2年振りとなるオリジナルアルバム『君と僕の道』が発表となった。1年間の小休止を経たことでの変化なのか、同作は等身大の奥華子を感じさせる。実際、彼女自身、気持ちの部分での変化はいろいろあったようだ。そんなアルバムについて話しを訊いた。
取材:石田博嗣

ベストアルバムのインタビューの時に“このタイミングで1回立ち止まって、ちゃんと地に足を着けて音楽と向き合いたい”と言っていて、実際にツアー後に大きな活動を控えていたわけですが、そこで感じたことというのは?

休んでも別に曲はできないってことが分かりました(笑)。自分自身が自分をいっぱいいっぱいにさせていたっていうか…冷静になって何がそうさせていたのかを考えてみたら、“忙しい”とか“できない”って否定的な言葉を自分自身に言っていたなって気付いて。なので、音楽に対しても、自分の人生に対しても、もっと前向きになろうと思いました。

そんな中で、今回のアルバムの構想はいつ頃からあったのですか?

昨年の秋ぐらいですね。シングルになった「冬花火」ができて、それ以外にもちょこちょことできていて…シングルを出そうってなった時に、一番奥華子らしいってことで「冬花火」をシングルにして、そこからどんどん作っていった感じです。アルバムを出すって決まってから、“よし、やろうか!”ってやる気を出した(笑)。

その際にはアルバムのテーマとかはあったのですか?

いつもテーマとか決めないで作ってるので、今回も決めずに作っていたんですけど、そろそろアルバムのタイトルを決めないといけないって段階になって、そこで初めて“私は何を作りたいんだろう?”って考えたっていうか。すでに「道」って曲はあったんですけど、ひと休みしたあとのアルバムなので、今までの自分の道を振り返る時間はあったし、これからどうしていきたいんだろうって…道は全てつながっているにしろ、小休止したあとのアルバムとして、“君と僕の道”というタイトルがすごくしっくりときたんですね。そこからはそういうことを意識して曲を作っていきました。

「未来地図」に《君と僕が歩く道を》というフレーズがあるのは?

「未来地図」はタイトルを決めたあとに作った曲ですね。最後に作った曲でした。

では、収録曲のセレクトはどんな基準で?

それがですね、できた順に入れたって感じですね。いつものことながら、ストックがないという(笑)。しかも、「幻の日々」は22歳ぐらいに作った曲で、デビュー前にライヴハウスで歌っていた曲なんですよ。ずっとアルバムに入れたいと思っていたので、今回入れたという。あと、「HIKARI」は声優の竹達彩奈さんに提供した曲で。それ以外の曲はまったくの新曲ですね。

そんな今作の曲作りはどうでしたか?

サウンド面では自分のしたいことが反映されましたね。アレンジャーとのいい出会いもあったし。周りから見ると分からないかもしれないけど、自分的には新しいことが結構できました。今までだと“これはこのまま弾き語りがいい”って自分の中で決めてしまって、それ以上踏み出すことをしなかった…例えば、自分でアレンジする時に“これはこのままCDにしたい”と思ったら、そのままCDにしてしまってたんですよ。でも、今回はさらにコーラスを入れてみたりして一歩踏み出せたというか。なので、曲を作ることが楽しかったです。あと、今の年齢やデビューしてもうすぐ10年目になるってところで、そういう年月みたいなものをどこかに散りばめられたらいいなって思ってましたね。「ピリオド」は曲調も歌詞もすごく等身大な感じになったかなって。「10年」は久しぶりに大学時代の友達と会って、そのあとすぐに作った曲だし。

先行シングルだった「冬花火」はとても切ない曲じゃないですか。それは奥華子の色としてあるものなのですが、その反対側のようなハッピーな8曲目「あなたと電話」からの「Wedding Dress」「しわくちゃ」の3連続というのは新鮮でしたよ。

そうですよね! 暗闇の中にひとつの光って感じぐらいはあったんですけど、こんなに畳み掛けるのってないですよね(笑)。付き合い始めて間もないカップルが結婚して、いつかしわくちゃになるまでっていうストーリーになったらいいなと思ってくっつけたんです。このアルバム、最初は暗いんですけど、「10年」で気持ちが救われる感じが自分的には良くて…曲順を決める時って“この次にどの曲が来てほしいかな?”って考えるんですけど、最初に明るい曲は来てほしくなかったんです。沈んでいたいって。で、もう限界かなってところで「10年」が来て、「あなたと電話」につながっていく。

で、最後はポジティブな「未来地図」と「道」で締めると。そんなアルバムなのですが、個人的にはさっき言われたような年相応の奥華子を感じたのが一番の印象でした。“切ない恋の曲=奥華子”という部分もあるけど、もっと広がって“奥華子”そのものを感じたというか。

そう言ってもらえると嬉しいですね。切ない恋の歌って、どこか自分で意識して作っているところがあって…今回の「冬花火」もそうだし。「初恋」や「ガーネット」みたいな曲を支持してもらっていて、それってすごくありがたいことで、とても大事なことなんですけど、今の自分が思ってること、歌いたいことってのもあって、そこのバランスが時によって難しかったりするんですね。でも、今回は“これでいいじゃん。だって、これができたんだから”って開き直ってるところがありますね(笑)。ああしなくちゃいけない、こうしなくちゃいけないって自分がすごく苦しくなっている時があったんですけど、そういうのがなくなったのかなって。いろんなことを前向きにとらえてやれているというか。

収録曲で気になったのが、1曲目の「記憶」なのですが。

これはですね、アルバムに恋愛の曲がもう1曲欲しいと思って、1日中、ピアノの前で歌ってたんですよ。なかなかできなくて、深夜3時くらいに、もう声も枯れてきたので、そろそろ今日は止めようと思って、でも一応その時になんとなくかたちになった曲として録音しておいたのが「記憶」なんです。翌朝、それをプロデューサーに聴いてもらったら、“いいじゃん!”って。だから、“アルバムに絶対に入れるぞ!”って作った曲じゃなくて、ほんと声も出ない状態で録ったものが、むしろこのテイク、この状態がいいということで、そのままCDになっているんですよ。なので、この曲は1回しか歌ってないんです。

その話を聞いたからじゃないですけど、この曲はすごく自然体だと思ったんですよ。《愛の唄を歌いたい ありふれてる言葉でいい》と歌っている歌詞も、歌う理由じゃないですけど、そういう気持ちが素直に綴られているし。きっと作ろうと思って作った曲じゃないから、自然と心の根っこにあるものが出てきたのでしょうね。

うんうん、確かに。歌も自然だし…レコーディングという意識で歌ってないんで。でも、そういうことなんでしょうね。この歌にしても、“これはこれしかないよね”って感じだったし。もちろん、そのあとにバイオリンを入れてもらったんですけど。この曲を1曲目にしたっていうのが…本来ならシングル曲だったり、推し曲を1曲目にすると思うんですよ。今までのアルバムもだいたいそうだったし。今回はプロローグ的な感じで、この曲がアルバムにスーッと誘い込んでくれたらいいなって思って1曲目にしたんです。そう思えるだけ、自分らしいと感じたんですよね。

逆に、最後に作ったという「未来地図」はどんな曲を作ろうと思ったのですか?

このアルバムを作る時からライヴのアンコールとかで歌える、みんなで手拍子ができる明るい曲が欲しいって言ってたんですけど、なかなかできなくて。いつもなんですけど、明るい曲って後回しにしてしまうんですよね。で、“もう作らないと間に合わない!”って時にできたのが、この曲なんです。でも、この曲が今一番自分が思っていることを歌っていると思います。今の前向きな自分が出ているというか。“グダグダ不満ばかり言ってるよりも、やってみればいいじゃん!”って自分に喝を入れるような気持ちで作ったところがあるんですよ。人ってほんと、同じ出来事でもそれをどうとらえるかで人生が変わるじゃないですか。私の場合は全てをマイナスにとらえたり、否定的だったりするんですけど(苦笑)、そうじゃないようにしたら楽に生きられるかもって。何でも自分次第だなって。…そう思って作った曲です。

このアルバムを象徴する曲になってますよね、今までとの気持ちの変化が曲に表れていて。

そうですね、自分の中で変わったことは、今までは曲を作ってもアルバムを作っても、なかなか思うように結果が出なくて、これじゃ駄目なんだ…って自分を否定し続けてきたような気がするんです。だからそんな自分に疲れていた部分もあったけれど、今回は変に気負うこともなく、これで勝負という気持ちよりも、今の自分をここに記録していくイメージでできました。今回できなかったことは次にやればいいって思えたし、“今回はここがイマイチだったから、次はこういうふうにしたい”って、そこの意識が変わって楽になれたってのはありますね。“今の私はこうなんです”っていう感じで、自分自身を認めてあげないと辛いですからね(笑)。

そして、このアルバムを引っ提げての弾き語りのツアーが決まっていますが。

今回は48カ所なので、これまでで一番多いですね。会場は今までよりも少し小さめで…ブランクがあったので、そこは無理せずにね(笑)。それでも行き続けることに意味があると思っていて。だから、なるべく今まで行ったところには行って、プラス初めてのところにも行くと。

それは本数が増えますよ。

はい(笑)。最初は十何カ所の予定だったんですけど、だんだん自分が前向きになってきて、アルバムを作りながら強気にもなって、“行けるところには行きましょうよ!”って最終的に48カ所になってしまいました(笑)。

この本数にも今の奥華子の意志が表れているわけですね(笑)。どんなライヴにしたいですか?

アルバムの曲をツアーで歌うのがすごく楽しみなんです。“弾き語りのアレンジ、どうしよう?”って思ってます。その“どうしよう?”というのは、“いろんなことができるから楽しみだな”っていうもので、実はそういうふうに思えるのって珍しいんですよ(笑)。しかも、今回はほとんどが新曲なので、“どういう反応になるんだろう?”って。前は新曲ばかりだと“どうしょう? 昔の曲をいっぱいやったほうがいいんじゃないかな”って不安だったんですけど、今は自信を持って“これが今の奥華子が作った曲です”って言える。みんなの反応が楽しみですね。今回は初めてアルバムのタイトルを掲げているので、そういう意味でも今までとちょっと違う、新たな奥華子を感じてもらえるライヴにできたらいいなって思ってます。
『君と僕の道』2014年03月19日発売PONY CANYON
    • 【初回盤(DVD付)】
    • PCCA-04002 3500円
    • 【通常盤】
    • PCCA-04003 3000円
奥華子 プロフィール

オクハナコ:シンガーソングライター。キーボード弾き語りによる路上ライブをはじめ1年間で2万枚のCDを手売りし驚異的な集客力が話題となり2005年メジャーデビュー。劇場版アニメーション『時をかける少女』の主題歌「ガーネット」で注目を集める。聴く人の心にまっすぐ届く唯一無二の歌声は年齢問わず幅広く支持されている。また数々のCMソングや楽曲提供を手掛けるなど活躍の場を広げている。奥華子 オフィシャルHP

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