【amazarashi】僕は僕で前に進みたい
と思います

とてもやり尽くした感じというか 言い
尽くした感じがあります

はじめに、少し振り返らせてください。2010年、2011年、2012年と、前作『ラブソング』に至るまで非常に早いペースで リリースを続けてきましたが、その時期のことを振り返ってどう思われますか? 音楽家としてごく当たり前のことだったのか、どんどん出したいという強い意志があったのか。そして、今はどうなのか。そのあたりの心理を教えてもらえると嬉しいです。

確かにペースは早かったですね。自分でも大丈夫なのかなって思ったりしましたが、それがあっての今でもあるし、渋谷公会堂やZeppTokyoでライヴがやれたのもその結果だと思うので良かったと思います。そんなに制作で行き詰まることもなかったんで、このペースが厳しいと感じたこともないです。ただ、この先もうちょっとインプットを増やす時間も必要かなとは思っています。実際どうなるかは分かりませんが。

前作『ラブソング』の制作と、それに伴うツアー。リスナーの反応も含め、『ラブソング』にかかわる一連の出来事の中で、一番心に残っていることや、手にした実感について教えてください。

なんか、あっと言う間にすぎてあまり記憶に残ってないです。ライヴの場面は思い出せるんですが、それがいつのことだか曖昧です。ただ、スタッフ、メンバーの結束力が強くなって、よりやりやすい環境が整ったのが『ラブソング』以降だと思います。

新作の話をさせてください。7曲入りアルバムにすることは、最初から決めていたのでしょうか? そして、どのようなコンセプトのものにするのかなど、制作当初にあったイメージやテーマについて教えてください。

「風に流離い」という曲ができた時点で次はこれを出したいと思ってて、そこから考えました。コンセプトとかはなくて、漠然と刺々しいものを作りたいなと思ってました。

だいたいで良いのですが、曲のできた順番というのは? 最初に完成した曲、最後に完成した曲だけでも構いません。

「ミサイル」が一番古くてアマチュア時代の曲です。でも、歌詞は変えて…それは今年に入ってからでした。それ以外は古い順に「パーフェクトライフ」「風に流離い」「ジュブナイル」「性善説」だったと思います。だいたい去年に作った曲です。ポエトリーリーディングの2 曲は最後に作りました。

ここからは曲についての質問です。答え辛いもの、答える必要のないものは飛ばしていただいて構いません。「風に流離い」は秋田さんの心の中が非常に率直に吐露されているようで、胸に響きました。特に《自分の為に今は歌いたい》という言葉が刺さったのですが、この言葉を書いた時の思いが知りたいのですが。

この曲は自分の人生のまとめのような曲で、今回のアルバムの中では僕にとって特別な曲です。最初にサビのフレーズを思い付いて、いろいろ書いていくうちにその時の自分の気持ちがあふれた感じでした。《自分の為に今は歌いたい》というのは、そうすることが一番の恩返しになるのかなと思って書きました。今になっていろんな人に感謝もあるんですが、そういう歌を歌うよりはもっと自分を剥き出しにした歌を作ったほうが、結果的に喜んでもらえるんだと気付いたので。

「ジュブナイル」で語りかけ、その背中を強く押していると思われる“君”について。秋田さんの心の中には、どんな世代の、どんな場所の、どんな人の顔が浮かんでいるのでしょう?

昔の自分であり、今まさに戦っている人たちです。amazarashiに手紙をくれる人たちには夢を持ってる若い人も多くて、そういう人たちを見ていると昔の自分と重ねてしまって、この歌詞になりました。応援歌です。

「春待ち」について。この曲のように、季節のうつろいと日々の普通の暮らしを重ね合わせた叙景的なポエトリーリーディングは、毎回アルバムに入っていて、とても好きです。この曲が描く季節や風景について、何かひと言いただけますか?

この歌詞を書いたのが多分1月くらいで、リリースは4月と分かっていたので“早く春がこないかな”と思って書いてました。ポエトリーリーディングは次の曲につながるようなインタールード的な役割なんですが、この歌詞も次の「性善説」に向けて少しずつ動き出すようなイメージで作りました。

「性善説」について。ここで歌われる“ママ”には、さまざまな存在が重ね合わされているように思います。“ママ”という表現に込めたもの、使った理由が知りたいのですが。

身も蓋もないことを言ってしまえば、この曲は教育について歌っているんですが、その最も根源的な原風景として“ママ”が出てきたのは僕にとって自然なことだと思います。2番目のサビの《馬鹿な男の下世話な自慢話に 子供を連れ車両を変える母親を見たよ》は実際に東京の電車で見た風景で、それが基になってこの曲ができました。

「ミサイル」について。意味の相反する言葉が重なり、うねり、答えの出ないままに突き進んでいくスピード感に圧倒されました。この曲はサウンド全体のスピード感も素晴らしいと思います。曲作りの時に最も大事にしたのはどんなことでしたか?

上で書いたように、この曲は最近になって歌詞を変えたのですが、このスピード感とわけも分からず突っ走る感じは大事に、変えないようにしました。変に答えを出して綺麗に着地するよりは、衝動的なものを意識した結果こうなりました。

「僕は盗む」。次の曲「パーフェクトライフ」につながる、《完璧な人になりたくて。》という言葉が印象的です。この2曲は心理的につながっているものでしょうか?

はい、つながってます。あとは「ミサイル」ともつながっていて、曲作りでのジレンマみたいなものがテーマになっています。感情が先にあって曲ができるのがあるべき姿だと思うのですが、最近は曲を作らなくちゃと思って感情を探すみたいなこともあったりして葛藤もあるんですが、それを“盗む”と表現しました。

「パーフェクトライフ」。不完全であることを認める、凄みのあるポジティブなテーマだと思いました。新しい始まりの曲でもあると思うのですが、この曲をアルバムのラストに置いた気持ちを教えてください。

わりといつもそうなんですが、最後は明るく終わらせてしまいます。曲順次第なので重い余韻を残して終わらせようと思えばできるんですが、そうしないのは自分がそういうものを聴きたいからだと思います。

完成した『ねえママ あなたの言うとおり』は、ご自身にとってどんな作品になったという実感がありますか? 過去の作品との比較でもいいですし、自分の中での満足度など、気持ちの部分のことでも構いません。

とてもやり尽くした感じというか、言い尽くした感じがあります。このタイミングでこういう重い作品をリリースできるのはラッキーだと思います。満足はしたんですが、最近新しい曲を作ったりしてて、僕にとっては過去の作品になりつつあって、そう俯瞰して見るととても不細工で足掻いている作品だと思います。

5月からツアーが始まります。少し先のことですが、どんなものを観せたいのか、今思っていることを教えてください。

バンドとしてのamazarashiのパワフルさとか、もっと無骨さとかを観せられたらなと思ってます。細かいことは決まってませんが、いいライヴになる予感があります。

今、amazarashiの音楽はどんな人に届いているという実感をお持ちですか? もしくは、これから届いてほしい相手のイメージなど、抽象的で構いませんので、リスナーについて思っていることがあれば教えてほしいです。

amazarashiに共感する人は、amazarashiを自意識の拠り所にしてる人が多いのかなと思ったりします。それが善いとも悪いとも言えませんが、その中での評価で、例えば、褒めてくれたりとか感謝の声とかで僕が満足してしまうと、いよいよ傷を舐め合うだけになってしまうので、僕は僕で前に進みたいと思います。
『ねえママ あなたの言うとおり』は、サウンド的にはより深みと広がりを増したドラムの音を中心とした力強いバンドサウンドと、アコギ、ピアノ、ストリングスなどの繊細な響きを生かしたドラ マチックなアレンジで、音の完成度は間違いなく過去最高の一作だ。歌詞は彼が答えてくれたように、現実のエピソードに基づく疑問や衝動、行き場のない重さをはらみつつも最後は希望を示唆していて、それを歌う秋田ひろむの声はさらに説得力と凄みが増し、語りかけるような朴訥な響きの中に深い歌心を感じさせてくれる。どこを取ってもバンドとしての成長は明らかで、もっとすごくなったらどうなってしまうんだろう?と、未来が怖く感じられる ほどのアルバム。amazarashiをまだ知らない人にとっても、最高の入口となる作品であることを保証しよう。
『ねえママ あなたの言うとおり』2013年04月10日発売Sony Music Associatead Records
    • 初回生産限定盤(DVD 付)
    • AICL-2527〜8 2100円
    • 通常盤
    • AICL-2529 1900円
amazarashi プロフィール

アマザラシ: 青森県在住の秋田ひろむを中心としたバンド。2010年のデビュー以来、一切本人のメディア露出がないながらも、絶望の中から希望を見出すズバ抜けて強烈な詩世界が口コミで広まり、瞬く間にリリースされたアルバム全てがロングセールスを続けている。ライヴではステージの前にスクリーンが貼られタイポグラフィーなどを使用した映像が投影されて行なわれるスタイルで独自の世界観を演出し、3DCGアニメーションを使ったMVは文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞するなど国内外で高く評価されている。amazarashi オフィシャルHP

OKMusic編集部

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