撮影:駒井夕香/取材:土内 昇

最新アルバム『さざなみCD』を引っ提げて全国縦断中のSPITZ。昨年から突入した、バンド結成20周年記念のひとつでもある本ツアーの東京公演は「僕のギター」で静かに幕を開けた。伸びのある草野マサムネの透き通ったヴォーカルが楽曲に清涼感を与え、初っぱなから客席に清々しい風を送り込むと、続く「不思議」では晴れやかなバンドサウンドが築かれる。楽曲に広がりをもたらす三輪テツヤのギター、存在感のある音を一音一音落としていく田村明浩のベース、サウンドの屋台骨を支えるタイトな崎山龍男のドラム。それらは合わさってひとつの音の塊となると言うよりも、絶妙な距離感と空気感の中で個々が色を放ちながら楽曲にさまざまな色彩を与えているのも特筆すべきところだろう。また、その真ん中には歌があり、爽快なサウンドの上を泳ぐようにして届いてくる良質なメロディーが、聴く者の胸に優しく染み渡っていく。それはインディーズ時代からある「ヒバリのこころ」であっても、最新アルバムからのナンバーであっても変わりない。その後もアッパーな楽曲が続くのだが、ハードながらも鉄壁のバンドグルーブが歌を前面に押し出していた。 「P」「楓」とバラードが続いた中盤。豊潤なメロディーに乗って届く、センチメンタルな言葉をひとつひとつ噛み締めるように観客が聴き入っていたのも印象的だった。楽曲に描かれているストーリーと、自分自身のドラマと照らし合わせているのだろう。聴き手を選ばないのもSPITZの楽曲の特徴であり、素晴らしいところである。 上京したばかりの頃の懐かしい話に花が咲いたMCの後、「Na・de・Na・deボーイ」のギターリフが響き渡り、いよいよ終盤戦に突入する。観客の手拍子が場内にこだまし、ハートウォームな空間が深みを増していく中、キャッチーな「スパイダー」がさらにホットに客席を沸かせると、三輪がフライングVをかき鳴らす「俺のすべて」などパンチのあるナンバーが畳み掛けるようにプレイされ、最後は「漣」で本編の幕が下ろされた。 アンコールを含め23曲がプレイされたライヴ。『さざなみCD』からのナンバーを中心に新旧さまざまな楽曲が披露されたが、そこには温度差はなく、どの曲からもロックバンドとしてのリアルなSPITZが感じられた。それこそが“21年目の貫禄”とも言えるが、痛感したのは“21年目の自然体”だ。時代の音に左右されずに、自分たちのスタンスでSPITZだからこその色を持つ音楽を作り続けていることが、どの曲からも伝わってきた。それがオリジナリティーの根源であり、バンドを21年間突き動かせてきた初期衝動なのだろう。

OKMusic編集部

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