【Hilcrhyme】全てにHilcrhymeとして
の意思が反映されたアルバム
“5年目で一度0に戻り、1から作り出す”という意味を持ち、ふたりが昔一緒に住んでいたアパートの部屋番号が“501”だったことから、“FIVE ZERO ONE”というタイトルが付 けられた5thアルバム。メンバーも“今までの4枚とは違う新しいものができた”と語る同作のこと、そしてその制作背景について話を訊いた。
取材:石田博嗣
ダンスミュージックのグルーブは全曲に
入っているんじゃないかな
前号で“5年で一度0に戻って1から作り始める”と言われていて、それがそのままアルバムのタイトル“FIVE ZERO ONE”になっているわけですが、まず0に戻るためにやったことは何だったのですか?
TOC
ふたりで話し合ったことです。そこが決定的に今までと違う部分ですね。
それをしてこなかったのは、なぜだったのでしょうか?
TOC
なんでだったんですかね?(笑) ふたりだけでやっていた頃はいろいろ話し合ってたんですけど、メジャーデビューしてたくさんの人が付くわけじゃないですか。そこでそれが抜けちゃったんじゃないですかね。
では、なぜ話し合おうと?
TOC
限界が来たからじゃないですかね、その体制に。今までサウンドディレクターがずっと付いてて、エンジニアもA&Rも同じ人、マネージャーも同じだったんですけど、それに限界が来たというか。だから、自然の流れだったと思いますね。“なんか違う”って。
DJ KATSU
あれは必要な話し合いでしたね。やっぱり人が間に入ることによって、気付かないうちに省略してたんだなっていうのを、話し合って分かったっていうのもあるし。本当些細なことから深いところまで。今までもまったく話さなかったわけではないんだけど、事務的な感じに作業してたのかなって。
その話し合で出た答えというのは、どんなものだったですか?
DJ KATSU
行き着いたところは本当にシンプルな、当たり前なようなことなんですけどね。TOC は TOC で求めることがあって、ソロではこういうことをやって、Hilcrhymeではこういうことをしたいって。俺はヒップホップはそんなに地盤はないから、自分の好きなエレクトロとかダブステップといった4つ打ち系だったりを...だけど、俺もヒップホップを聴いてきたし、好きなものは好きだから、お互いの共通する部分はあるんで、そこを突き詰めていくのがいいんじゃないかって。そもそも自然に重なり合う部分は過去を見てもあったし、当たり前なんだけど、そこを突き詰めるのが一番スムーズで、いいものができるんじゃないかっていう。そういうところからの、今回のアルバムですね。
その最初のアプローチが「NEW DAY, NEW WORLD」になるのですか?
DJ KATSU
いや、その時もその時で話し合ったんですけど、そこまで深い話はしてなくて。でも、「NEW DAY, NEW WORLD」は外部のトラックメイカーが入って、そこで確実に広がったし、今回のアルバムもその流れを汲んでGiorgio CancemiさんとかJazzin' parkさんとかが入っているし、それがある意味“0 に戻る”っていう意味でもあるというか。昔はクラブ系のレコードの裏のインストを使って曲を作ったりしてたので。だから、何にも縛られずにいいものを作るっていうところが原点だったのに、メジャーデビューして、その“メジャー”という変な括りに縛られていたようなのところがあったのかなって。でも、そういうのはもう解けたと思いますね。
そこから今回のアルバムに向けての曲作りが始まったと思うのですが、DJ KATSUくん的にはどういうものを作っていこうと思っていたのですか?
DJ KATSU
今までだと、俺がいくつかトラックを上げて、そこからTOCが選んで、それにラップや歌を乗せていく...っていう流れだったんですけど、今回は結構シングル曲も入ってくるし、“じゃあ、どういうふうにしようか?”ってところからふたりで話し合って、“こういう流れで、こういう曲があって〜”とか“こういう感じの曲が欲しい”って決めた上で作っていきましたね。例えば「BAR COUNTER」だったら、TOCがそういうテーマでリリックを作ってきて...あの曲調だと普通だったら3番で盛り上がって、サビが来て終わるっていう、なんかもうありきたりなかたちになっていたと思うんですね。きっと、俺がひとりで作ったら多分そうなってたと思うけど、「BAR COUNTER」はバーテンダーと客とのストーリーがあって、最後の後半の流れとかは完全にリリックありきというか...2回目のサビのあとの《パタッと途絶えた君の来店》というところなんかは、ストーリーありきの展開になっていて、ふたりでディスカッションしてなかったらそういうふうにならなかったでしょうね。今回のアルバムはタイトルもそうだし、曲作りや曲順だったりとか、全部Hilcrhymeとしての意思が反映されたんじゃないかな。
TOCくんは今回の楽曲制作についてはいかがですか?
TOC
トラックメイカーが入っているんですけど、いいバランスになったかなと思いますね。アナログレコードのインストに乗せてやっていた時期...昔はそういうことをずっと続けてたんですけど、その感覚で選んだトラックというか。これしかないトラックに乗せていくっていう作り方じゃなかった。あと、時間もたっぷりあった。だいたい1年に1枚のペースでアルバムを作ってるん ですけど、今回は1年3カ月振りなんですよ。この3カ月がデカい! 3カ月あればアルバムを作れますからね。そういう意味 では、本当にいい環境で作れました。
今作ではSo'FlyやNERDHEADのGiorgio Cancemiくんと一緒にやられているのが興味深かったのですが、この人選はどこから?
TOC
2年前くらいに全然違うプロジェクトでやろうって話してたんですよ。ふたりで出そうって。で、ラフで4曲ぐらい作ったんですけど、お互いそこから忙しくなってしまって。宙ぶらりんでもったいないんで、だったら“これ一緒にじゃなくて、こっち側で出していいですか?”って言って入れました。
「Your Smile」「Theme of“6”」の2曲あるのですが、どちらもその時のもの?
TOC
そうですね。当時、“Hilcrhymeらしくないものを作ろう”みたいな感覚でいたんです。だから、テーマもその当時のHilcrhymeとはかけ離れたもの…「Themeof“6”」は車をテーマにしたりしたんですけど、2年後の今は全然Hilcrhymeとして出せる…っていうか、むしろHilcrhymeで今こういう曲が必要なはずって思いましたね。「BAR COUNTER」にしても今のHilcrhymeに必要な曲だったんですよ。テーマを限定して書いた曲って、昔はやってたのに最近やってなかったんですよね。なので、4曲のうちの2曲を今回入れました。
そういうことをやらなくなったのは、なぜですか?
TOC
求められていることを素直にやらなかったからですね(笑)。“いや、もっとこういう部分を見せたい!”みたいな。そういう天の邪鬼みたいな部分があったと思いますね。でも、それがあったから今があるわけだから、全然後悔はしてません。
でも、「Theme of“6”」とかは、全然Hilcrhymeらしいと思いましたけどね。自由というか、いい意味で肩の力が抜けている感じがあって、そういうものが今回のアルバムにはスパイスになっているし。
TOC
うんうん。でも当時はね、全然Hilcrhymeらしくなかった んですよ3枚目のアルバム『RISING』の時にこれをやってたら、多分浮いてたんじゃないかなと。遊び感ですかね。遊びが足りなかったんだと思います。
あと、どちらのトラックもライヴ感というか、クラブ感がすごく出ているのも印象的でした。
TOC
そうですね。5年間ライヴをやってきた結果もあるけど、0に戻ったことで、当時の…だから、クラブっぽいっていうのはすごい的を得ていますね。それこそダンスミュージックのグルーブは全曲に入っているんじゃないかなと思いますけどね。ビート自体が踊れる感じなんで。
DJ KATSU
今こうやってアルバムになって、通して聴いても全然Hilcrhymeの曲だと思うし、すごい馴染んでるし、いい曲だなと思いますね。自分たちがいい曲と思えるものを出すのがミュージシャンとしてあるべき姿だし…それだけでいいんじゃないかなって。とはいえ“、自分が好きだからってみんなが好きだとは限らない”って感じることが結構あって、もうちょっとみんなが求めるものとかに目を向けるようにしてるんですよね。そういう意味でも今のHilcrhymeのスタイルを狭めないで、ちゃんと何が求められているかってことも意識できてるようになったんじゃないかなと。今まではそんなに柔軟じゃなくて、結構頑固だったと思うんですけど、そういう経験を含めて辿り着いたところなのかなって。