メジャーデビュー5年にして初のベストアルバムをリリース。ストイックなまでに自問自答を繰り返し、辿り着いた先に見えたものは、無意識に寄り添い続けた、なんともシンプルな“笑顔”だった。
取材:石岡未央

初のベスト盤ということだけど、すごく生命力を感じますね。シングルコレクション的な考えはベーシックとしてはあったのかな?

ベストアルバムってどんなものなんだろう?って考えた時に、シングルを入れようということはあったんですけど、それ以外の括りはなくていいのかな、と。僕の個人的な思いとしては、次の一歩に進むための大事な一枚を作りたかったんですよね。“笑う約束”というタイトルの最新アルバムを。

2枚組になるということで、テーマとして意識的に分けようって感じは?

それはなかったですね。タイトルは選曲する前から決めてて、「福笑い」が最初ってことだけは自分の中にあったんですよね。それ以外は、じゃあその次の曲は?って感じで、何度も聴き直しながら決めていくっていう作業を延々と…だから、かなり時間がかかりましたね。

結果として、入れられなかった曲とか想いは残ってたりしないの?

選曲してる時に、一緒に歩んできてくれたスタッフから“あの曲は入れたい”とか、“マストでしょ”とか、それぞれの思い入れがあるんだなってことに気付いて嬉しかったんですけど、そこから、じゃ1曲は投票にしてみようかという発想も生まれてきたんです。せっかくならみんなで納得のいくものにしたいなと。で、去年、ファンクラブを発足したので、応援してくれる身内というか、ファミリーも巻き込んで完成形を見つけようとやってみたら、まさかまさかの「リーマンズロック」という思いもよらなかった曲がリクエストで出てきて…(笑)。でも、すごく嬉しかったですね。インディーズの頃から弾き語りで歌っていた曲だったので、個人的にこの曲の就職先というか(笑)…花の咲かせ方を見つけたかったんですよね。それがこういうかたちで実ったっていうのはすごく嬉しかった。 “あの曲は入れたかった”みたいな悔いはないですね。

DISC2の最初と最後を新曲で挟むということは、現在進行形であるという意思表示なのかなと思ったんだけど。

DISC2のオープニングにした「未だ見ぬ星座」という曲の内容は、僕の中では“新たなる決意”というか…。今でも心の中では泥にまみれたような日はたくさんあるし、人に理解されたかどうかも分からない。夢を諦めながらも幸せを手にしている人もたくさんいる。そんな、とまどいと闘いながらも未だ見ぬ星座を描こうとしている人の話を書いたんです。だから、“俺はこう頑張ってきたんだ!”っていうことじゃなく、“さあ、改めてどんな星座を描こうか?”って、そんな選手宣誓みたいなことがDISC2の最初になったらいいなって感覚でしたね。

なるほどね。そして、全30曲の締めが「おかえり」で。

“おかえり”っていう言葉は、帰る場所にいる人が言う言葉じゃないですか。もしかしたら、こうやって歌ったり歩んでいくことの意味として、“誰かの帰る場所になっていく”っていうのもひとつの答えというか、生きる目的になるのかなって考えた時に、この曲は意味合い的に僕の中での“最新の発想”だったので、一番最新の思いを一番最後に聴いてもらおうと。

歌詞の書き方というか、言葉のピックアップは変わってきた? デビューの頃、とてもジレンマを感じてたような…

書き方は毎回ちょっとずつ変えてるんですよね。ただ、根底にあるジレンマみたいなものはなくなったらおしまいだなって思うんです。そこに煮え切らない思いがあったり、自分を取り囲む世界に対しての疑問だったり、それはデビュー当時より、むしろ今の方ほうが多いくらい。今、改めて見えてきて冷静になったからこそ感じる、不安、疑問、怒りみたいなものもあるし、ただ制作にあたってのアプローチの仕方というのが、“リアルタイムシンガーソングライター”と言われていた頃は衝動的なものというか、むかつく!と思ったらそう書けばいいみたいなところがあったんです。だから、引き出しの一個としては健在なんですけど、それだけでは前に進めない気が2年前くらいにしたんですよね。やっぱり個人の感覚っていうのがあって、固定のものというよりも流動するものがあるんじゃないかなと思っていて。だから、曲作りに関しても、僕は変化し続けなきゃいけないって気がしていますね。その届け方は今年のやり方はあるけれど、来年は少し変わっているかもしれないと。

“周年”ってなると、原点回帰の発想としていろんな感情を振り返ることになると思うんだけど、何か気付いたことって?

選曲する作業の中で気付いたのは、記憶力って面白いなと思ったんですよね。曲を聴くまでは“こんなタイトルの曲書いたっけ?”って状態なんですよ(笑)。でも、聴いたら、書いた時の感情とか書くきっかけといった細部まで全部が思い出されるんですよね。で、曲が終わる頃には心の中が当時にタイムスリップしてて。だから、見ていたものや経験が蘇るっていう作用が音楽にはあるんだなって改めて思いましたね。

その中で強く思い浮かんだ原風景って、どんなものかな?

ライヴですね。自分の歌を聴きに来てくれてるっていう状態は、ツアーをやれるようになるまでは未経験だったので。だから、今でもお客さんがいるところを見ると “ドッキリじゃない?”と思うこともあるんですよね(笑)。でも、そこで自分の人生の価値観が変わったというか…。メジャーデビューをした2011年というのは特に忘れられなくて。原点回帰として、誰も知らないニューヨークで路上ライヴをやったり、その後「福笑い」をリリースして、その直後に東日本大震災があったり…世間的にも激動だったと思うんですけど、僕の中でもかなり激動だったんですよね。その中でも一番の音楽的なターニングポイントがツアー。あのタイミングで、ステージの上に僕しかいないワンマンライヴの会場が満員になっている状態を見た時に、誰もいなくて歌ってたストリートや、いろいろ悩みながら書いた楽曲や想いが届いてたんだっていう実感を初めて持てたんですよね。

ライヴハウスツアーの恵比寿LIQUIDROOM。アンコールで、みんなが「福笑い」を歌ってたね。

そう、それなんですよ! 僕の歌を僕じゃない人たちが歌ってる瞬間。あの景色が一番強いですね。

そういう経験が血となり肉となり、さらに進化した高橋優という存在になっていくと思うんだけど。そんな曲たちに声をかけるとしたら、どういう言葉?

う〜ん…“調子乗んなよ!”って(笑)。

(笑)。それは、どっちがどっちに?

僕自身にもそうですけど…(笑)。日常生活のことを歌おうって意識を持ってる日々の中で、一番恐ろしい感情なんですよ、“慢心”っていうものが。“もういいや”ってなる感じって成長の妨げだし、人として大きくなるきっかけを全部阻害してしまうものなんですよね。だから、このベストアルバムはあくまでもひとつのスタートラインというぐらいの気持ちなんです。オリジナルの曲ひとつもありません、また今から曲を書きたいと思います、くらいの気持ちでやったほうがいいと思ってます。

“笑う約束”というタイトルを先に決めてたって言ってたけど、どういう解釈すればいいの?

今まで僕は何を歌ってきたんだろう?って振り返ったら、ツアーでも“また会って、笑えればいいね”ってことを、いつも言ってたんですよね。見返した楽曲の中にも“笑う”“笑顔”というキーワードが何十個も入ってて。だから、この5年間で僕はいろんな人たちに“笑う約束”を取り付けてきたんだな、と。そんな自分の活動コンセプトみたいなものをタイトルにしたいと思った時に、“高橋優は笑う約束をしてる人です”っていうことの気がしたんですよね。ユーモアも交えて、ちょっとクサいというか…こそばゆい感じもしますけどね(笑)。

そういうことなんだね。では最後に、高橋優は今、笑えていますか?

笑ってますよ! 毎日。いろんな笑顔をしています。『笑う約束』をリリースすることになって、また余計に笑うっていうことを意識するようになったし、とっても充実してます。
『高橋優 BEST 2009-2015『笑う約束』』2015年07月22日発売WARNER MUSIC JAPAN
    • 【初回限定盤 (2CD+DVD)】
    • WPZL-31039〜41 4212円
    • 【通常盤 (2CD)】
    • WPCL-12155〜56 3456円
    • 【5周年記念「おはよう高橋くん」(高橋が唄うフィギュア付目ざまし時計)付豪華限定盤】
    • WPZL-31042〜44 7992円
高橋優 プロフィール

タカハシユウ:1983年12月26日生まれ。札幌の大学への進学と同時に路上で弾き語りを始め、08年に活動の拠点を東京に移し、10年7月21日、シングル「素晴らしき日常」でワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビュー。13年11月には日本武道館での単独公演を成功させた。デビュー5周年迎える15年7月にはベストアルバムをリリースし、同月25日には秋田県の秋田市エリアなかいちにてフリーイベントを開催。高橋 優 オフィシャルHP

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