取材:榑林史章

ただ人間の欲望を否定するのではなく、
ちゃんとそこも認めた上でどう生きてい
くか

アルバム『A beautiful greed』は、流れや世界観とか、1枚を通しての作品性みたいなものをすごく感じました。

佐藤
毎回作品出すたびに“計算して作ったんでしょ?”って訊かれるけど、全然そうじゃなくて。
大木
僕というひとりの人間が詩曲を書いているわけだから、コンセプトを考えなくても、アルバムという目標に向かっていれば、結局そういうものになるんですよ。現に、ここ2年くらいに出した作品は全部ノープランで作ってますね。

イントロダクションの「A beautiful greed」から“オッ!?”って感じでしたよ。ピアノの静かな雰囲気からいきなりドカドカと激しくなって、超アッパーの1曲目「±0」へとつながり、一気にアルバムの世界へと引き込まれました。

大木
イントロはタイトル“A beautiful greed(美しき欲望)”をまさに表現していて。欲望たちが渦巻いているイメージ。きれいな世界が急に内面がブワ~っとあふれ出てくる…『千と千尋の神隠し』のカオナシみたいな。最初は大人しくてヒョロッとしているけど、いろんなものを取り込んで膨らんでドロドロになる。もしくは『AKIRA』の鉄雄とか。

英語の歌詩がすごい内容ですね。神が作った世界を人間が欲望で汚し世界が終わる…神話のようです。

大木
創世記というか、ギリシャ神話。これは自分が好きな世界観ですね。人間がこんなに欲深くなくても、世界が終わる時はいずれ来るわけで。どのみち±0になるんです。ただ、人間の欲望を否定するのではなく、ちゃんとそこも認めた上でどう生きていくかっていうのが大事ですよね。

ラストの「OVER」では、しっとりとした美しい世界観が広がっていて、何だか神々しさすら感じました。

大木
「OVER」は「I stand free」の時に一緒に録っていて。だから、アルバムの最初の方に録ったんです。その時は上手く表現しきれず、歌詩と歌が気に入らなかったので、お蔵入りにするはずだったんですよ。
佐藤
それを俺らが絶対良いから入れようよ!って。
浦山
アルバム全体がどんな感じになるか確認しようと思って、仮で並べて聴いた時、「OVER」で締めるのがすごくしっくりきたんです。だから、絶対に入れたいって思ったんですよ。
大木
で、最後の最後にわがまま言って、録り直させてもらいました。逆に言うとすごくこだわった曲ということですね。歌詩を書き直した回数も何十回じゃ足りないくらい。最初はマイナスな気持ちで、“人間はダメな生き物だ”みたいな諦めで書いていたんだけど、プラスの気持ちでちょっと書いてみたらすごく上手くいって。この曲が求めていたものは先に向かって越えていく、向こう側に行くような気持ちだったんだなって気付いてからできました。

歌詩に出てくる“透明なカケラ”というのは?

大木
人間は誰しも、きれいで美しい純粋無垢なものを追いかけていると思うんです。最初から汚れたいと思ってる人なんていないのに、いろんなしがらみや日々の生活で、ドロドロしたものにまみれていってしまう。だからこそ、きれいで美しいものを追いかけるわけで、その追いかけている姿が最も美しい。“greed(欲)”とはかけ離れた無垢なもの、誰でも生まれた時には持っていたものが、“透明なカケラ”です。

「ucess」「Bright & Right」はベースが効いていて、アルバムの中でもまたちょっと違った世界観ですね。

大木
「ucess」は、初めてほぼ1曲まるまるをサトマ(佐藤雅俊)が作ったからベースが際立ってるんですね。「Bright & Right」も、きっかけになったのがベースのフレーズだったし。

タイトルの“ucess”はどういう意味で?

大木
自分たちの仲間がやっているお店の名前で造語なんです。もともと、その店がオープンする時に店内で流す曲を作ってほしいって言われて作ったもので。
佐藤
だから、ACIDMAN用に作った曲ではないという(笑)。ドラムは一悟に考えて叩いてもらって、それを録っておいて、自宅でひとりで組み合わせて作ったんです。
大木
でも、もったいないっていうか(笑)。自分らの曲として発表したいと俺は思っていたので、今回インストが欲しいって考えた時に思い出しました。

一悟さんが作られた曲もあるのでしょうか?

浦山
1曲まるまるではないけど、「ファンタジア」の原型を作りましたね。最初はもっとポップでかわいい感じの曲だったんだけど、大木がメロディーを気に入ってくれて残したいってことで。それで、15分かそこらで、こうやったらもっと良くなるって考えてくれました。
大木
“惜しいな、もっとこう変えたら良いのにな”って、聴かせてもらいながら考えていて。で、リズムもコードも変えちゃった。最初はあっけらかんとして、のっぺりとした、ただのポップな曲だったんですよ(笑)。
浦山
大木のマジック・スパイスで生まれ変わりました!

これがアルバムのリード曲というのも意外でした。これまでのシングルのイメージとは違いますよね。

大木
違っても全然大丈夫ですよ。スタッフの評価が一番高かった曲なんでね。俺個人としては「HUM」が良かったんだけど、さすがにマイナーすぎるってことで。

その「HUM」は、ちょっと変わった曲ですよね。途中で転調してエキゾチックな感じになったり、他のどの曲とも違う色だし。

大木
「HUM」は、一番音楽的な曲だって思うんですよ。それで俺の中でも一番好きな曲なんですけど。音楽って必ずしも、カラオケで歌いやすいとか、AメロがあってBメロがあってサビがあるものが良い曲というわけではなくて。自分の内面、感情や知識を超えて表現するものが音楽だと思うんです。人の気持ちに作用して、聴いた人の価値観や世界を変えてしまうような壮大なもの…この曲は、そういう音楽にすごく近いと思っていて。計算もなく思うがまま、流れのままに作ったし。
佐藤
世界観や圧倒的な音の感じを出すためにどうやったら良いかすごく悩んだ印象があります。ベースがフレーズを弾いているんだけど、ディレイを使っていて。ディレイで飛ばした音に次の音を当ててって感じで、複音ぽく聴こえるように工夫してるんですよ。そのやり方も気に入ってますね。

1曲1曲が主役で一気に聴けて、また明日
も聴きたくなる

“月”と“太陽”という言葉がたくさん出て来ますが、これはどういう意図があって?

大木
ずっと昔から使っている言葉で、圧倒的な命の根源である光りと、その光りを生み出すのが太陽。ただ、光りだけでは生命は生まれなくて、月とのバランスによって生まれるんです。月がなかったら人間、ほ乳類は存在しなかったかもしれない。潮の満ち引きや女性の月経も月の引力によって引き起こされているし、感情のバイオリズムであるとか、月と人間はすごく密接なんです。だから、俺の中では命を与えているエネルギーの象徴が太陽で、それを見守り包み込んでいるのが月というイメージなんです。

その太陽が世界を溶かしてしまうという表現もありますね。

大木
何十億年後かには太陽がものすごく膨らんで、でかくなって赤色巨星というものになるんです。それで最後には周りの衛星を全て溶かしてしまう。宇宙に関する研究で、そういうことも分かっていて。

そういう知識と、今を生きる大木さんが考えたことを重ね合わせて、メッセージしていくのがACIDMANだとすると、このアルバムで最も訴えたかったこととは?

大木
特にこのアルバムだからっていうのはないんだけど、俺がいつも訴えてるのは“命”のこと。とてつもないエネルギーととてつもない組み合わせでできていて、それは必ず終わっていくし、生まれ変わっていく。それが命だし、それを感じること…ただ漠然と生きるのではなく、いろんなことを感じながら生きる。目に見えなくても重要で素晴らしいことがたくさんあるんだよっていうことです。

いつもは自然の写真が多いジャケットデザインですが、今回は絨毯の模様で珍しいですね。

大木
そうそう、絨毯です(笑)。トルコのキリムという伝統的なデザインをモチーフにしていています。

どうしてキリムをジャケットに?

大木
アルバムの8割ぐらい仕上がった頃に、タイトルとジャケをどうしようかなって。今回の作品は、エグ味と少しグロさのある感じだし、欲するままに枠からハミ出しても気にせず作っていたので、タイトルには“greed”という言葉を使おうと。その欲望ってドロドロとしたグロテスクなものだけど、それがいくつも折り重なって組み合わさって、この美しい世界が作られているわけで、そんなところからキリムがピンと来たんです。キリムも膨大なパターンの組み合わせによってできていて、それが一枚の絵になるととても美しい。
浦山
こうしてアルバム全体のことを考えると、1曲1曲がむっちゃ存在感あるって思いますよね。最初は速い曲はもっと分散したほうがいいんじゃないかと思ったけど、結果的に前半の攻めてる攻撃的な感じがすごく良いし、やっぱり「HUM」の存在感がとてつもなくヤバイ。で、最後の「I stand free」「OVER」で一気に開けていく感じもすごく気持ちいい。1曲1曲が主役だし、流れとしても一気に聴けて、また聴きたくなる作品になったなって思いますね。
佐藤
昨日も家でツルッと聴いてたんだけど、自分たちの作品ながらすごく良いなって思いますね。始まり方も良いし、中盤も景色が見えるし。最後にはすごく浄化されるっていうか、心が洗われる感じがする。全体的にドラマチックだし、長く楽しめそうな作品だなって思います。
大木
すごく大満足の作品ですよ。ノープランで作り始めたけど、エグ味もあり、精神的なミュージックも出せたし、結果的にバランスが取れて、上手く着地できました。

10月からは、同アルバムを引っ提げての全国ツアーも控えてますね。

大木
東名阪以外はほとんど久しぶりに行くんで、そういう意味では早く行きたいっていうのが今は一番大きいですね。
浦山
岩手とかは初めて行くんですけど、俺、わんこバージンなんで、初めて食べるのが楽しみです(笑)。
佐藤
俺もわんこソバ食べたことない。
大木
岩手の打ち上げは、わんこソバで決定!(笑)
佐藤
12月には武道館もあるんで、楽しみですよね。俺、前回浮かれちゃってて。すごい楽しくて、ずっと笑いながら弾いてたんですよ。お客さんがすごく楽しそうで、一緒にノッて歌ってくれてる、そういう顔を見るとどうしても楽しくなっちゃって。でも、今度はもうちょっとストイックに、楽しみつつも表現するところに意識を持って行きたいですね。
大木
俺は歌ってるから、ライヴやってても苦しいほうが多いんですよ。だから、笑ってやれるサトマが羨ましいくらいで。息苦しいし、吐きそうになるし、それとの戦いですよね。マラソンとかと似てるのかも。

マラソンだとランナーズハイがあるじゃないですか。

大木
そう、それがたまにあって、その時ほど気持ち良い時はないんです。一瞬ね、ブワッて目の前が真っ白だか真っ黒になって、無意識で歌ってる。前は3年前のZeppの時だったかな、最後の曲でそうなった。

今回は武道館でぜひその感覚を!

大木
ほんとそうですね。
浦山
俺は前回の武道館は、すごい緊張して表情も身体もカッチコチだったんで、次はリベンジする気持ちでやります。どの曲も難しいんで、1曲1曲しっかりやりたいです。
ACIDMAN プロフィール

埼玉県私立西武文理高校時代に出会い結成された3ピース・ロック・バンドACIDMAN。当時は4人組で結成され、受験休業を経て、大学進学後、下北沢を中心に97年ライヴ活動を開始。 99年のヴォーカル脱退、現在のメンバーである大木伸夫(vo&g)、佐藤雅俊(b)、浦山一悟(dr)の3ピース編成となる。

02年、「造花が笑う」「アレグロ」「赤橙」のシングル3枚連続リリースでメジャー・デビュー。同年10月には1stアルバム『創』を発表、スマッシュ・ヒットを飛ばす。パワーポップ/ガレージ/パンクのテイストを独自に昇華させたハイブリッドなロックンロールから、哀愁漂うメロディックなスロウ・ナンバーまで、いずれの楽曲にも美しい旋律が貫かれ、エモーショナルなヴォーカルも聴く者の魂を震わせる。
03年8月に発表した2ndアルバム『Loop』ではより深遠な音世界を構築し、04年9月には“あらゆる色の生命をイコールで繋ぐ”という、かつて無い壮大なテーマとその独創性が表現された3rdアルバム『equal』を発表。輪廻転生をコンセプトに作られた約14分にも及ぶ大作「彩‐SAI‐(前編)/廻る、巡る、その核へ」は、映像クリエイターである西郡勲がビデオ・クリップを手掛け、第8回文化庁メディア芸術祭では優秀賞を獲得した。
05年12月にリリースした4thアルバム『and world』を引っさげ、全国ライヴ・ツアー『and world』を敢行。06年7月、このツアー・ファイナルの模様を収録した自身初となるライヴDVDをリリース。音楽と映像のコラボレーションという新しい形でのライヴを行い、多くのロック・ファンを虜にした。そして07年2月に5thアルバム『green chord』を完成させ、5月にはACIDMAN史上初となる日本武道館にてオール・スタンディング形式のライヴを開催。ストイック過ぎるほどストイックで真摯なバンド姿勢ゆえ、一時は解散の危機にぶつかった彼らだが、08年4月に6thアルバム『LIFE』を、09年7月に7thアルバム『A beautiful greed』を発表するなど、現在は年1度のペースでアルバム・リリースを重ねている。

「音の力。詩の力。」「深淵・迷走・創造・騒々」——展開著しく、時に裏切り、時に平たん。静と動。スリーピースの可能性へ常に邁進している彼らは、成功を手中にしてもなお、ストイックなまでに己のバンド・サウンドの純度に磨きをかけ続けている。ACIDMAN Official Website
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OKMusic編集部

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