L→R TOC(MC)、DJ KATSU(DJ)

L→R TOC(MC)、DJ KATSU(DJ)

【Hilcrhyme】俺たちが“Hilcrhyme”
のイメージを変えていく

今年の6月9日に結成10周年を迎えたHilcrhyme。4月には10周年記念ライヴを実施し、同公演が3D映画となって今秋に公開されることも発表済みだ。同映画の主題歌であり、2016年第一弾シングル「パラレル・ワールド」について語ってもらった。
取材:石田博嗣

今年の6月9日に結成10周年を迎えるわけですが、やはりメジャーデビュー5周年の時とは気持ち的には違いますか?

TOC
そうですね。違う周年という感じがあって…メジャーデビューだと関わった人がいっぱいいるんですけど、結成ってほんとふたりから始まったことですからね。10年前の6月にふたりで話し合ってできたチームなんですけど、この道を選んで良かったと思いますね。ね?
DJ KATSU
うん。10年経たずに解散するチームもいっぱいいるじゃないですか。10年前のあの時にふたりで話をしてなかったらと思うと…そういうことから、今回のシングルのタイトルの“パラレル・ワールド”につながっていくんですけど。

10年前の6月9日、ふたりはHilcrhymeをどうしたいと思っていたのですか?

TOC
1MC1DJのユニットって日本では結構少なくて…たぶん、当時はいなかったんじゃないかな。m-floもLISAさんがいた頃だったし。だから、この編成は面白いなって。みんな個々でやりたがるけど、僕はチームを組むことのほうが好きだかったから、バチッとしたチーム名を付けたかったんですよ。“Hilcrhyme”って名前が付くまでは結構時間がかかった…1年ぐらい悩んだ名前だったんで。それまでは“TOC&DJ KATSU”って名前でライヴをしてましたからね。

“Hilcrhyme”という名前を掲げて意識が高まったとか?

TOC
もちろん意識は高まりました。
DJ KATSU
やっと名前が書けるってね(笑)。
TOC
家ができたみたいな(笑)。やっぱり冠があると結束が高まるんですよ。で、10年間、メンバーの脱退も加入もない…当たり前ですけどね(笑)。でも、これがバンドだったら、そういうことが当たり前のように起こりますからね。
DJ KATSU
10年、そういうことがないのは大きいよね。

バンドだったら音楽性の相違とかでメンバーチェンジが起こりますけど、Hilcrhymeは最初から今のさまざまな音楽性だったり、スタイルだったのですか?

TOC
音楽性の相違ということでは、俺とDJ KATSUにはもともとあったんですよ。俺はヒップホップだし、DJ KATSUはハウスのDJだし。でも、だからこそ生まれる化学変化があって…DJ KATSUが作るトラックって抒情感があふれているっていうか、ダンスミュージックがベースなんだけどメロディーが強いんですよ。他のトラックメーカーだったらそうはなってないと思う。もちろん、DJ KATSUにとっても俺はそういう存在だと思うし。

DJ KATSUくんも当時、トラックを作っている時は新鮮でした?

DJ KATSU
結成する前からTOCがイベントで歌っているのを3年くらいずっと観ていたから、結成した時というのはTOCという歌い手がいることを前提に作ってましたね。まぁ、今もそうなんですけど。だから、TOCが歌うってことがなければ、トラックは作ってないでしょうね。DJは続けていたでしょうけど、創作するという行為は、完全にTOCありきだったから。で、そのまま10年経ったという感じです。

メジャーデビュー5周年の時は“5年目の節目で0に戻り、また1を作り出していく”とおっしゃってましたが、今の心境というのは?

TOC
とりあえず今年1年はお祝いってことで派手にやりたいと思ってます。それで先日の10周年記念ライヴがあって、それの映画化があって、今回のシングルもかなり新しい試みがあって…それはDJ KATSUがLAに滞在してのトラック作りをしたり、俺もソロ活動で得た知識や経験を必然的に反映しているし。来年の6月まで10周年は続けたいと思っていて、まだ大きな花火を用意しているんですよ。10周年はそんな感じですね。で、11年目からは初心に帰って、1年目ってマインドでやりたいと思ってます。47都道府県全てを回ったし、ある程度名前も知られてて、曲も知られているという環境にあることをちょっと忘れて、ほんと1年目のつもりで音楽をしたいと。

先日の10周年記念ライヴ『Hilcrhyme 10th Anniversary LIVE「PARALLEL WORLD」』にも“PARALLEL WORLD”という言葉を掲げ、今回の2016年シングル第一弾のタイトルも“パラレル・ワールド”なのですが、この言葉に込めた想いというのは?

TOC
誰もがそうだと思うんですけど、みんなそれぞれにいろんな人生の選択肢があって、その時々で最良の選択をして人生は進んでいく。でも、別の選択肢を選んでいたら、また別の人生があったわけで…例えば、僕たちだと“もし音楽をやっていなかったらどうだったんだろう?”って。今が一番正しいし、これまでの選択に間違いはないと思っていても、“もしも…”って考えてしまうから人生って面白いなって思うんですよ。10代後半や20代前半の人たちって、まさに“今”が楽しいんでしょうけど、この年齢になると“もしも…”って考えてしまうんですよね。なので、SFチックなタイトルなんですけど(笑)、この「パラレル・ワールド」という曲に書いてあることは、すごく人間味のあるものになってます。SNSが流行っている時代だからこそ書けた歌詞でもあるし、いい時代に、いい曲が書けたと思ってます。

歌詞の方向性とかは、事前にふたりで話し合ったり?

TOC
歌詞は自分ひとりで完結させました。いくつかラフを聴いてもらって、DJ KATSUも“これが一番、キタわ”ってことだったので、これをシングルにしようって。
DJ KATSU
ざっくりラフが3曲くらいあった中で、この曲ともうひとつ主力でいけそうな曲があって…カップリングの「ソウサ」はまた別の方向性ということで、俺はどっちかと言うと、トラックの段階ではもうひとつの曲のほうが今回のシングルになるかなと思ってたんですよ。でも、ラップが乗ると断トツでこっちでしたね。サビ一発で歌詞もフロウもメロディーも入ってくるというか。まだHilcrhymeを知らない人や、「春夏秋冬」しか知らない人とかにも届くんじゃないかな。

今回はトラック制作がLAで行なわれたそうなのですが、それはどういう流れからだったのですか?

DJ KATSU
これはレコード会社の提案で…自分たちがやりたいと思ってもそうそうできることではないですから(笑)。映画の話もそうなんですけど、10周年だからレコード会社も気合いを入れてくれているということですね。LAではスタジオを借りて、そこにミュージシャンを呼んでやってました。今まではずっと俺ひとりでやってた…日本人のプロデューサーを立てる時もあったけど、基本的にはひとりで作業して、それをプロデューサーに投げる感じだったから。でも、LAではみんなで集まって、その場で“こうしよう!”ってリアルタイムで作っていったので、すごく新鮮でしたね。日本でもそういう作り方をしている人はいっぱいいると思うけど、Hilcrhymeは1MC1DJなので、ひとりで作業することが多かったから、まさに今回はチームワークって感じがしました。

そのLAではENRIQUE IGLESIASやJENNIFER LOPEZ などを手掛けるJustin Trugmanとコラボしているわけですけど、どんな人でしたか?

DJ KATSU
経歴はすごいんですけど、人間性はほんと少年でしたね。“疲れたから帰る”とか“体調が悪いから休む”みたいな(笑)。

それだけピュアなんですね(笑)。

DJ KATSU
ピュアですね(笑)。でも、作り出すもののセンスはすごい。

制作に入る前に話し合いとかは?

DJ KATSU
Justinはアメリカでも特にヒップホップ寄りの“REDONE PRODUCTION”というチームでEMINEMとかをやっていたんで、かなりヒップホップ色の強いトラックメーカーなんですね。でも、Hilcrhymeはヒップホップと歌謡曲の要素があるから、両方の良いところを引き出すのがいいだろうってことで、その日本的な構成をアメリカの色で仕上げると面白いんじゃないかってなって、そうしたいってことをJustinには事前に伝えてました。でも、いざアメリカに行ってみたら、“こんな構成じゃ混乱する!”って言われて、そこで揉めに揉めて(笑)。結局、その日はかたちにすることができなくて、別の日にキーボーディストを呼んで、こっちで一旦作ったものをJustinに投げて、お互いの意見の間を取るようにしたら、“あっ、この方向性ね”って分かってきて、そこからは順調でした。

その時点では“パラレル・ワールド”というキーワードは?

DJ KATSU
まだなかったですね。ラフで2コーラス目ぐらい出来上がったあとに、“パラレル・ワールド”というテーマが出てきたから、それを受けて3番の歌詞に“パラレル・ワールド”という言葉を入れたんですよ。だから、“パラレル・ワールド”というのは、この曲というよりも10周年全体のテーマとして捉えてもらったほうがいいですね。
TOC
最初は10周年ライヴのタイトルとして決まった言葉で、今回の曲がずっと仮タイトルのままだったから、これも“パラレル・ワールド”にしてしまおうっていう流れだったんですよ。で、3番の歌詞に“パラレル・ワールド”という言葉を入れて。内面を曝け出していこうっていうような、啓発的な曲になりましたね。

《「私なんか」じゃなく「私だって」》という歌詞は、意味合い的にもパラレル・ワールドにもつながってきますよね。

TOC
そうなるようにつなげたんですよ、その3番の歌詞で(笑)。

あと、Wヴォーカルというか、歌声を重ねているところが、自分ともうひとりの自分みたいに、“パラレル・ワールド”にも通ずると思ったのですが…勘ぐりすぎました?

TOC
あー、なるほど。今回はヒップホップのミックス・エンジニアの第一人者のD.O.Iさんに初めてやってもらったんですけど、ミックスがそういうスペーシーな仕様になっているのは偶然ですね。でも、意識して多重声にはしました。わりと勝負の時には多重声にしますね。

“パラレル・ワールド”という言葉に引っ張られて、いろいろ深読みしてしまいますね(笑)。

TOC
嬉しいです(笑)。あとは映像ですね。今の時代は1にも2にもミュージック・ビデオなんで。そこでどう観せるか…“パラレル・ワールド”というタイトルだけ見ると、ものすごくEDMっぽいじゃないですか(笑)。だけど、そうじゃないっていうのが、ワンフックで分かるような映像になる予定です。しかも、今回は僕らがメインじゃなくて、ストーリー仕立てで観ていて痛々しくなるようなものにしたかったから、“こういうシーンが欲しい”とか、かなりリクエストしましたね。今っぽくないストーリーかもしれないけど、Hilcrhymeっぽいものにはなると思います。

それは楽しみです! そして、カップリングが「ソウサ」。この曲をカップリングにした理由というのは?

TOC
これは速度が命の楽曲だと思ったので、最初はフリーアップも考えたんですけど…出来上がったら、すぐにYouTubeにアップして、それをシングルのプロモーションにしちゃうとか。でも、普通にシングルに入れたほうがいいかなって(笑)。

クールで挑発的なナンバーで、すごく攻めている感じがありました。とりようによっては、Hilcrhymeには珍しい社会批判とも言えるリリックかなと思ったのですが。

TOC
でも、何も否定はしていないんですよ。ただ自分が俯瞰で見ていることを書いただけというか。

“全てを受け入れ、俺は何も否定しねぇ”という台詞が最後に入りますしね。

TOC
うん。批判ではないんですよ。俺は日本が好きなので。ただ、ラップの題材としては最高なものがここ数日起きていたから、ちょっと遊んだ感じですね(笑)。

そういう意味では、TOCくんのソロの曲に近い?

TOC
そうですね。最初にみんなに聴かせた時、“ソロの曲?”って言われました。そこに棲み分けはあまりしていないので、全てはオケ次第ですね。こういうトラックが来たら、こういうリリックを書きたくなるし、それを無理してポップにするのもどうかと思ったので、ちょっと辛口にやってみました。ダブル・ミーニング、トリプル・ミーニング、暗喩、隠喩というラップにおける手法を、Hilcrhymeとしては存分にやった曲かなと。

では、この曲のトラックはどんなものを作ろうと?

DJ KATSU
さっき言った日本的な構成のものだけじゃ面白くないから、思い切りループモノを1曲入れようって。それで最近作ったものの中から“これ、LAに持って行ったら面白いかも!”ってものを選んだ感じです。この曲はメロディーがどうのっていうものじゃなかったから、シーンの合間と合間に来るフレーズに不協和音じゃないけど、普通だとやらないような半音ずらしとかをやってたんで、そういう遊び的なものをLAに持って行ったらどうなるのかなって。結果、そういうところはそのまま残って、ビートがすごくカッコ良くなって…低音のセンスが素晴らしいなって。なので、コンセプトとしては、こういう面白い曲もやってみようっていうことでしたね。

こういう曲のほうがLAのチームもとっつきやすかったかもしれないですね。

DJ KATSU
そうですね。結果的にめちゃくちゃ短い曲になりましたけど。3分いかないので、Hilcrhymeの曲の中で一番短いかもしれない。まぁ、1曲が短いというのは、最近のトレンドっぽいかなって思いますね。

このシングルが結成10周年の一発目に出るわけですが、どんなものが提示できると考えていますか?

DJ KATSU
単純に「パラレル・ワールド」は伝わりやすい曲だと思うんですよ。個人的にはHilcrhymeの曲って聴き込んで良さが出てくるイメージが強いんですけど、一聴しただけでズドン!とくるような即効性のある曲のような気がします。ライヴや映画ともつながっているし、今までにない展開の仕方をしているので、違った広がりを見せてくれればいいなと思ってます。
TOC
提示しているものは、真新しいものだと思うんですけど、それがどう世の中に受け入れられるのかが楽しみですね。今回はどう受け止めてもらえるか予想が付かない…明らかに時代は変わっているので、今の時代にどう映えるのか、どんな反響があるのか、すごく楽しみですね。

ある意味、“いつまでも「春夏秋冬」じゃないぞ”みたいなところも感じました。

TOC
それはデカいですね。6年も前のことだし、あれからもう17枚のシングルを切っているわけだし。すごい名曲ができたっていう自負もあるから、未だに“Hilcrhyme=「春夏秋冬」”と思われるのも分かるけど、“俺たちがそのイメージを変えていく”って感じですね。なかなか困難なことですけど。一度確立したものをぶっ壊して、また新たに作るっていうのは初めて作ることよりも難しいことだと思うので。

そして、10周年記念ライヴが3D映画化されて今秋に全国の劇場で公開される予定ですが、今は映像編集の真っ只中?

TOC
そうですね。だいぶ編集も終わって…ただ、まだ3D版を観てないんですよ。でも、2Dでもすごくいい映像が撮れてるので、出来上がりが楽しみです。
DJ KATSU
音もサラウンドだしね。
TOC
それを劇場で体感できるというのは、なかなか珍しいことだし…しかも飛び出てくるわけですからね。贅沢すぎますよ。そういうことをやっているアーティストって少ないし、ラップの世界では聞いたことないですから。そういう意味でも、いい展開ができていると思うので、素晴らしい10周年のスタートですね。
「パラレル・ワールド」 2016年06月29日発売UNIVERSAL J
    • 【初回限定盤(DVD付)】
    • UPCH-7145 1836円
    • 【通常盤】
    • UPCH-5876 1188円
Hilcrhyme プロフィール

ヒルクライム:ラップユニットとして2006年に始動。09年7月15日にシングル「純也と真菜実」でメジャーデビュー。2ndシングル「春夏秋冬」が大ヒットし、日本レコード大賞、有線大賞など各新人賞を受賞。ヒップホップというフォーマットがありながらも、その枠に収まらない音楽性で幅広い支持を集めてきた。また、叩き上げのスキルあるステージングにより動員を増やし続け、14年には初の武道館公演を完売。「大丈夫」「ルーズリーフ」「涙の種、幸せの花」「事実愛 feat. 仲宗根泉 (HY)」などヒットを飛ばし続け、24年7月15日にメジャーデビュー15周年を迎える。ライミングやストーリーテリングなど、ラッパーとしての豊かな表現力をベースに、ラップというヴォーカル形式だからこそ可能な表現を追求。ラップならではの語感の心地良さをポップミュージックのコンテクストの中で巧みに生かす手腕がHilcrhymeの真骨頂である。耳馴染みのいいメロディーと聴き取りやすい歌詞の中に高度な仕掛けを巧みに忍ばせながら、多くの人が共感できるメッセージを等身大の言葉で聴かせる。その音楽性は、2018年にラッパーのTOCのソロプロジェクトとなってからも、決して変わることなく人々を魅了している。Hilcrhyme オフィシャルHP

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着