【Superfly】心のヨガみたいな曲が作
りたかったんです

3枚目のアルバム『Mind Travel』の最後に収められた「Ah」は、言葉を用いない感情表現の可能性を示していたが、実は歌詞が付(ふ)された本来の姿が存在することも明らかにされていた。教会にて録音された「あぁ」に込めた思いとは?
取材:土屋京輔

歌詞がなかった分、「Ah」はイメージは理解しつつも、さまざまに想像が膨らみましたが、本来の姿である「あぁ」を耳にすると、より焦点が絞られて響いてくる印象がありますね。改めて今回の「あぁ」の成り立ちをお話していただけますか。

最近、言葉で表現できることなんて、自分の抱く感情のほんとに一部でしかないんじゃないかって思うようになってきたんですよ。だからこそ、私は一所懸命、伝えなきゃって思う気持ち、言葉を信じなきゃって気持ちもすごく強くなってしまって、逆に傷付きやすくもなっていたんですね。そんなことを感じていた頃に、いただいたファンレターを読んでいたんですよ。そこには誰にも言えないような、上手く言葉にできない悩みが綴られていて…。すごく私も共感する部分だったんですよね。それに何かお返ししたいなと思ったんです。言葉に訳せない、行き場のない感情は胸の中にどんどん積もっていくし、いつの間にか破裂してしまうこともあると思うんです。そういう人をひとりでも少なくしたいというか…。傷付いたままにならないように、気持ちの出所を楽曲で提供できたらなと思って作ったんです。

『Mind Travel』の全てに言えることだと思いますが、音楽に対する向き合い方が、これまでと違うということですよね。

変わってきましたね。それは聴いてくれる人が増えたこともすごく大きいと思いますし、実際にライヴの場でも、目の前にいる何千という人たちから、すごいエネルギーを感じるわけですよ。楽しみを求めている人もいれば、悩みを晴らしたいと思って来ている人もいる。だから、軽い気持ちでは臨めない。私がフワフワしてちゃいけないし、その大勢の人に負けない精神力を持っていないとダメだと思うんですね。“生きるって何だろう?”や“音楽って何だろう?”といったことは、今までも考えてきたつもりだったけど…その深さが変わったのかもしれないですね。

となれば、歌そのものの意味も大きく変わってくると思うのですが。「あぁ」はどんな位置付けになるのですか?

スーッと“溜息”のように歌えるような言葉を探してて…例えば、“涙のひとつひとつが 言葉へと変わればいいのに”とか、“喜び、幸せならば 誰にでも伝えられるのに”や“辛いことほど 言葉にはできない”とか、去年の春頃の日記に書いていたフレーズをそのまま乗せたところもあるんですよ。今回はカッコ付けない、ナチュラルな言葉を使いたいなと思って。すごく引っ掛かっていたテーマではあったんですけど、多分、当時は意識していなかったと思うんですね。でも、後々になって、それが“溜息”なんだなって分かってきた感じではあるんです。

でも、なぜ“溜息”をモチーフとしたんでしょう?

そこはすごく感覚的なもので、小さく溜息をつくと幸せが逃げそうだから(笑)、大きく溜息をつきたいと思ったんですね。それがきっかけだったんですけど、なぜかと言われると…私もその部分を覚えてないんですよ。ただ、この1年の間で思ったことなんですが、歌を歌うことは自分にとって呼吸なんだと考えるようになったこともすごくリンクしてると思うんですね。

歌詞でも表されているように、“大きな溜息でイヤな気持ちを遠くに吹き飛ばす”といった考え方は面白いですね。

溜息って下がっていく感じがあるじゃないですか。それをあえて上に向けて、幸せがびっくりして、逃げるのをやめるぐらい、逆に大きくつけばいいんじゃないかなって(笑)。マイナスに捉えられがちなものも、角度を変えてポジティヴに考えるというか。何でもそうだと思うんですよ。でも、私がこういう歌を作りたい、でっかく溜息をつきたいって話した時、やっぱり作曲家の多保(孝一)くんは“は!?”って言ってましたね(笑)。だから、いろんな話をしたんですけど、神秘的な曲が作りたいんだよなぁって話になった時に、イメージがすぐに沸いたみたいで。そこからは早かったですね。何日か後には“今からかけるけん、聴いて!”って、電話で聴かせてくれたんですよ。彼もすごく手応えがあったみたいですね。私は心のヨガみたいな曲が作りたかったんですよ。コーラス隊のパートも、みんなで溜息をつく感じのものを意識してたんですけど、そういったインプット/アウトプットで気分が浄化していけばいいなって。

体内から排出する行為は、精神安定に効果的だそうですね。

そうかもしれませんね。私はよく泣くんですけど、曲作りの時でも行き詰まったら必ず泣くんですよ。この曲もそう。泣いた後に絵が見えてきたんですよね。“この、言葉にならん気持ちってこれやん! この心境やん!”って。肩の力が抜けて、本当に言いたいことがピョコッと浮かび上がってくる感じですね。

ところで、6月末から始まる全国ツアーでは、「あぁ」と「Ah」のどちらが披露されるのか、とても気になりますね。

それは…その日に言葉が欲しい気分だったら『あぁ』にしてみたりするのかな(笑)。でも、どちらのバージョンもオマケではなく、一緒に並んでいる双子みたいなものなんですね。だから、ちゃんと両方を育てていきたいなぁって思ってます。
「あぁ」
    • 「あぁ」
    • WPCL-10977
    • 2011.06.29
    • 555円
Superfly プロフィール

スーパーフライ:越智志帆によるソロプロジェクト。2007年にシングル「ハロー・ハロー」でデビュー。08年に1stアルバム『Superfly』をリリースすると、2週連続1位を記録! 以降、オリジナルアルバム及びベストアルバム計6作品でオリコンアルバムランキング1位を獲得。09年にはニューヨーク郊外で行なわれた『ウッドストック』の40周年ライヴに日本人として唯一出演し、ジャニス・ジョップリンがかつて在籍したBig Brother & The Holding Companyと共演を果たす。シンガーソングライターとしてのオリジナリティーあふれる音楽性、圧倒的なヴォーカルとライヴパフォーマンスには定評があり、デビュー17年目を迎えてもなお進化を止めずに表現の幅を拡げ続けている。Superfly オフィシャルHP

OKMusic編集部

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