【城 南海】最終的に希望の光が見え
てくる曲が多い

3枚目のオリジナルアルバム『尊々加那志~トウトガナシ~』をリリースする、シンガー城 南海。この作品には彼女のルーツである奄美大島の“人とのつながりを大切にする”精神を伝えたい、という思いが入っている。
取材:桂泉晴名

今年は2枚のカバーアルバム『サクラナガシ』(1月発売)と『ミナミカゼ』(6月発売)を発表、さらに今回オリジナルアルバムが完成し、計3枚のアルバムを制作したことになりますね。

はい、今年はずっと制作をしていました。このアルバムはカバーアルバムを2作出してからのオリジナルだったので、いろいろな名曲に触れて感じたことを踏まえた上で、より自分のカラーを出した作品を作りたいと思っていたんです。そして、演奏陣も制作陣もつながりのある方ばかりで、ご縁を紡いでいって完成しました。

まず、エモーショナルな「月と月」でスタートするわけですが。

私は月のイメージがあると言われることが多いのですが、そのイメージからか、デビュー時から自然と“月”がテーマの曲が集まりました。今回も2曲あるんですけど、「月と月」は今までの月の曲と観点が違い、水面に映る月と空に浮かんでいる月を自分と相手に例え、つながっていることを描いた曲なんですね。すぐに心をグッと持っていかれる感じが1曲目に相応しいと感じて、“この曲からいきましょう!”と私から提案しました。

2曲目の「君だけがいない冬」はタイトルは少し悲しいけど、心温まるメロディーと詞の曲ですね。

10曲目の「恋」もそうなんですけど、11月リリースなので、今回のテーマのひとつに“冬”というのもあったんです。この「君だけがいない冬」は冬の切ない街並みとか、そういう情景が思い浮かぶ中で、心が温かくなるような曲だなと思って。私、実は冬が季節としては一番好きなんですよ。自分の誕生日の季節でもありますし(笑)。クリスマスもあるし、切ない空気感と人恋しさが募る季節ですが、そういったものがこの曲には出ていますね。

3曲目の「一陽来復」はすごく切ないメロディーの曲ですね。

“一陽来復”は冬を乗り越えて春がくるという言葉で、それは人生においても同じだというテーマがこの曲にはあるんですね。デモテープを聴いた時、ひとりの縮こまった世界からスタートして、次第に光が差してくるような曲だと思ったんです。今回のアルバムの柱は“生きる”や“歌う”、“愛”といったものなので、「一陽来復」もそうですが、最終的に希望の光が見えてくる応援歌みたいな曲が多いんです。

確かに!

“尊々加那志~トウトガナシ~”というタイトルは、奄美大島の言葉で“感謝や人とのつながり”を表しているので、それを軸に曲を並べていきました。そして、ラストは絶対、川村結花さんの曲にしようと思っていて。川村さんは私のデビュー曲「アイツムギ」を書いてくださっていて、それ以降も毎回ターニングポイントで曲を作っていただいているんで。

そうですよね。で、ラストの曲は川村結花さんの「アイゆえに」という。

この「アイゆえに」は“歌っていく”という私自身の原点回帰と、今回のアルバムのテーマの“愛”“生きる”“歌う”と全部入っている曲だと思うんですよ。先日、テレビ番組『THEカラオケ★バトル』の収録があったんですけど、ゲストの宮本亜門さんから“あなたは何のために歌っているのですか?”という質問をいただいたんですね。そこで私は“奄美大島の良さを伝えるためです”とお答えしたんですけど…奄美大島の良さというのは、島の人が大事にしてきた、人とのつながりや愛、命というものに対しての感謝の気持ちであり、まさに“尊々加那志”なんです。私自身のテーマはシマ唄を歌い始めた高校生の時からずっと変わってなくて、それを今回のアルバムではできたらいいなと思っていて。その締め括りとして、この「アイゆえに」が入るととても意味があるのではないかと思ったんです。

川村結花さんの曲はもう1曲、「アカツキ」が収録されていますね。

「アカツキ」はアルバムの中で唯一のアップテンポ曲ですが、さらに応援ソングにしたくて、デモテープよりテンポを上げています。私はプリプロの時から参加するんですけれど、演奏者のみなさんと一緒に仮歌を歌い、そこでテンポやキーを決めるんですね。だから、私の気持ちがもっとも乗るテンポにして歌わせてもらいました。

そして、5曲目に収録されているNHKワールドの音楽番組『J-MELO』のエンディングテーマ「祈りうた~トウトガナシ~」は、城さんが奄美大島の言葉で作詞作曲した曲で。

世界中のみなさんから平和をテーマにメッセージを募集して、その言葉ひとつひとつを自分の中で受け止めた上で、曲を作っていったんです。私の中での平和な時間というのは、奄美の海を眺めている時なので、その風景を描こうと。最初はところどころ島の言葉にしようかと思っていたんですけど、奄美大島は苦しい時代がずっと続いてきて、島の人たちの想いを言葉に残してきているから、全部島の言葉で書こうと決めました。原点回帰プラス、新たな城 南海がこの曲では表現できたと思います。

8曲目の「みじかくも美しく燃え」は壮大な愛の曲ですね。

私は奄美大島と共通点があるアイルランドが好きで。そのことを作詞家の方にお伝えしたら、アイルランドに行ったことがあるからと、その風景を思い描きながら書いてくださったんです。この広い世界で、ちっぽけな私たち人間は命を燃やしながら生きていく、という曲ですね。編曲を担当してくださった、ただすけさんがアコーディオンを入れたり、フルートをティン・ホイッスルのように吹いてくれたりして、アイリッシュ色も出ています。

そして、ドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』のエンディングテーマ「サンサーラ」ですが、これはもう城さんの声にぴったりの曲です!

「サンサーラ」はさまざまなアーティストが10年間ずっと歌い継いできた曲なんです。“サンサーラ”は“輪廻”という意味でアルバムのテーマにもぴったりですし、“命”や“生きる”という内容の歌で、これまで歌い継がれてきたものを自分が歌うのは、奄美のシマ唄と同じ感覚がありますね。

奄美大島、月、アイルランド、冬、そして音楽仲間たち…城さんをかたち作ってきたものが全て入ったアルバムになりましたね。

カバー曲で知ってもらった人にも、オリジナル曲を聴いて城 南海の世界を感じてほしいので、そういった意味でもすごくいいアルバムができたと思います。これまでのご縁が今までの自分を作ってきてくれたから、それを表したオリジナル作品ができたことは、とても感慨深いです。
『尊々加那志 ~トウトガナシ~』
    • 『尊々加那志 ~トウトガナシ~』
    • PCCA-04286
    • 2015.11.04
    • 3000円
城 南海 プロフィール

キズキミナミ:平成元年 鹿児島県奄美大島生まれ。奄美民謡“シマ唄”をルーツに持つシンガー。2006年に鹿児島市内でシマ唄のパフォーマンス中にその歌唱力を見出され、09年1月にシングル「アイツムギ」でデビュー。代表曲は、NHKみんなのうた「あさなゆうな」、「夢待列車」をはじめ、NHKドラマ『八日目の蝉』の主題歌「童神~私の宝物~」、NHKBSプレミアム時代劇『薄桜記』の主題歌「Silence」、一青窈作詞、武部聡志作曲・プロデュースのシングル「兆し」など。また、テレビ東京『THE カラオケ★バトル』に2014年7月に初出演以来、毎回高得点をたたき出し、現在、番組初となる10冠を達成。オンエアの回数が重なるにつれ、カバーアルバムを望む声が多く集まり、15年に初となるカバーアルバム『サクラナガシ』『ミナミカゼ』、17年11月には3枚目のカバーアルバム『ユキマチヅキ』をリリース。20年にはディズニー実写映画『ムーラン』の日本版主題歌「リフレクション」の歌唱が決定し、日本版の訳詞も担当。ライヴでは毎年恒例のワンマン公演『ウタアシビ』の他、さまざまな音楽フェスティバル、イベントに出演している。城 南海 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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