【塩ノ谷 早耶香】塩ノ谷 早耶香の本
質を表現したかった
“ひとつの集大成でもあり、新たなスタートでもある”という待望の1stアルバム。深化を表現しつつ、ワクワクさせられるような未来への進化も感じさせてくれる充実作だ。
取材:竹内美保
意味深げなワードをアルバムタイトルに選びましたね。
Luna”には“月”という意味と“狂気”という意味があって、光と影という両面性があるんですよね。それって人間そのものだなって思うんです。このアルバムはひとりの人間の喜怒哀楽、月のようなやさしさや温かさはもちろんですけど、塩ノ谷 早耶香という人間の本質が影の部分も含め、これまで以上に出ればいいなと思って制作したので、タイトルを“Luna”に決めました。
タイトル曲では光と影のその向こう側も表現して歌われている気もしました。
はい。今までは塩ノ谷 早耶香の影の部分を出し切れていなかったので、それを全て出してしまおうと思ったんです。この詞は月を擬人化して表現しているんですけど、光が当たっていない月の裏側…影になっているところも含めて人間として語っているんですよね。その中で、外から見える光だけじゃなく、自分の影に包まれた誰にも見せていない小さな光の存在を描きたくて。心の奥底にある切なる願い、それこそが小さな光であり、ほんとの純粋さだと思ったんです。
その光って最後の希望なのかもしれないですね、人の。
そうなんです。アルバムジャケットも私のイメージを伝えて、自分の中の光、人間としての本質の純粋な思いというのが表現されているんですよ。
「それでも世界は美しい」もこのアルバムを象徴する曲ですね。売野雅勇さんの詞の世界観と塩ノ谷さんのマッチングは素晴らしいと思いました。
この曲は『平成猿蟹合戦図』というドラマの主題歌なんですけど、監督の行定勲さんが想い描く世界と、私なりのイメージを売野さんに伝え、それを売野さんが歌詞にしてくださったんです。3人の想いがひとつになった作品ですね。スケールが大きいんですけど、すごくリアルで、自分のアーティストとしてのテーマのひとつである“非現実的である現実的”というものが表現できた曲になりました。
後半のファルセットの危うさもグッときます。
私の中で、この詞の中に出てくる子ってすごく危ういんです。全てがモノクロに見えて悲しみに埋め尽くされている…でも、それでもひとつの光を求めている。そのファルセットの部分は、その光だけを意識して歌っていた記憶があります。
それにしても、人間の心の奥底を見せていますよね。
アルバムを作ることが決まった時、すごく自分自身と向き合う状態になったんです。そこで自分自身の存在、どういうアーティストになりたいのか、歌を言葉として届けるにはどうしたらいいのか、自分自身にしかないものを表現するには…とか、いろいろなことを考えて。だから、自分自身との向き合いがアルバムとの向き合いと重なった、という感じです。
ちょっとドキッとするような面も表現された、これまでの優等生的なイメージを超えた新たな世界が感じられました。
すごく立体的なアルバムになったと思います。平面じゃない。それはきれいなかたちじゃないのかもしれないけど、デコボコで歪かもしれないけど、それをオーガンジーの布をふわっと纏わせて、みなさんに届ける…。私の中では『Luna』は“人間”なので、この作品は私自身でもあるし、誰か自身でもあるし。だから、聴いてくださる方の人生に重なって、寄り添うような…このアルバムの前ではその人が泣いて笑って素直になれるような、そんな作品になれればいいなって思っています。
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