【近藤晃央】完結しない想いの先に未
来がつながる1stアルバム
透明感のある凛とした歌声と、独自のセンスを持った歌詞で、着実にファン層を拡大している近藤晃央が、1stアルバム『ゆえん』をリリース。全15曲、彼の想いが非常に色濃く詰まった作品になった。
取材:榑林史章
タイトルの“ゆえん”は、近藤さんが近藤さんたる“ゆえん”、つまり理由みたいな意味合いでいいですか?
言葉としてはそうですね。タイトルを付ける時、1stアルバムってなんだろう?というところから考えたんですが、そこで思ったのは“僕自身”の持つコンセプトでいいんじゃないかということでした。だから、作品としてのコンセプトというよりも、僕というひとりのミュージシャンのコンセプトというか、限りなく根本に近いものでいいんじゃないかと。そうやって“ゆえん”という言葉を選んだのですが、語感的なところでは“ YOU AND I ”とも引っかけていて。あなたとの関係性、あなたと一緒にいる理由というような意味も込めています。自分という根本と、それに対する人というところで、このタイトルが全てを統一させてくれると思って付けました。
“言葉にならない、言葉以上の想いを伝えたい”という、シングル「らへん」のテーマが全体に通じていますね。
はい。「らへん」はすごく初期に作った曲で、この15曲の中でもっとも古いんです。そういうこともあって、僕は何をやりたいのか? 何を表現していくのか?ということの軸になっています。その上で曲によって手法とか、言葉の使い方とか、さまざまな角度でそのことを掘り下げた作品と言えます。
同じひらがな3文字で「つづる」という曲があって、これは手紙をモチーフに書かれているのですか?
僕は地元の友達に近況を報告したりとか、中高時代の恩師から手紙をいただいた時に返事を書いたりとか、手紙を書くことがたまにあって。手紙はもらったら返すのが常識ですが、言ってもらった言葉に対してはもらいっぱなしでいいのか?と投げかけています。例えば、人から言ってもらった言葉に背中を押されることってありますが、それで自分が元気になった後に、もしかしたら言ってくれた人自身が、その言葉を必要とする時がくるかもしれないわけで。そういう時にちゃんとお返しをしたいという歌ですね。もらった言葉を自分の中で育てて、それで今度は相手の背中を押してあげたい、そういう支え合いの姿を描いています。
「HONEY」はすごくポップなナンバーで、歌詞には“ハニー”とか“ダーリン”とか出てくるのが意外に感じました。
これはタイトルや言葉のチョイスに反して、“好き好き”と言ってるような甘い曲ではないんですよ。例えば、長年連れ添った夫婦は愛が根底にあるから、“愛してる”なんて口にしなくても通じ合える関係性が築けていますよね。でも、人間は何かきっかけがないと、そういう当たり前の部分になかなか目がいかないものだと感じ、そういう何でもない日々とか、ただ一緒にいる時間が、本当はすごく幸せなことなんだよと歌っています。これは自分の両親のことと重ねながら、すごく身近なところで感じていたことを素直に書いたんです。
ひたすら自問自答を繰り返す「エーアイ」や、激しいサウンドの「仮面舞踏会」、温かいバンドサウンドの「わらうた」など、本当に多彩な曲が集まったアルバムですね。
ありがとうございます。「エーアイ」は自問自答というところで、人工知能(AI)のことを連想してタイトルに付けました。「仮面舞踏会」は目の部分だけ覆った仮面をイメージしてるんですけど、見えないところに対して先入観を持たずに理解していけるようにと気持ちを込めています。「わらうた」はamazarashiなどをプロデュースしている出羽良彰さんと初めてやらせていただきました。僕の歌はたいていハモリが入っているんですが、出羽さんのサウンドは歌の居場所がすごく明確だったので、ハモると逆にボヤけると思って、唯一ハモリがまったくないのが特徴です。アルバムで一番最後に入れた曲で、ハンドクラップが入ってたり、ラララで歌うところもあって、ライヴでやった時にみんなで楽しめるようなものがいいなと意識しました。歌詞は無理矢理笑おうとしたら、すごくブサイクで笑えたとか(笑)。ちょっと悲しいんだけど、でもどこか笑えちゃうようなテイストです。
ラストの「幸福論」はサビのメロディーがファルセットで歌われていて、グッと心を掴まれました。
ここまでファルセットを多用した曲は、今までなかったです。しかも、そこはファルセットのメロディーに対して、さらにファルセットでハモっているので、その気持ち良さを聴いてもらえたら嬉しいです。僕の中ではかなり古い曲で、当時からアルバムに入れるなら絶対に最後だと思ってたんです。というのは、僕は途中とか、通過点とか、何でもない真ん中とか、はっきりしないところにスポットを当てた音楽をやっていきたいと思っていて。そんなアルバムを締め括るにあたって、《君に逢いたい》という、まだ完結していないけど前向きな言葉で終わっているのが、すごく美しいかなって。
《君に逢いたい》という言葉は、次のライヴとかリリースとかの活動にもつながっていく言葉だと感じました。
完成して、どんなアルバムになったと思いますか?
1stアルバムって大げさに言うと、そのアーティストが生まれてからそれまでの人生が制作期間だったと思っていて。その人の人生が表現されるので、名盤はもちろん、衝動的だったり、すごく濃いものが多いなと、僕自身リスナーとして思っていて。だから、僕もそういう1stならではの作品にしたいと思い制作しました。あと、シングルは3枚しか出していないけど、シングルコレクションを作るような気持ちで臨んだこともあって、自然とサビがポップな曲を選んだ傾向にあったように思います。僕の歌には完結した答えはなく、迷ったり悩んだりしているものが中心です。きっとリスナーにもそういう気持ちの人は大勢いると思うんですね。この作品がそういう人たちと同じ場所に立ったものになれていたら、寄り添っているものになれたら、それはすごく嬉しいです!
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『ゆえん』2013年06月26日発売DefSTAR RECORDS
- 初回生産限定盤(DVD付)
- DFCL-2017~8 3500円