【JACKSON VIBE】
取材:土内 昇
1曲1曲が濃い、いいアルバムができましたね。作る前はどんなものにしたいと思っていたのですか?
今やりたいことを最高にカッコ良い形で落とし込もうって。それは毎回一緒なんですけど…自分が好きな音楽を全部、JACKSON VIBEのバンドアンサンブルにアレンジするっていうのが、今までだったんですよ。だから、ライヴと音源がイコールな感じというか。でも、今回はバンドのアンサンブルとは関係なく、弾き語りで作ったものに対して“この曲はこういう形にするのがベストだ”っていうふうに、頭で鳴っている音を全部入れていって、そこからバンドのメンバーとやるって感じでしたね。今回、JACKSON VIBEと鍵盤をやってくれている横山裕章くんとの共同プロデュースなんですよ。今まではバンドでやったものの上に必要な音を乗せていたけど、今回は頭の中で鳴ってた音は最初の段階から入ってる…バンドアレンジの時から、メンバーとして横山くんも一緒に入ってもらってたから、そこが今までと一番違いますね。
そうやってバンドという縛りがなくなったせいか、すごく自由にやっているし、グローバーくんのルーツが滲み出てますよね。ニューミュージック的なものがあったり、テクノがあったり。
今回は個人的な脳みそだったというか、自分の趣味をそのままやった…もともとブラックミュージックがすごく好きなんで、それをロックバンドでどうやろうかっていう感覚がすごくあったんですけど、それが今回はないですからね。アルバムを4枚も作っているから新しいことをしてみたかった…“新しい”というのも、やったことのないものをやるんじゃなくて、今まで自分の頭の中に鳴っている音や、自分が好きなものを、そのまま裸で出したことがなかったから、そのアウトプットの仕方が変わったという感じですね。“裸で攻める”っていう。
表題曲の「夜をかけぬけろ」からして、70年代っぽいグルーヴィーなサウンドですものね。
それも自然だったんですよ。でも、この曲ができて、“俺は新しくなってるぞ”って感じがしたというか。ギター一本で歌っている時のノリと、それがバンドになったもので歌っている時のノリっていうのは、曲によってはなかなか一緒にならないんですけど、今回は全曲一緒で…特に、この曲はバッとできたんですよ。歌詞も頭からケツまで一気に書けて、アレンジもひと晩でできたし、メンバーやスタッフの反応も今までで一番良かったんです。自分が一番良いと思っているものが、聴いた人もめちゃくちゃ良いって言ってくれることって、実はありそうでなかったりするんですけど、この曲はそれがあったんですよ。…とにかく、この曲、すげぇカッコ良い!(笑)
もう1曲の表題曲「アリシア」ですが、こちらはピアノとストリングスを大胆にフィーチャーした、ハートフルなバラードなんですよね。
この曲は『夜をかけぬけろ』と同じタイミングぐらいにできたんですよ。ダブルタイトルにしているのは、『夜をかけぬけろ』は“世の中があって自分がある”っていうか…“音楽で食って行きたい”とか、“自分の音楽をいろんな人に届けたい”とか、世の中と暮らしている自分のことを歌った歌詞で始まって、最後は歌い手として“立ち止まってないで、かけぬけろ!”ってみんなをアジってるんだけど、『アリシア』はそういうのはまったく関係ないんですよ。好きな人と自分だけのお話で…なんなら、好きな人は目の前にいないんだけど、その人のことを思っている。『夜をかけぬけろ』の中にいる自分と、『アリシア』の中にいる自分とでニコイチになっているんで、その両方をタイトルに付けたんです。“世の中と自分”と“自分だけの世界”。今回のアルバムってド頭に『夜をかけぬけろ』っていうテーマがあって、最後に『いくつの朝を』で夜が明けるっていう感じで、いろんな夜の景色を歌っているんですけど、大きく分けたら、その二種類なのかなって。結局は仕事をしているか、誰かを愛しているかのどっちかなんですよ…俺はね。だから、今回のアルバムは上半身と下半身の二本立て…っていうか、みんなそうだと思うんです。ほんとは下半身のことってすごくロマンチックだったりするし、頭で考えて世の中とうまくやっていくっていうのが下品なことだったりするんだけど、それは人間ならあって当たり前のことなんでね。このアルバムはそういうことを歌っているっていうことです。
だからこそ、ラブソングにしても切ないものからエロティックなものまで、いろいろなタイプの恋愛が描かれていると。
そうです。で、サウンドもいろいろあるという。例えば、“今日はアース(・ウィンド・アンド・ファイアー )かな?”とか、“今日はテクノかな?”とか、その日の気持ちに合った音楽というものがあるから、いろんなサウンドがあるのは自然なことで…それは冒険やチャレンジとかじゃなくて、喜怒哀楽の中に自分の音楽というものがあるんで、それが形になっているという感じです。
これだけいろいろなアプローチができたということは、バンドの許容量も広がったのでは?
そうですね。やりたいことって頭の中にあるし、好きな音楽っていろいろあるんだけど、知らず知らずに慣れた方に行きがちだから、今回は“好きなことは全部やろうよ!”っていう感じだったんです。結果、“こんなにカッコ良いものになった!”っていう。いろいろ頭で考えて作った音楽って、やっぱり“ああすれば良かった~”って後々思うことがあるんだけど、今回はそういうのがないんで、最高傑作ですね!
満足度の高いアルバムができたというわけですね。
高いです! 今までってJACKSON VIBEっていうバンドを走らせるために、俺は全力を注いできたけど、今回は俺自身の音楽がスタートする感じ…JACKSON VIBEだけじゃなくて、スカのバンドとかいろいろやってきて、そういうものが自分の中でひとつになったいうかね。だから、俺…グローバー義和のスタート。それはメンバーそれぞれが、俺と同じ気持ちだと思うんですよ。自然とそういう気持ちになったというのは、バンドって人間の集合体だから、“時が来た!”って感じですね(笑)