【ゆず】“自分は何が歌いたいのか?
”ということをすごく掘り下げた曲で
す。
約半年ぶりのニューシング「逢いたい」は、長い時間をかけて繰り上げた強いメッセージと美しいハーモニーが輝く自信作。自らの内面をとことん深く振り下げた制作の過程について、北川
取材:宮本英夫
ニューシングル「逢いたい」は約半年ぶり、2009年になってからは初のリリースになりますね。
北川
去年はあまりにも怒涛の忙しさだったので、今年はまずお休みを2週間ぐらいいただいて、それから今回のシングルに着手したんです。
ドラマの主題歌(NHKドラマ8『ゴーストフレンズ』)ということで、何かテーマはあったのですか?
北川
大きく言うと、“出会いと別れ”をテーマに作ってほしいというお話はありました。それを自分なりに踏まえつつ、曲を書いていって…実はこの曲ができるまでに、4~5曲分ぐらいは書いたんですよ。変な意味じゃなくて、“良い曲”というものはテクニックとしてできるんですよね。だけど、“響くもの”というか、“自分は何が歌いたいのか?”というものをすごく掘り下げて…今、自分たちがやりたいことは小手先のスキルよりも、本当に歌いたいことを突き詰めてやるべきなんじゃないかと。オリジナリティとメッセージをより色濃く表現することを目標にしたので、出来上がるまでに時間がかかりましたね。岩沢くんに来てもらって歌入れして、2~3日経つと“いや、違う。まだ先がある”と思って…そんなことをずっと繰り返していたので。もうボロボロになりましたね。月9のドラマ(フジテレビ系『イノセント・ラヴ』)の跡形もないくらいに(笑)。
北川
洋服とか、考えるのも面倒くさいんですよ。余計なことは考えずに音楽のことだけやりたい、みたいな感じだったので。とにかく曲を書いて書いて…最後の最後で、今の曲の原型のAメロとBメロができたんです。良い曲ができる時って、1行目で“この曲、良い曲になるかも!?”っていう予感があるんですよ。「栄光の架橋」もそうだったんですけど。最初のフレーズができて“これ、何かいいかも!”って思って、そこから曲ができていきました。
岩沢さんは、その途中経過をずっと隣で見ていたわけですが。
岩沢
そうですね。月9俳優から本来あるべき姿に戻っていく姿と言いますか(笑)。
岩沢
まぁ、僕も曲を書く人間なので、その苦労はよく知っているし。放っとけばできるだろうという、良く言えば信頼関係で、悪く言えば放ったらかしで(笑)。悩んだ分だけ良い曲ができるだろうと思ってました。1日経てば“てにをは”が変わってるとか、ちょっとした単語が変わってるとか、そういうマイナーチェンジをずっとしていたので、その都度僕は歌い直したり、ハモり直したりしてましたから。そこは身を持って分かりましたね。
北川
ひとりでやっていると主観的になりすぎるんですけど、岩沢くんが歌いに来て、“ここ、ちょっとどうなの?”とか何気なく言ってくれて、“ああ、そうだな”と思って、また修正したりとかしましたね。
結果的に、すごく大きなテーマの歌になりましたね。普通に恋人との別れの歌にもとれるし、もっと切実に、亡くなってしまった人のようにもとれるし。
北川
そうですね。僕、去年父が亡くなったんです。“今、何を歌いたいか?”と思った時に、まずそのことを歌わないと前には進めない気がしちゃって、それを歌いたいと思ったんですね。だけど、それだけのものになっちゃうと間口が狭くなる。言葉を選ぶ時に気を付けたのは、いろんな人の出会いや別れとリンクできるように、最善の注意を払って言葉を選びました。もともとの気持ちはすごくシンプルなんだけど、練り上げていく作業をすごく大切にして、アレンジもかなり練り上げて作りましたね。さっき言ったスキルじゃないですけど、いろんなことが分かるようになったり、できるようになってきたりすると、それを出したいとか、技みたいなことをやりたくなるんだけど、そういうのは“実はやってる”ぐらいの感じにしたくて。なるべく削ぎ落として、シンプルなものにしたいと思ってました。テーマも大きいことを歌ってるけど、聴く人が分からないところへ飛んで行きたくはないし、全てのちょうど良いバランスを、長い時間をかけて練り上げていったと思います。
岩沢
今までの曲とはちょっと違う雰囲気になりましたね。コード進行ひとつとっても、転調ひとつとっても、ひと癖ふた癖あるし、サビのメロディーだけ聴いたら悲しい曲になりがちなんですけど、この曲は悲しさもあり、前向きな面もありということで。例えば、ラブソングでもいろんなラブがあるじゃないですか。親子愛もあるし、恋人同士のラブもあるし、そこにレクイエムみたいなものが重なることによって、深みが出たと思います。アレンジやコーラスワークを含めて、すごく突き詰めた感はあります。
ボロボロになった甲斐があったと。
北川
そうですね(笑)。ドラマをやっている時に、ゆずに枯渇してたんですよ。その間にも作品は作っていたんですけど、ゆずとしての作品をがっつり練り上げたいという思いがあって。今回は…特にコーラスワークに関しては、ゆずの良いところをふんだんに出せるように工夫してあります。お互いの良さがすごく出ていると思いますね。
カップリングの「みらい」ですが、これは地元の横浜開港150周年記念テーマソングですね。
岩沢
テーマが大きいのでどこから手を付けていいのか分からなくて、少し悩んだんですけど、そこはフラットに考えて、横浜市民である、ゆずのふたりが作る横浜の曲にすればいいんだというところに落ち着いて。僕たちにしか書けないものでありつつ、僕たちにしか分からないものではいけないので、一個の言葉からいろんな風景が想像できるように言葉を選びました。
コーラスを、一般のみなさんにやってもらったんですよね。
岩沢
市民コーラスの方々に参加してもらったんですけど、お年寄りから子供まで、みんな本当に上手でしたね。
北川
それをやってもらったことで、僕たちだけじゃなくて横浜市の曲になったと思います。そして、横浜市は僕らのふるさとなので、いろんな人がふるさとを思い出すような曲になればいいなという思いを込めて作りました。
そして、シングルと同じ日に、恒例のミュージクビデオ集『録歌選 緑』が出るのですが、このシリーズも長いですね。2000年の『金』『銀』から始まって、今回は『緑』。
北川
アルバム『WONDERFUL WORLD』で、ずっと緑の世界を展開していたので、“緑”がいいんじゃないかと。
岩沢
『録歌選』のシリーズは毎回、溜まったら出そうということなんですけど。今回は出すタイミングとしていいなと思ったのは、やっぱり『WONDERFUL WORLD』の存在で、あのアルバムで2008年のゆずを締め括れたので、ちょうどいい区切りだなと。「超特急」とか、すでに自分たちでも懐かしかったりして、思い出アルバムという感じですね。
北川
観ると“あ~、あの時はこうだったな”みたいな。髪型ひとつとっても全然違うし。アルバムを作る時もそうなんですけど、ずっとゆずを聴いてくれてる人がこれを観て“あ、この曲が出た時、私はこんなことやってた!”とか、そんなことを思い出しつつ、ともに時間の流れを感じてもらえるのもいいんじゃないかなと思います。
それぞれ、好きな作品を上げるとすると?
北川
「うまく言えない」かな。僕らがあんまり出ていないというのが最大の理由です(笑)。三浦春馬くんが出てくれて、彼がゆずを好きだと言ってくれた縁で、彼が出ていた『恋空』という映画の監督の今井夏木さんに撮ってもらって。ツアーでもこの映像を流していたんですけど、意外と年上の人たちが“良い”って言うんですよ。オジサンたちの心を射抜く作品みたいです、どうやら。
岩沢
「もうすぐ30才」を撮ったのは、年末の仕事納めだっけ? これを撮って“今年はお疲れ様でした”みたいな。確か「ストーリー」も仕事納めなんですよね。“これを撮ったら正月休みだ”みたいな。演奏シーンのテンションが高いのは、“よし、これで終わりだ!”という気持ちが入ってるからじゃないですかね(笑)。それをちょっと思い出しました。“終わったら飲むぞ!”って(笑)。
さらにもうひとつ話題があって、5月13日にはキマグレンとのコラボレーションユニット“ゆずグレン”としてシングル「two友」がリリースされますよね。これについては?
北川
彼らが逗子で、僕らが横浜で、地元が近いんですよ。それで彼らが出ているイベントを観に行って、話をしたら、彼らがやっている『音霊-OTODAMA SEA STUDIO』で働いている人が共通の友達だったりとか、いろいろリンクするところが多かったんですよ。そんな話を周りにしていたら、周りがどんどん盛り上がって、“何かやったらいいんじゃないですか?”みたいな。
岩沢
“例えば“ゆずグレン”ってどうですか?”みたいな。もう決まっちゃってるじゃないですかって(笑)。
北川
そこに映画の話(宮藤官九郎脚本、細野ひで晃監督作品『鈍獣』/5月16日公開)の話があったので、“じゃあ、そこでやりましょう”と。
岩沢
若干僕らのほうが先輩なので、“じゃあ、先にちょっと作ってよ”とか言って(笑)。かなり難航したらしんですけど、何日かして返ってきたものが、すごくメロウでキマグレンぽくて、そこで原型が出来上がっていたので、そこにゆずをハメ込んでいく作業でしたね。4人の良いところを出せるように。楽しかったんですけど、本当に時間がなくて、キマグレンのライヴのリハーサル前にこちらのスタジオに来てもらったりして、大変でした。でも、そのおかげで瞬発力が出て、すごく良いものができました。
では、今後の予定は?
岩沢
今年もどっぷり音楽で、どっぷりゆずで。「逢いたい」と「みらい」ができて、次の展開も見えやすくなったので。
北川
僕らは年上の方と共演することが多かったんですけど、これからは若いミュージシャンとも一緒にやりたいんですよ。僕らも12年やってきて、生意気ですけど、若い世代に伝えられることがあるんじゃないかなと思うし、逆に若い世代に教えてもらうこともあるだろうし。そういう化学反応を感じたいので、いろいろやっていきたいと思っています。これからどんどん起爆剤が出ていくので、今年のゆずを楽しみにしていてください。