね。
山本直純さんの音楽を今の若い方は知らないかもしれないけれど、直純さんの世界が新たにみんなの心に入っていったらうれしいなと思うんです。直純さんの曲は、耳に入りやすいし、覚えやすい。実際、私自身が曲を覚えているのはもちろんなんですけれども、私の姉や高校の同級生とかが、今回また『にんじん』をやると言ったら、当時の主題歌を覚えていたんですよ。それほど観客の心に印象深く響いて、そして口ずさみやすい歌だったんだなと改めて思いました。
――お客様には、どんなことが伝わるといいなと思われますか。そして、どんな人に観てもらいたいですか。
人を応援する気持ちとか、一生懸命生きていこうとする気持ちとか。やっぱり、今回も子供たちが大勢観に来てくれたらすごくうれしいですね。でも栗山さんとも話していたんですが、子供たちが抱えている闇みたいなものも描きたいんです。現代にも通じることですが、愛のない家庭で育たなければならない場合、子供はそれにどう立ち向かえばいいのか。結局それは自立するということになるんでしょうけど。
だから決して、お母さん、お父さんは、あなたをすごく愛しているのよっていうような、甘い結末ではないんですよ。経済的なことではなく、心の自立をさせるというか。結局みんなひとりなんだ、自分で大人になって第一歩を踏み出すしかないんだということですね。ファンタジーとはまた違って、そういうことをしっかりと描いた芝居として成立させていかなければいけないと思うんですよ。
大竹しのぶ  撮影=岩間辰徳
――親が観てもいろいろと刺さる部分がありそうですよね。
そうなればいいなと思います。今は、お父さんがいて、お母さんがいて、子供がいて、お互いに愛し合っているという当たり前のことが、実はできていないおうちも多いわけですから。そこで本当は子供が叫んでいるんだということを、ちゃんと描きたいですね。
――栗山さんとは何度もお仕事をされていますが、一番信頼できる部分とは。
それはやはり、きちんとした演出プラン、演技プランが栗山さんの中にあるということと、とにかく稽古が本当に楽しいんです。人のダメ出しを聞いているだけでも楽しい。『太鼓たたいて笛ふいて』(2014年)の時に初めてご一緒したんですけれども、毎日学校に行って大好きな先生に会うみたいな、この先生の授業だけは絶対に遅刻しないぞみたいな、そんな感覚でした。本当に楽しかったんです。周りのみんなも尊敬しているという緊張感と、優しい感じとが両方あって。たとえば蜷川(幸雄)さんは「好きにやってみて、自由にやってみて」っていう方なんですが、それとはまったく違うタイプで。
――栗山さんはご自分で具体的に演じてみせてくれる。
そう、しかもそのお芝居がすごく上手なんですよ!(笑)
大竹しのぶ  撮影=岩間辰徳
――そして、共演者の方々についても伺っておきたいのですが。なんと、中山優馬さんがお兄さんで秋元才加さんがお姉さんになるんですね。
「ふざけんな~」って言われそうですけど(笑)。中山くんのファンの方とか、どう判断していいかわからないかもしれないですよね。「どういうこと?」ってクエスチョンが100個くらいつけられそう。
――初共演ですか?
そうです。秋元さんとは、三谷(幸喜)さんの映画『ギャラクシー街道』でご一緒しているんですが、それほど同じシーンはなかったし。宇梶さんとも、真琴さんとも初めてです。
――そして『三婆』、『フェードル』と三連続で共演することになるのがキムラ緑子さん。『フェードル』のお稽古場を見学させていただいた時も、お二人は本当に仲が良さそうでした。
はい。緑子ちゃん、面白いんですよ。一場の稽古が終わって席に一緒に戻ってくると、緑子ちゃんはハアーハアーって汗びっしょりなのに、私が普通にしているんで「なんでやねん!」ってツッコまれたりしてね。今回も「どうして私がいつも乳母とかお母さんなのよ?」って言っていました(笑)。
――今回はお母さんと息子という関係になるわけですが。やっぱり、いじめられることになるんですか?
そうですね、だからもしかしたら今回は稽古場で口きかないかも(笑)。だけど基本的に緑子ちゃんも、『三婆』で一緒だった(渡辺)えりちゃんも私も、みんな同じように芝居が大好きで、当たり前かもしれないですがマジメにきちんと芝居をしたいという想いが同じようにあるんです。だから、なんでも正直に言い合えるんですよ。劇団だったら劇団員同士で「ここはこうじゃない?」とか言えるんだろうけど、私たちはふだん「こうしたらいいのにな」と思っても、役者同士だとなかなか言えなくて。でも緑子ちゃんやえりちゃんとは「あそこはそうじゃないと思う」とか真剣に話し合えて、よりよい芝居を目指せる。その関係がお互いにすごくラクだし、楽しいんです。
大竹しのぶ  撮影=岩間辰徳
――では最後にお客様に向けて、大竹さんからお誘いの言葉をいただけますか。
稽古前なのでお客様にどういうものを渡せるかはまだちょっとわからないんですけれども、心がシャキーンとなるようなエネルギーを渡したいなとは思っています。もし親子で来てくださるとしたら、大人になっても「あれ、お母さんと観に行ったね、楽しかったよね」って夏休みのいい思い出になるような、そんなお芝居を作りたいです。
――帰り道、子供たちが主題歌を歌いながら帰ってくれるといいですね。
前回、帰りの電車の中で「僕は劇場を出てきちゃったけど、にんじんはひとりになっちゃって大丈夫かなあ」って心配してくれた子がいたという話を聞いて、なんて子供は純粋で素敵なんだろうと思ったんですよ。今回もそのくらい、みんなの心の中に入っていけたらいいなと思いますね。
ミュージカル『にんじん』大竹しのぶ  撮影=岩間辰徳

インタビュー・文=田中里津子 撮影=岩間辰徳
公演情報

ミュージカル 『にんじん』
日程:2017年8月1日(火)~8月27日(日)
会場:新橋演舞場 (東京都)
出演:大竹しのぶ/中山優馬/秋元才加/中山義紘/真琴つばさ/今井清隆/宇梶剛士/キムラ緑子
原作:ジュール・ルナール
訳:大久保洋(「講談社文庫版」より)
脚本・作詞:山川啓介
演出:栗山民也
音楽:山本直純

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