【城 南海】ずっと愛されている曲に
は魔法が詰まっている

テレビ東京『THEカラオケ★バトル』で奄美大島の歌唱法“グイン”を効かせた極上の歌声を披露し、前人未到の7冠を達成しているシンガー城 南海。第二弾カバーアルバム『ミナミカゼ』は、城の多彩なヴォーカルを堪能できる作品である。
取材:桂泉晴名

城さんのカバーアルバムも2枚目となりました。

はい。前作は春の曲や、人の出会い、別れの曲を桜の花びらに例えて“サクラナガシ”というタイトルにしましたが、今回は“ミナミカゼ”。私はライヴでも“南の風を感じてください”と、自分の歌を風に例えて紹介していますし、夏と言えば自然が一番輝く季節なので、このタイトルにしました。タイトルに自分の名前が入ったのも初めてで、ちょっと照れます(笑)。

今回も選曲が幅広いですね。

『THEカラオケ★バトル』に出場するたびに、毎回いろいろな曲にチャレンジして、歌い方の引き出しが増えているので、レコーディングではそれを活かせたと思います。また、前作の『サクラナガシ』は原曲をかなり忠実に再現したのですが、『ミナミカゼ』は城南海流にアレンジしている曲も多いんですよ。例えば、荒井由実さんの「ひこうき雲」。この曲は気持ちのままに歌ってみたら波長がすごく合ったのか、詞の世界にスッと入って歌うことができました。今回は私が演奏していただきたかったゲストミュージシャンの方々もお招きできたし、より城カラーを出せたんじゃないかと思います。でも、原曲の良さは絶対に壊さないように、アレンジャーのただすけさんに助けていただきながら作りました。

城さんの声に合わせたアレンジが特に効いている曲は?

ただすけさんは温かみのあるアレンジがすごく得意な方で、杏里さんの「オリビアを聴きながら」はウッドベースが効いていて、ゆったりとしたアレンジになっています。そして、この曲にはヴァイオリニストの花井悠希さんにも入っていただきました。花井さんのバイオリンは本当に歌っているような音色なんです。普段から仲が良くて、今までライヴやテレビで共演してきましたが、音源では初で。だから、とても感慨深いです。

そんな今作は1曲目はスピッツの「渚」で、爽快な始まりですね。

「渚」を聴いた瞬間に“1曲目にしたい”と思ったんです。ワーッと風が吹いてきて、夏が来た!みたいな。みなさんの気持ちがワクワクできるような始まりにしたかったのですが、原曲より少しテンポが速く、疾走感のある仕上がりになったと思います。

THE BOOMの「風になりたい」もテンポの良い楽曲ですね。

この曲、実は間奏部分でハブ取り棒の音が入っているんですよ! パーカッションのスティーヴ エトウさんは普段いろいろな楽器を使われるのですが、今回はハブ取り棒を持ってきて。

え! ハブ取り棒!? それを楽器として使うのですか?

ハブ取り棒は中に金属が入っているから、叩くとシャカシャカ鳴るんですよ。それを膝の上に乗せて、シャカシャカ叩いていました(笑)。

それは面白いですね!

さらにスティーヴさんは、すごい提案をしてくださって。奄美大島には八月踊(はちがつおどり)という集落のお祭りで歌う曲があるんです。“「風になりたい」はサンバだけど、奄美大島のサンバと言ったら八月踊。それを入れたらどう?”というアイデアを出してくださったんです。それで奄美大島のアーティストにお願いして、集落のみなさんが歌っている様子を録っていただきました。この曲の間奏に奄美大島の八月踊という文化が入っていて、かなり歴史的な音になっています。

すごい! その一方で、森山直太朗さんの「夏の終わり」は繊細な声が堪能できますね。

この曲では以前にライヴやレコーディングでご一緒した、二胡奏者のチェン・ミンさんに弾いていただいたんです。チェン・ミンさんの揺れのある二胡がこの曲にぴったりマッチしていて。この曲は最初、私の声と二胡、同時に入ってくるんですよ。でも、どっちがどっちか分からないですよね?

確かに、城さんの歌声と二胡の音は似ていて分からないです(笑)。

私の声は二胡っぽいって言われるんですけど、チェン・ミンさんの二胡は本当に女性の歌声に聴こえるというか。最後のほうもどんどんかけ合いになって重なっていくんですけど、すごく美しい曲になったなと思います。

最後を締め括る「夏の終わり」はかなり難曲だったと思うのですが。

音域がとても広く、サビのところはほとんどファルセットだから、どう表現するか悩みましたね。もともと声楽をやっていたので、そこは活かせたかなとは思うんですけど。ファルセットの中での言葉の区切りや、ニュアンスの表現は難しかったです。

また、城さんのオリジナル曲と共通性を感じたカバー曲もあって、鬼束ちひろさんの「流星群」を聴いていて、城さんの憂いのある楽曲「Silence」を思い起こしました。

私がもともと出す声の幅と体の使い方にぴったり合ったのは、鬼束ちひろさんの「流星群」なので、そう感じていただけたのかもしれないです。「流星群」は『THEカラオケ★バトル』で6冠を獲った際に歌った曲ですが、昔からすごく好きでライヴでも歌っていたんです。私も鬼束さんのように全身全霊で言葉を歌うところを目指しているので。

あと、平井堅さんの楽曲は前作に続きカバーされていますね。

平井さんの「思いがかさなるその前に…」は、今回唯一アカペラで始まる曲で。このカバーアルバムは始めから終わりまでスッと通して聴けると思うんですけど、それは私が出した曲順の案に加えて、アレンジャーのただすけさんが音のつなぎやコードが自然になっていく並び方を提案してくださったからなんです。アカペラから始まっても、前の曲のコードが頭の中に残っているから、次の曲にフワッと誘えるようになっています。

名曲をカバーすると、たくさんの発見があると思うのですが、どうでしたか?

今まで聴いていた曲も、作る視点でじっくり聴き直すと“この曲はこういったことを歌っていたんだ!”とか、“このメロディーでこういう喉の使い方をするんだ!”とか、改めて気付いたことが多かったです。小田和正さんの「たしかなこと」も小田さんの美しい声で聴いていると自然で気付かないのですが、実はリズムがすごく難しいんですよ。でも、それゆえに言葉が乗るメロディーになっていることが分かって。ずっと愛されている曲は、魔法のようなものが詰まっているので、とても勉強になりますし、それを表現するアーティストの方の素晴らしさを改めて体感しました。今回の経験を踏まえて、また新たに作り出すオリジナル曲にも活かしていきたいです。
『サクラナガシ』
    • 『サクラナガシ』
    • PCCA-04146
    • 2015.01.21
    • 3000円
    • 『ミナミカゼ』
    • PCCA-04231
    • 2015.06.17
    • 3000円
城 南海 プロフィール

キズキミナミ:平成元年 鹿児島県奄美大島生まれ。奄美民謡“シマ唄”をルーツに持つシンガー。2006年に鹿児島市内でシマ唄のパフォーマンス中にその歌唱力を見出され、09年1月にシングル「アイツムギ」でデビュー。代表曲は、NHKみんなのうた「あさなゆうな」、「夢待列車」をはじめ、NHKドラマ『八日目の蝉』の主題歌「童神~私の宝物~」、NHKBSプレミアム時代劇『薄桜記』の主題歌「Silence」、一青窈作詞、武部聡志作曲・プロデュースのシングル「兆し」など。また、テレビ東京『THE カラオケ★バトル』に2014年7月に初出演以来、毎回高得点をたたき出し、現在、番組初となる10冠を達成。オンエアの回数が重なるにつれ、カバーアルバムを望む声が多く集まり、15年に初となるカバーアルバム『サクラナガシ』『ミナミカゼ』、17年11月には3枚目のカバーアルバム『ユキマチヅキ』をリリース。20年にはディズニー実写映画『ムーラン』の日本版主題歌「リフレクション」の歌唱が決定し、日本版の訳詞も担当。ライヴでは毎年恒例のワンマン公演『ウタアシビ』の他、さまざまな音楽フェスティバル、イベントに出演している。城 南海 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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