【Hilcrhyme】この5年目の節目で0に
戻り、また1を作り出していく
Hilcrhymeにとって2014年はデビュー5周年。その幕開けを飾る両A面シングル「エール / Lost love song」のことはもちろん、この5年間についても語ってもらった。そこからうかがえたのは、“Hilcrhymeの音楽”に対する貪欲な姿勢だった。
取材:石田博嗣
常に聴き手を意識してきた そこは変わ
っていない
2014年はデビュー5周年でもあるのですが、Hilcrhymeにとってどういう5年でしたか? 常にチャレンジして、いろいろなものと闘っている印象があるのですが。
TOC
そうだったかもしれないですね、本当に。闘っている感覚が強すぎて、もう少し楽しくやれればいいなって(笑)。だから、5年目は楽しみたいですね。やっぱりメジャーに出るってことは周りを納得させないとダメじゃないですか。数字的な面でも、本質的な面でも。そういうのに向き合ったり、振り回されたり。でも、受け止めたり、受け入れたり。本当に葛藤していたなっていうのが僕の感覚ですね。
DJ KATSU
デビューの時点って自分のスタイルみたいなものが確立されていない状態だったから、プロの現場を見て吸収することが常にあって。で、5年を振り返ってみて、やっぱり未だに自分のスタイルっていうのが完成に至ってないなって。5年というのは区切りのいい年だし、ここで1回原点に戻ってっていう意識がありますね。5年目はそういう意識でやっていこうかなっていう感じです。
メジャーというフィールドでプロの人たちと一緒に作業していく中で、スキルを磨いていったと?
DJ KATSU
そうですね。スタジオのエンジニアさんだったり、ディレクターさんからいろんなアドバイスがあったりして、その膨大な量の情報がある中で、まだ自分の中でそれを吸収してまとめ切れていないんだと思うんです。得たものを全部を自分のものにするっていうことは、どんな分野でも無理だと思うんですよ。何かを手に入れれば、何かを捨てることになると思うので。“自分はここを突き進む!”ってのが一時期ブレたりしてたこともあるし…。そんな中で「NEW DAY,NEW WORLD」というシングルを2013年第一弾として出して、新しいHilcrhymeを見せることができた。そういう新しいやり方を模索してたんですよね。だから、次のアルバムはさらにまた新しいやり方というか、原点に返るのもありつつ…まぁ、今回のシングルもそうですけどね。でも、2014年はそれを固めていきたいと思っています。
あえてうかがいますが、この5年やってきてHilcrhymeでここは変えていないっていうのはありますか?
TOC
“いいものを作ろう”っていう意識だけはずっと変わってないですね。自分の中での芸術性を重視して大衆的にならない音楽だったり、逆に大衆性を求めて分かりやすくした音楽だったり、その人それぞれの考えと音楽があるっていうところで言うと、Hilcrhymeは常に聴き手を意識してきたわけで、そこは変わっていないのかなと。作り方や表現方法とか、そういう部分はいろいろ変化はあったんですけど、本質的に万人の共感を受けるというか、誰かのための曲でありたいっていうのは、お互い作る上で自然とそうしていますね。自分が良いと思いつつ、人にも良いと思ってもらえるものをお互いに、打ち込みだったら打ち込みで、リリックだったらリリックで、歌も含めて作ってきたんじゃないかと思います。でも、インディーズの頃からそういう意識はあったので、メジャーに入ったからっていうよりかは、そこは結成してからずっと変わってないですね。
確かに。Hilcrhymeはいわゆる王道のヒップホップをするわけじゃなく、それをポップスとして昇華させていますしね。
TOC
そこはブレてないと思いますね。一番はそういうの“も”好きだからっていうことだと思うんですよね。今、僕はソロの活動もやっていて、そっちはそっちでエッジの効いたヒップホップを自分のスタイルでやっているので。どっちも好きなんですよ。だから、ソロ活動をやるって決めた時にHilcrhymeを休止するとか、解散するとかの考えは一切浮かばなかった。Hilcrhymeは大切なので、自分の中ですごく。それこそ“帰る場所”じゃないですけど。
では、DJ KATSUくんは?
DJ KATSU
やっぱり楽曲を作る大前提として自分が良くないと思ったものは良くないっていう…もちろん、自分が良いと思ったものがみんなが良いと思うとは限らないけど、自分が気に入ってないものは作らない。そういうところですかね。良いと思うものの幅が広すぎて、毎回それで余計迷うことはあるんですけど、その中でブレない基準っていうのは、“自分が良い気持ちになれるものを作る”っていうことだと思います。
逆に変わったところは?
DJ KATSU
俺の場合はもともと知識がないところからずっと自己流でやってたから、特に最近はそこを気にするようになりましたね。感覚的にやりすぎてコードがメロディーに当たってたりして、エンジニアの人に指摘されたりするので。あと、ある一定の音域ばかり足しすぎて楽器のバランスが悪くなっているとか。デビュー当時の頃は何も考えずにトラックを作っていたけど、今は先にそういうことを踏まえてスタートしているっていう。
それだけ知識とスキルが身についてきたってことですね。
DJ KATSU
そうですね。あと、基本的にパソコンでやってるので、ソフト系なら無限に増やせるわけだから、いろんなシンセが増えたのも大きいですね。なので、今、自分の中でいろいろ広がりすぎてて、それをまとめ切れていないと思うんですよね…。だから、課題というか、自分の中で意識しているのは、ある程度自分の決まったパターンを作りたいなって思っていて。でも、なかなか決めきれずっていう…。
今は足場を固めている感じ?
DJ KATSU
そうですね。まだ固まり切っていないですね。
それが次の可能性ですよね。歌詞の面はどうですか?
それは思います(笑)。1stアルバム『リサイタル』の「チャイルドプレイ」で《夢を見ることの何が悪いの?》って歌っていて、最新アルバム『LIKE A NOVEL』の「STAY ALIVE」はその延長にあるものでもあるし。
TOC
やっぱりそういうテーマは変わっていないですね。扱うトピックが変わったり、書き方やフロウだったり、そういう技術面ではいろんな変化や進化はあったと思うんですけど、基本的に書きたいこと、書いていることは変わってない。
それは発したいことにブレがないってことですよね。
TOC
そうですね。自分の詞に対して共感してもらいたいので、やっぱり。だから、そういうトピックになるのかなって。例えば、ヒップホップだったら政治非難のリリックを書くことも手段としてはあるわけじゃないですか。まったく書く気にならないですからね(笑)。そういうのはHilcrhymeじゃないと思うので。この間、山下達郎さんのコンサートを観に行かせていただいて、すごい感動したんですよ。山下達郎さんは情けない男の物語をよく書いてしまうとおっしゃっていたんですけど、そういう日常を曲にしているというか。いただいたパンフレットにどなたかのレビューが載ってあって、“山下達郎の音楽はいつも僕らの側にある”みたいなことが書かれてあったんですよ。芸術性に特化せずに大衆性を重視していていつも側にある、みたいな。全然プレイスタイルは違う方なんですけど、自分もそうありたいなって思いましたね。聴く人の喜怒哀楽を揺さぶるような詞をいつまでも書いていたい。
そんな歌詞もHilcrhymeのひとつの武器になっていますけど、それだけ独特の世界を持っているというか。
TOC
そういうのは自分でも感じていて、自分にしか書けないことを書いているなって思いますね。そこはこのままいきたいですね。あとは音楽技術を上げてその詞を浸透させる、っていうか。朗読じゃないので、どうやって音に乗せて人の心に入っていけるかっていうのを突き詰めていく作業なのかなって。僕も人の側にいたいですから。
それプラス、「NEW DAY,NEW WORLD」で自分に向けて発することができるようになったともおっしゃっていましたしね。
TOC
「NEW DAY,NEW WORLD」は自分の中で一番大きな変化…吹っ切れたというか。誰かのための曲じゃなくて、自分を見つめ直すっていう意味で書いたものをシングルで出したっていうのは、初めてのことだったかもしれないので。うん、あの曲は大きな一曲ですね。自分の中でいろいろなものを学べたし、理解できたし。これを出した時のみんなの反応だったりとか、自分の中での消化具合だったりとか…“あ、こうなるんだ。自分の中でこう感じるんだ”と。いろいろ思うことがありましたね。なので、もうああいうのは書かなくてもいいかなって。もしくは20枚に1枚とかのペースでいいかなって(笑)。でも、自分を振り返ることでリスタートを切れたとは思っているので大事な一枚だなとは思います。
この5周年はタイミング的にもいい節目になりそうですね。
TOC
いい節目ですね。次のアルバムのタイトルを先日ふたりで決めたんですけど、そういうのもメジャーデビューしてからなかったなって。なので、この5年目の節目で1回、0に戻る。で、また1を作り出していくというか。この5年目、旋風を巻き起こしたいですね。武道館でやるということも含めて。
次に向けてしっかりとふたりで話し合えた?
TOC
結構がっつり話をしましたね。そこでいろんな話をして…お互い感じてることだったり、俺には俺のストレスがあるとか、DJ KATSUにもDJ KATSUのストレスがあるとか。で、どうしたらいい?って迷いもお互いにあったり。それをちゃんとこの5年目のタイミングで擦り合わせられたので…ほんと、節目ですよね。いろいろな意味での節目になるかなと思います。