【泉 沙世子】“剥き出しの愛”をテ
ーマに書いた危うい歌
新しい観点、これまでにない歌唱法で表現された「手紙」は、彼女の新境地とも言える作品。デビュー前からの恩人をアレンジャーに迎えたサウンド面との相乗効果に着目を。
取材:竹内美保
歌勝負というか、いかにヴォーカリストとして、表現者として活きるか、という作品ですね、今回の「手紙」は。
そうですね。「手紙」のメロディーは山口寛雄さんに書いていただいたんですが、“歌うたい”としてすごく歌い甲斐があります。気持ちを込めれば込めた分だけドラマチックになっていくし、可能性の広いメロディーなので。
《「引き裂くなら殺してしまおう」》という必殺の一行、インパクトの強いフレーズから始まるので、歌詞の世界に一気に引き込まれました。
この映画を観た時に感じたのが、危うさと色っぽさだったんです。なので、この歌にもそういうところをどんどん出していきたいなと思って。ただ、歌詞に関しては怖さもあったんです、実は。今までの曲って明るいというか…例えば、愛について歌う時も大きな愛について歌っていることが多かったんですけど、今回はピンポイントというか、ドロッとしている部分なので。だから、今まで以上に素の自分をグッと出す、みたいなところはありました。でも、2番のAメロの《もっと固く縛って》のフレーズとかってちょっと特殊な色っぽい世界にも見えるんですけど、特に何かを意識しているわけでもなくて、ほんとに人間臭い部分、状況を限定せずにいろんな場面を思い描きながら書いていったらこうなったんですよね。今までの作品とはかなり印象が違うとは思うんですけど、この歌に関しては聴いてくださる方がそれぞれ自由に解釈してくれればと思っています。
ラストの《抱きしめたい守りたい》のブロックは歌唱法も含め、包容力のようなものが感じられました。
だんだんと柔らかい雰囲気になっていってるんですけど、一見怖く見えてしまう歌詞の部分にも根底にはこういう気持ちがあると思うんです。本当はこういった純粋な気持ちからきてるけれど、自分を客観的に見られていなかったり、ラインを越えてしまっている…それがまた人間らしい危うさなのかなと。包容力というのも、私は何となく怖さを感じていて。一番のAメロに《揺れる水面が輝る夕陽を そっと沈めていった》とあるんですけど、海に夕陽が沈んでいく風景って、ふわーって包まれていく安心感もあると同時に暗いところに飲まれていく怖さもあって。だから、守られているとも言えるけど、閉じ込められているとも言える…そういう両面を持っている危うさみたいなものを書きたくて。もともとの愛は絶対的にやさしいものなんだけど、どんどん加速することによってちょっと怖いっていう、そういう愛のかたち…“剥き出しの愛”をテーマに書いた歌ですね、この曲は。
対して「Love you Darling」はかなりスウィートで。サウンドはちょっとラウンジミュージックっぽいし。
これは“甘い”って言うより、“甘ったる!”っていう(笑)。モテる女の子が付けている甘ったるい香水を半身浴で流しながら、好きな人のために自分を磨いてます、みたいなイメージですね。タイトルも言うたびに恥ずかしいし、歌い方もかわいい…というか、甘ったるくてしつこいくらいの感じ(笑)。この曲と「手紙」の主人公は同一人物でもいいくらい共通するものが私の中にあって。どちらも“純粋な愛”を描いてますし。
あー、最後のフレーズの声色とか、危うさがありますしね。
重いんですよね、結局どちらも。恥じらいや照れ、人がどう思うかより、好きな相手に向かってただひたすらいく。でも、そのほうが純粋なのかもしれないって思います。
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