【椎名慶治】SURFACEを経た“今”の
椎名慶治のリアル!
2010年6月、惜しまれつつ12年の活動に幕を下ろしたSURFACE。そのヴォーカル・椎名慶治がソロとして本格始動。助走となるミニアルバム『I』からいよいよ全力疾走の一歩となる、フルアルバム『RABBIT-MAN』を完成させた今の彼の想いとは?
取材:えびさわなち
12年活動してきたSURFACEを電撃解散し、SURFACEではない時間の始まりはどんな心境でしたか?
解散してすぐはやっぱりおかしな感じでしたね。肩書きとして、これから俺は自分のことを何て紹介していこうかって。“元SURFACE”って言っていくのかなとか。もちろん、そう言った方が解散して間もなくはいいかとは思うんです。でも、いつまで引っぱるか。そこが今回のアルバム『RABBIT-MAN』をもって“元”は消えたかなと思っているんです。ここからは個人名である“椎名慶治”に切り替えていく時期になったんじゃないかなと。そんなことばかり考えていましたね。
そこから音楽家として、楽曲制作モードへと突入したとのことですが、これまでSURFACEとして制作していた作品を完全に“椎名慶治”とすることに戸惑いはありましたか?
戸惑いはないです。僕自身の作り方は変わらないので。SURFACE時代からライヴも手伝ってくれていたベーシストの山口寛雄とふたりで作っていくという制作手法を継続してきたし、作り方は変わってなかったので。
では、その中でSURFACE時代と明らかに違う点と言うと?
“待ち”という時間がないことですね。これまでSURFACEでは一緒に作ったり、相手が作るのを待っていたりする時間が重要になっていたんですね。アレンジにしても、楽曲のできてくるスタイルにしても。そこがSURFACEのサウンドには大切な時間だったし、それがあったからこその音楽だった。そのやり方がなくなっただけですね。俺と山口のふたりで作る、いわゆるSURFACEの楽曲制作のパターンだけが残った状態です。…とはいえ、やっぱりSURFACE時代からやってきている“ふたりだけで成立するもの”に対して、ある程度の刺激は欲しくなっていたので、今作に関してはアレンジャーとして磯貝サイモンを加えたりして、ふたりで作るのとは違うなぁと刺激を受けたりはしましたね。これがすごく楽しいんですよ。楽曲が自分の手を離れることが。今後もいろんな人とやってみたいですね。そこは明らかに違う点だと思います。
そうして完成した『RABBIT-MAN』ですが、これこそ素のままの椎名さんが息付いてるなと感じさせられる一枚でした。
でしょうね。まんまだと思います。SURFACEの時ほどカッコ付けてないですし(笑)。SURFACEはサウンドがカッコ良かったので、そっちにイメージも引っぱられているところもあったのが以前よりは抜けてくだけているかなと思います。
そのアルバムはご自身の干支でもある“うさぎ”をタイトルに入れて、まさに素の椎名慶治を描いたように感じますが、テーマはあったのですか?
“今の椎名慶治を伝える”ということだけが大枠のテーマとしてある中で、今年がうさぎ年で、自分が年男ということから“RABBIT-MAN”という言葉が浮かんで、これをテーマにしたら椎名慶治というものを濃密に伝えられるんじゃないかと。その言葉を軸にして作っていったら、本当に今の自分が作れましたね。途中から明確になっていったテーマでした。
濃密に出た“椎名慶治”と“SURFACEの椎名慶治”の違いは?
歌詞の文体とかはそのままなので、良い意味で“らしいよね”って言われたいという気持ちはあるんですけど、かつてと明らかに違うのは“背中を押さない”ということですね。
背中を押さない!?
“頑張れよ”って背中を押すような歌詞ではなくて、“もう十分やってるよ、俺。頑張りたくないよ”っていう書き方に変わっているところですね。そこは違うなって思うんです。“《動き出さなきゃ始まらない》って言ってたあの頃の自分は、今はちょっと嫌だな”っていう、今は言いたくない時期だった。今後また言うかもしれないけど、今は違う。そんなリアルタイムの自分が歌詞には出ているなって思いますね。ただね、濃い~ですよね。俺カラーが。濃すぎて、自分でも嫌なくらい(笑)
(笑)。その歌詞を彩る楽曲も非常に多彩ですが、どんなふうにこれだけ個性豊かな楽曲を作っていったのでしょうか?
アルバムを作ることが決まって、山口と意見を出し合いながら“アッパー”“サイケデリック”“スガ シカオ”…とか、キーワードを並べて、そういう楽曲を作っていきましたね。
スガ シカオ?
好きだし、スガさんみたいな曲を歌いたいんだよねって。“じゃあ、スガ シカオね”って(笑)。あと足りないのはバラードかなとか。それでテンポを決めて、曲にしていって。完全に狙い打ちで作りましたね。だから、1曲もムダがない。ボツになる曲もないくらい、良い曲ばかりだったし。それを並べたらバランスも良くて。気持ち悪いくらいカチっと決まりましたね。
感覚的に呼ばれるものを呼ばれるままに作った感じがしますね。だからこそ、素の椎名さんの歌。ピチピチの鮮度で!
この鮮度はもう超えられないですよね。1stって超えられない。実力が付いて、キャリアを積むと知識も付くからどんどんテクニカルにはなるけど、そういうのを抜きにした部分での力って1stはすごく強いので、僕の中での一番のライバルは『RABBIT-MAN』になると思います。それくらい自信の一枚です。
『RABBIT-MAN』が象徴するうさぎ年も残り半分近いですが、ツアーも含め、今後このうさぎ年をどう走っていくんでしょう?
ツアーも楽しみなんですが、椎名慶治を応援してくれている人たちがいる限り、立ち止まっちゃいけないと思っているし、ツアーが終わればまたすぐに制作に入りたいし、意欲的なので、うさぎのごとく跳ねて、駆け抜けたいです。
- RABBIT-MAN
- 通常盤
- BSCL-0004
- 2940円
シイナヨシハル:1998年、SURFACEのヴォーカリストとしてシングル「それじゃあバイバイ」でメジャーデビュー。10年6月にSURFACEが解散するが、同年11月にミニアルバム『I』でソロデビュー。ソロ活動と平行して結成したAstronauts(May’n&椎名慶治)では『仮面ライダー フォーゼ』のエンディングテーマを歌い、さらにタッキー&翼への作詞提供など、活動の幅は多岐にわたる。現在、高橋まこと(ex:BOØWY)率いるJET SET BOYSのヴォーカルとしても活動中。2018年5月27日にアーティスト活動20周年を迎える。椎名慶治 オフィシャルHP