【堀込泰行】キリンジ・マナーから抜
けて、言葉を書く気分も変わったかも
しれない

元キリンジの堀込泰行のソロ1stアルバムがついにリリースされた。バンドサウンドを基調にルーツ音楽と洗練が融合し、何より平熱の温度感の前向きさが新しい一歩をビビッドに印象付けるアルバムに仕上がった。
取材:石角友香

キリンジ脱退からアルバム制作に至るまで、ざっくりになりますがどのような感じで過ごしていたのですか?

辞めて数カ月は特に何もせず。どっか旅行に行ったりするのかな?と思ってたけど、行かなかったですね、全然。で、ただダラダラ過ごしてて。その後はイベントに誘われたりしたらちょこちょこ出たりはしてたんですけど。あとは、曲提供をやったり、CMの音楽作ったりとかしつつ、オリジナルの曲も書き溜めつつ。できるだけイベントとかに出る時はオリジナルの新しい曲を披露するような感じに心掛けたりはしてたんですけど…ただまぁ、Twitterとかもやってないんで、印象としてまったく動いてないっていうイメージを持っていた人もいるのかなぁと思います。

この間に洋楽のカバーアルバムを出したりも。

有名な曲のアレンジをめちゃくちゃに解体する作業が面白かったんですよ。“結局、自分はサウンドにこだわってものを作るっていうのが好きなんだな”っていうのは確認できましたね。

そこからアルバム制作へはスムーズに?

曲自体はわりと揃ってたんですけど、単純にどんなイメージでやっていくのかとかの話が進まなくて。もうちょっとシンガーっぽい立ち位置でやるのかとか。で、洋楽のカバーを作ってみて、自分が素直に作るとああいうふうにサウンドにこだわったものになるっていうのが分かったんですよね。だから、いろいろ頭で考えるとキリンジから脱退してソロでやっていくにあたって、もしかしたらもっとシンガー寄りの作品を出していくほうが賢明な感じもしたんですけど、素直にやるとサウンドにこだわったものになるというか。あとは、そうやって自分が楽しんで作ったもののほうが他人も楽しませられるだろうっていうような気持ちもあるし、そのほうが長続きもするだろうなとも思ったんですよね。なので、新しいアルバムも想像していたよりバンドっぽい音楽になったなっていうふうに思ってますね。

泰行さんの場合はキリンジの頃から馬の骨の活動もされていましたが、そことの線引きみたいなものはあるのですか?

自分ではあんまり意識してないんですけど、音楽的に…何だろうなぁ? 馬の骨のほうがなんとなくパーソナルな作品だったと思うんです。サウンドもそうだったし、歌ってることも。で、今回のソロを作るにあたっては単純にあんまり私小説的なものにならないようにっていうのを心掛けていて。とにかく聴いた人に楽しんでほしいっていう気持ちで作りましたね。

1曲目の「New Day」から何が驚くって、言葉がストレートですよね。

あぁ、そうですね。歌詞とかもちょっとキリンジにいた時と気持ちが変わったのかもしれない。知らない間にキリンジ・マナーみたいなものの中に自分がいたのかもしれないって、今になってみるとちょっと思います。キリンジの時は言葉を書くにしても、まず何か変わってなきゃいけないってところがあったのかも。でも、そこの気分が変わったような気がしますね、ソロになって。知らない人にも聴いてほしいって気持ちもすごくあるし、昔からのファンにも喜んでほしいっていうのもあるし。そうだなぁ…辞めた直後は会う人会う人に、いろいろ応援やらアドバイスやらもらいすぎて何かちょっと鬱陶しいなって時期があったんですよ。その時は気分的にちょっと落ちたんですけど、それから抜け出して気分が軽くなったというか。わりと自分自身が“あ、俺、明るくなってきた”みたいな感じの時期とレコーディングの時期がちょうど重なってたっていうのはありますね。でも、さっきの洋楽カバーもそうですし、今回のアルバムもそうなんですけど、やっぱり作ってると元気が出てくるんですよ(笑)。実際に動いてからのほうが調子が良くなりましたね。結局、気に入った音楽ができると気分が良くなってるところはあって。そんなもんなんだなって思いましたね。

それって再確認ですよね。結局、自分が作るものに左右されて生きていくというか。

まぁ、だからこそ楽しんで作りたいし、楽しめることを続けるっていうのは大事なんじゃないかなと思いますけど。

今回のアルバムの楽曲って比較的、前を向く感じの曲が多いと思うので自分の曲に背中を押されるっていうとあれですけど、そういう部分はありますか?

できるだけ人に向けて歌詞を書くようにはしてるけど、実際のところは自分に向けて書いてたりもするというか。ただまぁ、自分を応援する歌ばっかり書いてもしょうがないから、主人公はだいたい他人にするんですけど。

そんな中、「Waltz」はアメリカンロック的な部分と洗練が同居した曲調で。ホーンがおおらかでいいですね。

伊藤(隆博)さんがアレンジしてくれました。イントロは僕のアイデアが反映されて、うまく共同作業ができたなと。

どの曲にも洗練とオルタナ感があるなと思いました。「Jubilee」の間奏のギターの音とかワイルドですし。

雷を表現してるんですが、自分的には(笑)。で、シンプルな言葉で繰り返しが多くて、それによって聴く人が興奮してくっていう、ちょっとお祭りっぽいことを連想しながら作って。ま、ちょっとギターソロだけエキセントリックな感じになりましたね。

資料によると「さよならテディベア」の発端が、先ほどの周囲からの応援や言葉だったとかで。

そうですね。さっき話したようなことも含まれる…まぁ、それで面白い曲が1曲できたからありがたいし、曲の糧にするしかないなみたいなところはありますね。

実際こうしてアルバムが出来上がってみていかがですか?

とにかく1枚できて良かったってホッとしてるところはありますね。で、ようやく状況が動き出したんで、この動きは止めないようにして早く次も出したいなと思います。
『One』
    • 『One』
    • COCP-39739
    • 2016.10.19
    • 3240円
堀込泰行 プロフィール

ホリゴメヤスユキ:1997年に兄弟バンド“キリンジ”のヴォーカル&ギターとしてデビュー。13年4月、17年活動をしていたキリンジを脱退し、以後はソロアーティスト/シンガーソングライターとして活動を開始する。14年11月にソロデビューシングル「ブランニュー・ソング」を、16年10月には1stソロアルバム『One』をリリースした。代表曲に「エイリアンズ」「スウィートソウル」「燃え殻」「Waltz」などがあり、希代のメロディーメーカーとして業界内外からの信頼も厚く、ポップなロックンロールから深みのあるバラードまで、その甘い歌声もまた聴くものを魅了し続けている。堀込泰行 オフィシャルHP

キリンジ プロフィール

堀込泰行&堀込高樹によるポップ・デュオ、キリンジ。97年、1stシングル「キリンジ」でインディーズ・デビュー。至福感150%な楽曲はあっという間に業界内外の話題に上がり、98年「双子座グラフィティ」でメジャーへ進出。2人が描き出す音の世界は、ため息を誘うほどの美しさに満ちている。それは、バート・バカラックのような情緒豊かな旋律であり、アイズレー・ブラザーズ・ライクのスウィートなノリだ。また、歌詞やソング・タイトルにみられる文学性&アクの濃さも、強烈なインパクトを放つ。シャープにしてクリアな音の触感と確信犯的な言葉の羅列のハーモニーが絶妙のバランスなのだ。もはや代替品の無い、トップ・ブランドのキリンジ節である。
06年には各々のソロ活動を経てキリンジとしては約3年ぶりの6thアルバム『DODECAGON』を発売。今までに無いエレクトリックな質感をプラスしたその新たな音世界はキリンジ第二楽章の幕開けを感じずにはいられない内容となった。公式サイト(レーベル)
公式サイト(アーティスト)

OKMusic編集部

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