L→R DJ KATSU(DJ)、TOC(MC)

L→R DJ KATSU(DJ)、TOC(MC)

【Hilcrhyme】今作はラップアルバム
というよりも、俺の中で歌のアルバム
に近いんです

キャッチーなメロディーを作れる、それ
を誇れるのがヒップホップ

一方、TOCさんとしては、L.A.で飛躍的に成長を遂げたDJ KATSUさんのトラックにどう対峙するかが今回の命題だったと思いますが、その辺りはいかがだったでしょうか?

TOC
そうですね。最初にオケを聴いた時は“どうしよう? やっぱり、そういうトラックに合わせた乗せ方をしたほうがいいのかな?”って迷ったんですけど、考えた結果、USの要素を3割入れて、あくまでも7割は自分の作ったものでいこうと思ったんです。だから、「VESPER」ではビートが抜けたところで歌を入れて、戻ってきたところで《I hold my vesper...》のリフレインを入れて、そこから《どこまで行きたい? 君といたい》という別のフックを入れて…それは自分のやり方です。多分USだったらこれがないと思います。2回同じものが来てるんですけど、そこが一番好きだから2回繰り返す。出来上がったトラックにそのまま合わせるのもいいんですけど、自分なりに構成をいじって、書きやすいようにパーツを組み立てた。それがいい相乗効果というか、化学変化を生んだと思います。

「パラレル・ワールド」の歌詞って、ひと口で言うのも恐縮ですけど、“自分は自分のままでいい”ってことじゃないですか。今話してもらったアルバム制作における精神面とシンクロしてますよね。

TOC
あぁ、そうですね。

やはり、歌詞にはその時々の気持ちが反映されている?

TOC
間違いないですね(笑)。俺は歌詞を書く人間だから、その時の感情、心情が全部なんですよ。

《もしあの時こうしていたらなんて あの時の自分が可哀想だろ》と逡巡してるさまも描いていますが、これもその制作過程のままですね。

TOC
うん。ファンの方の中には“TOCさんはいつも自信満々で、そこに惹かれる”と言ってくれる人もいるんですけど、実際に《もしあの時こうしていたら》って思ったから《自分が可哀想だろ》って書けたというだけで(苦笑)。気弱になるタイミングがあったからこそ、自信を持つことの大事さが分かったんじゃないかなと思います。

その辺は他に歌詞にも垣間見れるところで…「WARAE ~In The Mood~」の《だれが不正解と言おうと俺が正解》辺りも自分自身に自信を持っていないと出てこないフレーズでしょうし。

TOC
間違いないですね。それは音楽を作る上で大事なことですしね。

「VESPER」の《調教してやるよTOCに膝まずけ ケツ二回も叩けば女と化す 楽しもうじゃない 今夜をまず》という突き抜け方も自信の成せる技ではないですか?

TOC
いや、あれは(苦笑)。
DJ KATSU
ははははは。
TOC
あれは…実は今年、『007』シリーズにはまりまして。特に『007 カジノ・ロワイヤル』に激はまりして、毎日のように観ていて、“そう言えばプライベートで観た映画を題材にした歌詞はなかったな”と思って書いたんです。オケもそんな感じだったので。

それにしても、こんなに大胆な歌詞が書けたというのは、どこかひとつハードルを超したようなところはあるのでは? 

TOC
そうかなぁ?(苦笑)

だって、やっぱり女子のファンはこれを見たら“キャー!”と騒ぐんじゃないですかね?

TOC
女子はそう言うのかもしれないですけど(苦笑)…でも、無理して書いてるわけじゃないから。
DJ KATSU
そこだよね。
TOC
うん。無理して書いてたらダメ。
DJ KATSU
飾ろうとして作り出すとキャパがなくなると思うんだけど、素を曝け出すと生きている限り永遠に続くわけで。特に最近のTOCは書くペースも早いけど、ボンボン出てくるのは、その書き方だからじゃないのかな?
TOC
そうかもしれないね。

言わば“言うべきことを言うことに躊躇していない”というのが今回のリリックの大きな特徴だと思いますね。で、白眉はやはり「Side By Side」。《どんな孤独に襲われても構わない 糧となり術となる そんな歌 歌いたい》《離れ途切れてもまた寄り添えるのなら 盾となり矛となる そんな歌 歌いたい》と、アーティストとしての立ち位置を高らかに宣言していますよね?

TOC
そうですね。「Side By Side」は書けた時点で“もう死んでもいい”くらいに思った曲です。“いい曲書けたわぁ”って(笑)。

これ、相当いいですね。最初に聴いた時は震えましたよ。

TOC
ファンに向けて書いた曲なんですけど、まず一番重要なのはラップをしないことで。全て歌で締めようと思ったんです。L.A.に行ったことから始まり、US感があってDJ KATSUらしさもあるオケが出てきて、俺の日本語ラップがあるんだけど、Hilcrhymeはメロディーを武器としているから、アルバム全体でサビが全部歌えるくらいキャッチーなものにすることを徹底しようと思って。サビを一聴して、“あ、いい曲”って思ってもらえるような…つまり、ラップアルバムというよりも、俺の中で今回は歌のアルバムに近いんです。

ポップスと言ってもいいですか?

TOC
ポップスと言ってもいい。それほど自分のコーラスライティングに自信を持っているし、歌詞にも深みを出せるようになって、なおさらリスナーに響くと思ったから、それを突き詰めていって、「Side By Side」ができた感じですね。

これはこちらの勝手な思い込みかもしれないですけど、ヒップホップのアーティストが“歌を歌いたい”というのは、勇気のいることではないかと思うのですが?

TOC
あぁ、最初はそういうのがあったのかもしれないですけど、今となっては自分にとってメロディーは最大の武器といっても過言ではないし、逆にキャッチーなメロディーを作れることを誇れるのがヒップホップだと思っていて。

それは素晴らしいっ!!

TOC
ラップに固執して良いところを隠すことが俺には全然ヒップホップじゃない感じがしていて。はっきり言って、シンガーに比べたら俺の歌は下手なのかもしれないけど、下手でも自分にしか歌えない歌だと思っているから、ライヴでもしっかりと歌い上げられたらなと思っています。
『SIDE BY SIDE』2016年12月07日発売UNIVERSAL J
    • 【初回限定盤(DVD付)】
    • UPCH-7211 4104円
    • 【通常盤】
    • UPCH-2106 3240円
    • 【4Seasons会員限定盤(2DVD付)】
    • PDCJ-1088 5400円
Hilcrhyme プロフィール

ヒルクライム:ラップユニットとして2006年に始動。09年7月15日にシングル「純也と真菜実」でメジャーデビュー。2ndシングル「春夏秋冬」が大ヒットし、日本レコード大賞、有線大賞など各新人賞を受賞。ヒップホップというフォーマットがありながらも、その枠に収まらない音楽性で幅広い支持を集めてきた。また、叩き上げのスキルあるステージングにより動員を増やし続け、14年には初の武道館公演を完売。「大丈夫」「ルーズリーフ」「涙の種、幸せの花」「事実愛 feat. 仲宗根泉 (HY)」などヒットを飛ばし続け、24年7月15日にメジャーデビュー15周年を迎える。ライミングやストーリーテリングなど、ラッパーとしての豊かな表現力をベースに、ラップというヴォーカル形式だからこそ可能な表現を追求。ラップならではの語感の心地良さをポップミュージックのコンテクストの中で巧みに生かす手腕がHilcrhymeの真骨頂である。耳馴染みのいいメロディーと聴き取りやすい歌詞の中に高度な仕掛けを巧みに忍ばせながら、多くの人が共感できるメッセージを等身大の言葉で聴かせる。その音楽性は、2018年にラッパーのTOCのソロプロジェクトとなってからも、決して変わることなく人々を魅了している。Hilcrhyme オフィシャルHP

OKMusic編集部

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