L→R 藤村 倫(Ba&Cho)、奥野 涼(Vo&Gu)、片貝直也(Dr&Cho)、植田隼人(Gu&Cho)

L→R 藤村 倫(Ba&Cho)、奥野 涼(Vo&Gu)、片貝直也(Dr&Cho)、植田隼人(Gu&Cho)

【KIDS】僕らだけではできなかったア
ルバム

3枚のミニアルバムを経て完成させた初のフルアルバム『回遊記-Round About-』。そこにはKIDSの集大成であり、次なる一歩が刻まれている。
取材:石田博嗣

7月9日にフルアルバム『回遊記-Round About-』がリリースされましたが、その反響はどうですか?

奥野
過去にミニアルバムを3枚出しているんですけど、もちろんのことながら自分たちの手応えも一番良くて…個人的には車に乗ったらすぐかけるぐらい好きなアルバムなんですよ。それだけに、思っていたよりいい反響がある感じですね。
片貝
今回はラジオによく出してもらっていて、そのラジオを聴いて“KIDSっていうバンド、いい感じ”ってなって、アルバムを買って聴いたらどれもいい感じだったという声が多かったり。あと、キングコングの西野亮廣さんがジャケットを描いてくれたんですけど、その関係で芸人さんも聴いてくれているみたいで、その辺の反響とかもすごい多いですね。西野さんも絶賛してくれていました。

バンドとしてはどんなアルバムができたと思いますか?

奥野
初めて自分たちの音以外のものをたくさん取り入れたんですよ。ピアノだったり、シンセだったり。だから、“こういう化学反応が起きんねんな”っていう僕らだけではできなかったアルバムなので、すごく新鮮というか。

初のフルアルバムというところで、今までの集大成的なところもありつつ、一歩さらに踏み出せたという感じですか?

奥野
そうですね。“これからどんなのができるんだろう?”ってすごい楽しみですね。関わってくれる人が増えたので、任せるところは任せられるようになったし…自分たちだけでは考えすぎてしまうところがあったので、そういうところをお任せして、チームとしてみんなで作れた。
片貝
今回、プロデューサーの本間(昭光)さんと大阪のスタジオでセッションをやらせてもらったんですけど、自分らにない知識をたくさんもらえたので勉強になったし、純粋にすごい楽しかったです。
植田
最初、フルアルバムを作るってなった時はすごい不安やったんです。曲も全然なかったし(笑)。でも、奥野がどんどん曲を持ってくるうちに、“これ、絶対良いものができる!”って…自分が早く、このアルバムが欲しい!みたいな(笑)。メンバーもすごいノリノリだったし、周りもすごいノリノリで、良い環境でレコーディングができたなと思います。

って、アルバムを出すって決まった時に曲がなかったの?

奥野
2曲くらいしかなかった(笑)。
片貝
だから、大丈夫かなって思ってたんですよ(笑)。
奥野
まぁ、断片的にヴォイスレコーダーに録ったのだったり、書き溜めた歌詞だったりがあったので、それらをくっつけていく作業をひたすらやっていましたね。だから、本当に新曲というのは2曲くらいしかないですもん。もとからあったリフだったり、メロディーだったりが曲になったという感じですね。かたちにしたというか。

かたちにしていく時は、アルバムの全体像を考えながら?

奥野
今回は初めてコンセプトを考えずにひたすら曲を作ってましたね。目標は20〜30曲ぐらい作りたかったんですけど、案の定12〜13曲で。ギリギリっていう(笑)。だから、作っている段階から“これは入れる”というのを決めてやっていたので、そこが逆に面白かった。コンセプトを考えなかったので、自由に作れたし。1枚目のミニアルバムを作った時から、それをリリースするちょっと前くらいにはもう次のアルバムのことを考えていたんですよ、個人的には。でも、今回は燃え尽きた感みたいなのがあって…今回は自分の言いたいことをすごい言えたので、今、新曲を作って言いたいことを伝えろって言われても何も言いたいことがないんですよね。このアルバムが、ほんまに今の僕の全てなので。こんなのは初めてですね、アルバムができて次のアルバムとかのことを考えられないのは。それだけ納得のできるものができたっていう。

それだけ一曲一曲向かい合って作ったというか、吐き出すように今の自分をしっかりと落とし込めたと?

奥野
その通りですね。
藤村
だから、良い意味で昔に戻ったなって。今までは奥野も考えて考えて曲を作っていたし、バンドも“こういうふうな曲にしよう”って考えながら作っていたけど、今回は奥野自身が弾き語りとかでやっていた曲も入っているので、自分を吐き出しているし…ほんま、何も考えずにがむしゃらにやっていた昔を思い出して、一発で好きになりましたね。
植田
このフルアルバムを作る前か作りかけくらいの時に、みんなで1回話し合ったことがあって。今までの作品は結構時代を気にしていたり、流行を気にしたりしたけど、そうじゃなく単純に奥野が持ってくる曲を、“やりたいことをやろう”みたいな感じになったんです。あんまり考えずに、奥野が持ってきたものを僕らはアレンジするっていう。

バンドがスタートした時というのは、そういう感じですよね。

植田
そうですね。まさにインディーズの時はそういう感じだったので。だから、“俺たちはこういう曲をやりたい!”と自信を持ってやっていた頃を、もう1回思い出してやりました。

そういうところもあるかもしれないですけど、バンドの許容力が大きくなっている印象があったんですよね。

奥野
それはありますね。今までの3枚のミニアルバムを出していくうちにだんだん自分のバンドなのに、KIDSというバンドは何を歌うべきかが分からなくなって。で、KIDSで曲を作らずに個人的に曲を作ることが多かったんですよ。“俺はこれが言いたい。でも、これはKIDSでは言えないから個人でやる”って。でも、そういうものをメンバーがすごい受け入れてくれて、スタッフサイドも乗り気になってくれたので、“あぁ、これをKIDSで歌ってもいいんや”っていうのに気付けたんです。

自分を落とし込んだ曲を作っても、ちゃんとKIDSになると?

奥野
そうですね。イントロでギターが鳴って、リズム隊のふたりの音が乗っかって、僕が歌い始めれば、どんなものでもKIDSなんだろうなって再確認できたというか。

そのせいか、歌詞が自然体というか、奥野くんの人となりが出ていますよね。

奥野
そうですね。あまり気にせず書いたから、後々見返したらどんだけ自分ひねくれてんねん!って(笑)。特に「オアシス」は就職したことないのに就職した男の気持ちを歌ってるし…自分にどれだけ妄想癖があるかというのがすごい分かったので面白かったですね。

歌詞の主人公のキャラも、どれも似ていますしね。特に「オアシス」と「さよなら」のキャラは一緒だなと。

奥野
一緒ですね。女々しい(笑)。

あと、「タワゴト」をはじめ、どの主人公も自分の都合がいいように解釈して、その場を取り繕っているという。

奥野
ははは。「タワゴト」とか、まさにノンフィクションなので。成人式に行けてないことを歌詞にできた自分はすごい成長です(笑)。

そういった歌詞を見て、メンバーはどう思いました?

片貝
単純に面白いなと思いました。奥野涼っていう人間が面白いからこうやってバンドをやれていると思うので。飾ってへんのがええのかなと。“あぁ、こんなこと思ってんねんな”って。奥野っぽいなと思います。ひねくれとんなって(笑)。
藤村
歌詞の主人公は奥野のどっかの部分やと思うんです。奥野とは一番付き合いが長いんですけど、ようやく殻を壊したのかなと。変なプレッシャーから解放されたのかなと。
植田
歌詞は完全に任せているので本当に何とも言えないというか…でも、今回はちょっと汚い言葉とかも入れていて、新しいKIDS、新しい奥野が出たなと思っていますね。

そんな新しいKIDSが出たフルアルバムの1曲目に「ありふれた春の中で」を持って来た意味は? この曲はすごく新鮮で、最初にKIDSの新しい部分を提示したのかなと。

奥野
あぁ、確かに。僕的には後半に入れたかったんですけど、曲順を決める時に…初めてなんですけど、すごい信頼できるA&Rの方に決めてくださいと言ったんですよ。第三者としてどういう曲順だったら好きかっていうのを訊いたというか。で、一応候補ってことで一番最初に持ってきてくれた曲順のままになっています。自分たちだったら1曲目は絶対に「記憶」だったと思うんですよ。バンドっぽい感じですし。でも、「ありふれた春の中で」を1曲目にしたことで、いつものKIDSと違うけどKIDSっぽいっていうか、すごい良い意味でのもどかしさが出た曲順になったので、そこもチームだからこそできたことなのかなと思いますね。だから、「ありふれた春の中で」が1曲目になったのはすごい新鮮やし、この曲が1曲やからこの後の曲が気になるというか。
藤村
やっぱり最初は“えっ”て思ったんですけど、バンドマンという気持ちを置いておいて、とりあえず並べて聴いてみた時にそんなに違和感なく、結構自分の中にすっと入ってきたんですよね。あと、A&Rの方から「ありふれた春の中で」を1曲目にした意味を聞いて、“だったら、これでいいや”とも思ったし。僕らだけやったら絶対に思い浮かばなかった並びにしてくれたなと思います。

ちなみに、A&Rの方はどう言っていたのですか?

奥野
歌い出しの声がセクシーだよねって。自分はよく分からないんですけど、“試聴機で聴いて、これが1曲目だったら、俺なら絶対に買う”と言ってくれたので、その基準で。
藤村
あと、この曲の持っているキラキラしている世界観って今までのKIDSになかったし、どちらかと言うと奥野涼個人っぽい曲なんですよ。それを1曲目にすることで今までのお客さんを驚かせられるし、これから新しく聴いてくれるお客さんには聴きやすいし。同期の音が入っているんですけど、キラキラな世界観の曲が1曲目っていうのは確かにアリやなって納得させられちゃいましたね。
片貝
ほんま、「ありふれた春の中で」を1曲目にすることによってどの層にもちゃんと届けられるアルバムになったんじゃないかなと思うんですよ。若いお客さんはもちろん、お父さんお母さんの世代にも届けられる。この間もオカンからメールがきて、“今回のアルバム、勝負できそうやね”って(笑)。“勝負できそう”ってなんや、普通に“ええやん”でええやん!って(笑)。なんで、オカンの世代もちゃんとこうやって愛してくれるアルバムになったと思います(笑)。
植田
最初は自分が思っていた曲順とは全然違っていたんですけど、僕がもしお客さんだったら「ありふれた春の中で」が1曲目というのは嬉しいと思いますね。だから、これで正解やったと思います。「ありふれた春の中で」から始まることで、このアルバムの曲順が成立してるんやなって。最高です!

そして、最後が「幼なじみ」。これはここしかない?

奥野
「幼なじみ」は満場一致で最後でしたね。この曲はオケがすごい壮大だし、歌詞もストーリー性があるので、次にくる曲が可哀想だってなったんですよ。勝てないというか。だから、「幼なじみ」だけは満場一致で最後にしようって。

あと、今回のアルバムタイトルにはどんな意味が?

奥野
最初は“回遊魚”にしたかったんですよ。大阪の水族館でいろんな大きい魚を見た後に、ちっちゃい魚がグルグル回っているのを見るっていう、すごい神秘的なゾーンがあるんですね。で、回遊している理由を調べたら、それは成長していくためにグルグル回っていて、人間からしたら同じところをグルグルと回っているだけだけど、魚からしたら同じじゃないんやろなと思って。僕らも昔からCDを作ってツアーをしてっていうことの繰り返しだし、それはこれからも変わらないことだから、回遊魚みたいに成長していく…だんだんと円の規模を大きくしていこうという意味で、“回遊魚”にしたかったんですけど、周りから“魚はあんまり良くない”って言われて。唯一今回のアルバム制作で僕が拗ねたところなんですけど、そこが(笑)。でも、チームで作るということは、“俺は嫌です”って我を通していては話にならないので、“回遊記”はどうですかって。各ツアーの場所で記憶に残るライヴをしていこうという意味も込めて。あと、“回遊記”だと昔の本みたいになってしまうので、“Round About”を付けて。まんま英語ですけど(笑)。でも、意味は最初の“回遊魚”と変わっていないので、いいタイトルになったと思っています。

すでにレコ発ツアーがスタートしているわけですけど、“炊飯器と共に”というサブタイトルが気になるのですが。

奥野
これはですねぇ…すごいいいアルバムができたことで、自分たちがいかに甘えていたかに気付かされたんですよ。いかに自分たちが結果を出していないか、大口で文句ばっかり言っていたかって。ツアーでホテルに泊まらせてもらうこともそうですし、レコーディングに莫大なお金がかかっているというのも雰囲気で分かりましたし(笑)。だから、もう1回、炊飯器を持ってツアーをしていた時の気持ちに戻ろうって。あの頃を思い出すためと、各地の美味しい差し入れを待つために…ご飯は用意してるからって(笑)。
片貝
やらしいな(笑)。

(笑)。どんなツアーになりそうですか?

植田
今回のツアーは新しいKIDSが観れると思うので、その辺も楽しみにしていてもらいたいですし、僕らは僕らで炊飯器を持っておかず巡りを(笑)。
藤村
ミニアルバム3枚と今回のフルアルバムで曲がたくさんあるので、“ここで昔の曲を入れるんだ”とか、今までとは違う感じの変化球を投げていきたいなと。今回のフルアルバムの曲をやるのはもちろんなんですけど、他にも好きな曲はあるし、昔のいいところも挟んで、過去の作品を全部買いたいと思ってもらえるようなライヴにしたいですね。
片貝
自分らが楽しめるツアーにしたいですね。ファイナルの東名阪はタイマンライヴになっていて、全部ツーマンなんですよ。だから、このツアーでどんなバンドにも負けへんバンドになって、最後はしっかり対バン相手を倒したいです。
『回遊記-Round About-』
    • 『回遊記-Round About-』
    • YRCN-95239
    • 2014.07.09
    • 2800円
KIDS プロフィール

キッズ:奈良県出身の4人組バンド。2006年に奥野涼を中心に結成。メンバーチェンジを経て10年現メンバー体制となり、12年にミニアルバム『LとL』でメジャーデビュー。奥野のハスキーな歌声と息の合った4人のライヴパフォーマンスには定評がある。KIDS オフィシャルHP

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着