【城 南海】『ウタアシビ2016春』20
16年3月19日 at 日本橋三井ホール

撮影:在津完哉/取材:桂泉晴名

 心の琴線に触れる温かく澄んだ歌声で多くの人を魅了し、出演中のテレビ番組テレビ東京『THEカラオケ★バトル』では9冠(3月19日現在)という偉業を達成している城 南海(きずきみなみ)。テレビやCDでも彼女の歌の素晴らしさは十分伝わるが、やはりライヴで直接体感することに勝るものはない。

 この日、ステージに現れた城南海は、深い藍色で、ところどころに花の模様が入ったドレスをまとっていた。彼女の美しさを際立たせていて、目を奪われる。ライヴは一青窈作詞の「兆し」で穏やかに始まった。この曲は東日本大震災が起こった2011年に発表されたが、悲しみに沈むのではなくそっと祈りを捧げ、未来の光を見ようとしている詞が心に残る。城の語り掛けるようなヴォーカルが会場を満たしていく。今回はピアノ(ただすけ)、ギター(遠山哲郎)、パーカッション(notch)、チェロ(古川淑恵)というバンド編成で、音の響き合いを十分堪能できるようになっていた。

 2曲目は水面に映る月に、人とのつながりを重ね合わせた情熱的な「月と月」。城のヴォーカルにピアノのただすけのコーラスが合わさって、力強さが増していく。エモーショナルに歌い上げる彼女の姿を観ていると、ここ1、2年ですっかり大人の女性としての風格が漂ってきていたが、その印象は一層強くなった。テレビ番組『ザ・ノンフィクション』のテーマソングであり、これまでジ・エキセントリック・オペラ、中孝介、たむらぱんといったアーティストが歌い継いできた「サンサーラ」では、城の声を追いかけるようなチェロの音にドキッとする。以前、城のライヴを観た時も感じたが、チェロの深みのある低音は、やはりどこか愁いをたたえた城のヴォーカルにぴったりと合っていると思った。

 そして、2009年のテレビドラマ『エゴイスト〜egoist〜』の主題歌「誰カノタメニ」。この曲を歌った後、城は“今日は(川島)なお美さんのドレスを着ています”と明かす。『エゴイスト〜egoist〜』は川島なお美さんの出演作で、城との出会いのきっかけとなった作品である。川島さんを心から慕っていた彼女の思いが伝わってきて、胸がいっぱいになる。

 ライヴの中盤は、カバーコーナー。ファンから事前にリクエストを募り、歌いたい曲をメドレーにしてイルカの「なごり雪」やRUI(柴咲コウ)の「月のしずく」を披露した。『THEカラオケ★バトル』の時もそうだが、城は原曲の持っている世界観を大切にしながらも、彼女ならではの表現に昇華していく。

 さらに、城のライヴでは恒例となっている、オーディエンスと一緒に歌って遊ぶウタアシビコーナーでは、三沢あけみの「島のブルース」をセレクト。この曲は城が以前、司会アシスタントを務めていたテレビ番組『徳光和夫の名曲にっぽん』で三沢あけみと共演した時に歌い、三沢本人から“この歌をぜひ歌い継いでほしい”と言われたという。手拍子をしながら、オーディエンスは城の誘導に合わせて歌う。そのまま軽快な「ハルカゼ」とラテン調のアップテンポな「アカツキ」が続く。しっとりした曲で静かに引き込むのも城 南海の魅力だが、リズムに乗ってオーディエンスの感情を高めていくのも、彼女の歌の醍醐味だろう。

 本編はデビュー曲の「アイツムギ」で締め括る。城がデビューしたのは19歳の時。その後、いろいろな人と出会い、その思いを受け継いできた。シマ唄もそうであるが、今まで城のアーティスト活動には“継承する”というテーマ性を感じていた。しかし今回は、継承したものを、彼女の心と体を通して、新たな表現として生み出していく、ということを強く印象付けるライヴだったと感じた。

セットリスト

  1. 兆し 
  2. 月と月 
  3. サンサーラ 
  4. 白い月 
  5. 誰カノタメニ 
  6. 月の砂漠 
  7. なごり雪 (カバー)
  8. 月のしずく (カバー)
  9. 遠く遠く (カバー)
  10. メロディー (カバー)
  11. キセキノハナ (カバー)
  12. 島のブルース (カバー)
  13. ハルカゼ 
  14. アカツキ 
  15. 夢待列車 
  16. アイツムギ 
  17. <ENCORE>
  18. 祈りうた~トウトガナシ~
城 南海 プロフィール

キズキミナミ:平成元年 鹿児島県奄美大島生まれ。奄美民謡“シマ唄”をルーツに持つシンガー。2006年に鹿児島市内でシマ唄のパフォーマンス中にその歌唱力を見出され、09年1月にシングル「アイツムギ」でデビュー。代表曲は、NHKみんなのうた「あさなゆうな」、「夢待列車」をはじめ、NHKドラマ『八日目の蝉』の主題歌「童神~私の宝物~」、NHKBSプレミアム時代劇『薄桜記』の主題歌「Silence」、一青窈作詞、武部聡志作曲・プロデュースのシングル「兆し」など。また、テレビ東京『THE カラオケ★バトル』に2014年7月に初出演以来、毎回高得点をたたき出し、現在、番組初となる10冠を達成。オンエアの回数が重なるにつれ、カバーアルバムを望む声が多く集まり、15年に初となるカバーアルバム『サクラナガシ』『ミナミカゼ』、17年11月には3枚目のカバーアルバム『ユキマチヅキ』をリリース。20年にはディズニー実写映画『ムーラン』の日本版主題歌「リフレクション」の歌唱が決定し、日本版の訳詞も担当。ライヴでは毎年恒例のワンマン公演『ウタアシビ』の他、さまざまな音楽フェスティバル、イベントに出演している。城 南海 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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