【熊谷育美】“明日”や“未来”は必
ずある
苦しくても、辛くても、目の前が真っ暗でも、その先に必ず希望は待っている。憂い漂う熊谷育美の歌声にはそんな力強さがあった。
取材:ジャガー
これまでに350曲以上を書き連ねてきた熊谷さんですが、アルバムリリースは初めてだったのですね。
デビュー前からずっと没頭して曲を作り続けてきたので、気付いたらそれぐらいになっていて(笑)。以前からアルバムを出したかったんですけど、いざアルバムを出すとなるとドキドキしましたし、聴いてくれるのか緊張感もあって。出来上がった今は感慨深いものがありますね。既存の5曲に加え、新曲7曲が収録されているんですけど、大きな流れを感じるものになったかなとは思います。
しっかりと一歩一歩踏みしめて生きていくような、並々ならぬ活力にあふれたアルバムだと感じました。
そこはみなさんが感じたままに受け取っていただければ嬉しいんですけど…やっぱり3月11日の出来事があって、みなさん大変な思いもして。私の中でも“明日”や“未来”という言葉への期待感が変化していきましたね。震災前には考えもしなかった恐ろしい現実を突き付けられて、一日一日を過ごして。だけど、私たち大人が不安を抱いてしまうとこれからを担う子供たちはもっと不安になってしまうから、“明日”や“未来”は必ずあると私は信じて前を向きたかった。そういった切実な思いや願いをアルバムタイトル『その先の青へ』の“青”という言葉に託しています。
どの曲にも希望があり、どれも身近なことを歌われていますよね。
そうですね。私自身、いろいろもがいてはいるんですけど(笑)。自然の猛威も身を持って経験しましたけど、これからも自然とともに暮らしていきたいですし、その中で私も生き続けて、明日へ向けて、未来へ向けて歩んでいきたいですね。
特に映像が鮮明に浮かんだのは、「夏の華」でした。
毎年『気仙沼みなとまつり』という夏祭りがあるんですけど、踊りや太鼓の練習をして、住民はそこに全てをかけてるんですよ。でも、今年は震災があって中止になり、その代わりに復活祭として鎮魂の花火が上がったんですけど、その時に観た花火はものすごく悲しい花火で…誰ひとり歓声なく、笑ってる人もいなくて、それぞれに上を見上げていた。その光景を観た後でのレコーディングだったので、歌に込める気持ちもいつもとは違いました。
そして、リズムに自然と体が揺れ動く「虹」や、口笛から始まる「海」など、これまでの印象をガラリと変える曲もありますよね。
聴いてくださいました?(笑) 驚きがあるかもしれないですけど、どれも気仙沼で作り溜めてきた曲ばかりで、私の一部なんです。ただ、自分の中だけで完結していたものが、プロデューサーやアレンジャーさんに渡っていく間に新たな息吹を宿すことで世界が広がっていくんです。制作期間中はその作業がすごく楽しみなんですけど、今回は楽器を含め、『虹』のシャッフル系のリズムであったり、新鮮な取り組みが多かったですね。ちなみに、『海』の口笛は、アレンジャーの石橋光晴さん自ら吹いてくださいました。ここも聴きどころです。
最後の「僕らの声」は、このアルバムを象徴する生命力ある温もりに満ちた一曲ですね。
『僕らの声』は、震災後に書き下ろした曲です。最近、学校に呼んでいただく機会が多くて、生徒さんたちと合唱したりするんですけど、一緒に歌える曲が欲しくて書き下ろしました。《平成の直中を 生きる僕らの声が 何年先も何百年後も 響いていますように》という一節があるんですけど、そのフレーズが私の今の素直な気持ちで。この曲はアルバムの最後に相応しい曲になったと思います。
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