取材:黒田奈保子

観たくないけど観たい…銀杏BOYZのライヴを観る前、私はいつもそんな気分になってしまう。意を決して会場に入らねばならぬのだ。さもなくば、善くも悪くも自分の感情が飲み込まれてしまうのだ。それほど彼らの音楽は人の心を強く引っ張っていくのだ。『せんそうはんたいツアー』最終日、ステージではメンバーのオフショット(ちょっとおバカな)写真がスクリーンに映し出され、開演前から笑いがこぼれ、温かな空気が漂っていた。 1曲目「夜王子と月の姫」の切ないギターのリフが流れる。正直、彼らの演奏はお世辞にも“上手い”とは言えない。峯田自身、チン中村のギタープレイをファンの前で堂々と“ヘタクソ!”と発言してしまうくらいだ。それでも、がむしゃらに感情剥き出しで歌う峯田の歌声、チン中村の剛毅なギター、村井守の原始的で心揺さぶるドラム、安孫子真哉のベース。ひとつひとつは粗野で荒々しいかもしれない。しかし、全てがひとつに合わさると、どうにもこうにも胸を締めつけてやまない。音の旋律や調和なんて関係ない。ただそこに彼らが出す純粋な音があるだけ。アバンギャルドでいてプリミティブ、センチメンタルでバイオレンス、キュートでキッチュなのだ。ふと目を離すと、ステージの上を転がり回ってギターをかき鳴らし、ベースを振り回している。彼らの一挙一動を見逃すまいと、誰もが真摯な眼差しで彼らを見つめる。「あの娘は綾波レイが好き」「じゃんくBOYじゃんくGIRL」などハードでダンサブルな楽曲が続き、メンバーも観客も暴れ回る。観客も各々に好きなように感情を放出する。銀杏の音楽なくしてこの場にいることは危険きわまりない。会場は感情のカオスとなっていた。 シンプルだったステージが一転、星空が輝き「銀河鉄道の夜」が披露されると今までの騒動が嘘だったかのように、ひとつの音も漏らすまいと必死に聴き入るファン。切ない恋模様を描いた詞が心締めつける。その後も「あいどんわなだい」「BABY BABY」と名曲が続いていく。そして本編もラストに近付いていき、12分を超える大作「光」が演奏される。シンプルで壮大で美しい楽曲…私の持つ喜怒哀楽、いろんな感情が彼らに持って行かれ、グチャグチャに混濁されて、そしてきれいに濾過され、涙が止まらなかった。アンコールを含む全24曲、ライヴレポートという名目で彼らのライヴを観ているのに、書き手としての自分が恥ずかしいが言葉が見つからない。なんなら見つけなくてもいいんじゃないかと思えるほど、最高のステージだった。
銀杏BOYZ プロフィール

03年1月、人気絶頂の中、突然の解散を発表した元GOING STEADYの峯田和伸(vo&g)が中心となり、バンド解散直後、同じく元GOING STEADYの安孫子真哉(b)と村井守(dr)、そして、チン中村(g)とともに新たに結成。熱く激しい感情が充満した「歌」を聴かせるライヴ活動を精力的に繰り広げている。
銀杏BOYZとしての初音源は、エレファントカシマシのカヴァー・アルバム『花男』(03年3月発売)に提供した「悲しみの果てに」のカヴァー。また峯田は、みうらじゅん原作の映画『アイデン&ティティ』に主演し、俳優デビューも果たしている。オフィシャルサイト

OKMusic編集部

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