【かりゆし58】“でーじ”を付けるこ
とに迷いはなかった
ひとつの答えを見い出すことのできた、かりゆし58が満を持して発表した2ndフルアルバム。今作の制作は楽曲だけでなく、バンドとしても大きく変化を遂げた期間だったという。
取材:ジャガー
“でーじ”は沖縄の方言で“すごく”という意味の言葉だけに、自分たちらしいアルバムができたという手応えがないとアルバムタイトルに付けられないですよね。
前川
そうですね。楽曲がどうだっていうよりも、バンドとしてすごく成長できたアルバムなので。実は、今作で一番最初に録ったのが1年半ぐらい前のシングル「ウクイウタ」なんですけど、ちょうどバンドとしてひとつの壁にぶち当たっていたんです。キャリアが短いバンドだから、周りの期待値と自分たちの中身が付いていけてない状態があって。自分たちが“かりゆし58”というバンドのメンバーとして、ミュージシャンとしての意識が足りてなかった。そのほつれ目が「ウクイウタ」の時に浮き彫りになって。あとから聞いた話ですけど、新屋はギターを辞めたいぐらいに思ってたらしい(笑)。そんな、ある意味どん底から録り始めたアルバムなんだけど、何回もメンバーと話し合う中で、“自分の人生、責任持って生きようぜ”って答えが見えたんです。出す音ひとつとっても、死ぬ気で自分の全てを注ぎ込んでやろうって思えてからは、レコーディングに対する意識も変わったし、結果として難易度の高い曲もメンバーで団結して、上手くいきましたね。「ウクイウタ」は悩みながら何日もかかってたのに、アルバム制作の後半は2~3日で楽曲を録れたり、どんどんいい形になって。自分の楽器への思い入れも変わっただろうし、こういうふうに考えさせてくれた、外から刺激を与えてくれた人たちに対するありがとうという気持ちも詰まってるから、“でーじ”を付けることに迷いはなかったですね。
改めて、かりゆし58っていうバンドと向き合うことができたわけですね。
中村
友達同士でやってるバンドだし、“いいんじゃない?”って甘えがあったのかもしれないですね。でも、このアルバムでいろいろ話し合うことができたから、メンバーをライバル視するようになりました、自然と負けたくないなって。
新屋
外からは順調に進んでるバンドに見えてたかもしれないですけど、自分の中では付いていけてないところがあって…必死すぎて周りが見えてないっていうか。今回の制作期間は問題と向き合って辛かったこともあるけど、自分の意識を変えることができたし、ちゃんと結果がアルバムで出せたんじゃないかなって思います。
宮平さんがサポートから正式なメンバーになった時期も、このアルバムを作り始めたぐらいですよね?
前川
ずっとサポートとしてやってくれていたから、新しい仲間ってわけではないんだけど、人生を預ける人が増えたと同時に預かる人生も増えたので、それがバンドを見つめ直すいいきっかけになったかもしれませんね。
今までは沖縄のゆったりとした独特の音階がメインにくる曲が多かったのですが、今作のサウンド面はさまざまな展開があって驚きました。
前川
実は、そこに葛藤はあって…“沖縄や南国の雰囲気から離れると俺たちらしくないんじゃないか”ってメンバーから出たりしたけど、逆に“かりゆし58らしさって何かね?”って話をしたんです。俺らは創造者でもないし、発信者でもない。自分が好きなものを大好きな人に“こんな音楽、面白いよね”って伝える役なんですよ。そこがはっきりと見えて、かりゆし58の音楽の在り方、“人からもらったものを素直に返す”っていうことだけに自分たちらしさを集約したら、周りでどんな音が鳴っていても、自分たちの音楽になったように思います。こうすることで、バンドの核となる部分をより感じてもらえるんじゃないかな。
歌詞の書き方も間口が広がっているので、聴き手が自由にイメージしやすいです。
前川
昔みたいに“何とか大丈夫だぜ!”とか、“みんなハッピー!”っていうのよりは、根っこが深いものが書けてるんじゃないですかね。年齢を重ねることで、前より絶望や不安っていうものをちゃんと感じれるようになったから、サウンド的に広がったし。辛いことも経験してきたから、一番底辺から見る希望を歌えるようになったので、奥行きも少し出てきたかなって。やっぱり経験を積み重ねた上で、いろんな選択肢がある中、前を向くことを決めた人の“笑おう”っていう歌は、誰かをちゃんと笑わすことができる力を持ってると思うんですよ。
そんな歌詞の変化をみなさんはどう思いますか?
宮平
自分も考えさせられますね。特に「ただひとつだけ伝えたいこと」はシンプルなんだけど、メンバーと聴いてる人をつなぐ、全員でひとつになれる…そんな歌詞なので個人的にすごく好きです。“自分の人生、責任持って生きようぜ”って答えを見つけたのもあって、余計に感じるものがあるというか。
前川
デビューから3年経ってしまったけど、「ただひとつだけ伝えたいこと」で書いたことが歌い手の気持ちの根っこですもんね。別に音楽が好きなだけだったら、部屋でひとりでやってたらいいと思うんですよ。だけど、人前に立たしてもらって、お金をもらいながら歌うってことは、“伝えたい”という気持ちがあるからで。この曲が土台で全部の曲が乗っかってると言ってもいいような曲がやっとできました。
どんな時でも寄り添ってくれる優しい歌だと思います。
前川
ただ“笑っとこうぜ”っていう能天気な人の言葉よりも、一緒に悩んでたヤツの“だけど俺は決心して、もうちょっと頑張ってみることにした”っていう言葉の方が説得力がある。そういう歌を歌いたいし。どっかで気付いてたんだけど、ここまでシンプルで何の飾りっ気のない曲にはできなかったですね。感謝の想いは今までも歌ってるんだけど、一番伝えたいっていう気持ちが集約されてます。
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『でーじ、かりゆし』2009年04月08日発売LD&K Records
- 初回限定盤(DVD付)
- LDCD-50058/B 3465円
カリユシゴジュウハチ:2005年4月に沖縄で結成。06年2月にミニアルバム『恋人よ』でデビュー。同年7月にリリースした「アンマー」が多くの共感を呼び、日本有線大賞新人賞を受賞。11年発表の初ベストアルバム『かりゆし58ベスト』はオリコンアルバムチャート1位を記録。沖縄音階にロック、レゲエをチャンプルーしたサウンドと、飾らない言葉でメッセージを発信し、世代を超え人気を呼んでいる。沖縄で生まれ育った彼らならではの“島唄”を全国に向け歌い続け、2016年でデビュー10周年を迎える。かりゆし58 オフィシャルHP
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