取材:高橋美穂

世にも奇妙な取材、完全レポ ーー 「爪
爪爪/「F」」編

6月某日。music UP'sのT氏から受けた電話。それは奇奇怪怪な内容だった。“ホルモンの新作の取材をお願いしたいんですけど、チャットで、合同でやるみたいなんです”。チャットって、メンバーが東京にいられないビージーな事情、もしくは顔を見せられないダークな事情か何か!? そして合同って、どんな状況でやるの!? しかし、T氏にも細かい情報は明かされてないらしい。まぁ、ホルモンとの付き合いは短くはない自分である。今までも彼らに度肝を抜かされることは多々あったから、今回彼らが、我々ライター側を“ぶっ生き返す”ような作戦を考えていることは予想できた。“ライターにロッキンポはいねぇが~”となまはげの如く抜き打ち検査を掛けてきたといったところかもしれない。流石だ…なんて感心している場合ではない。どうやって準備したらいいのかも分からずに、取りあえず新作を聴き、唯一明かされた情報である取材場所に向かった。
都内某所の会議室に足を踏み入れると、あらゆるフリーペーパーの編集者とライターが顔を揃えていた。そこにずらりと並ぶパソコン。そして慌ただしくセッティングするスタッフ。ここでみんなで一斉にチャットするということか。じゃあメンバーは何処に!?と思いきや、ふらりとマキシマムザ亮君が現れたではないか! おーい、チャットの意味、あんのかい!? 全員が同じ空間にいながらも、顔を合わせることも、口を開くこともなく、無言でチャットに勤しむということか。まるで現代社会の歪みを眼前に現したかのような状況である。フリーペーパーという柔軟性がある媒体を標的に、インタビューのスタイルまでも表現にしてしまうとは! …という考えがあったかどうかはあくまで私のシリアス思考な予測なんですけど。ちなみに亮君は、チャットにてこの取材スタイルの意図を<font color="#CC0000">“これの狙いは 毎回同じことを話すと テンションが下がって、最後のほうに受けたインタビューでは もう飽きてしまって、ハズレのインタビューをしてしまうんですよね。ちなみに前回 たかはしさんがそれに選ばれましたw”</font>って書き込んでたけど…おぉーい! たかはしさんて、私のことじゃないかい! 凹む。
いやしかし、そんな予想をしてしまうほどに、ニューシングルは現代社会の歪みを音像化したように聴こえてくる3曲が収められているのだ。まず1曲目の「爪爪爪」は、ファニーでキュートなホルモンを想像して聴くと、それこそ引っ掻かかれるような痛い目に遭う。SMを彷彿とさせられる歌詞と、システム・オブ・ア・ダウンを想起させられる、日本人離れしたヘヴィネスが襲い掛かってくるのだから。さらに「F」は、某超名作アニメ『ドラゴン●ール』を彷彿させられる世界観が、激昂の音圧で奏でられる。いつもキャッチ―に聴こえる姉弟コーラスも、どこか憂いが感じられるほどだ。極めつけは“ポアダ”という、数年前に騒がれた恐ろしい言葉に似た歌い出し。“根本にあったのは 僕の単なる悪乗りだったんです。それの境地が ポ●(←ライター自主規制)ですよw”と亮君は最初は書き込んでいたが、その後にこんな真実を明かしてくれた。
<font color="#CC0000">“ドラゴン●ールで、今回ナ●ック星編を選んだ理由がでかい。ナ●ック星には ドラゴン●ールがあって、それをめぐってその星ではいろいろな戦いがくりひろげられているわけですよ。そこにおとなしく住んでいたナ●ック星人は まきぞえくらって弾圧され 虐殺されていくんです。力の強い独裁主義者の欲望のためだけに。どっかの民族と似てないでしょうか…?”</font>。
そう、想像できる通り、世界情勢にバッサリ斬り込んでるのだ。
<font color="#CC0000">“レイジアゲインストザマシーンみたいに、政治的な怒りをそのまま歌詞にしようとも思いました。でも それホルモンがやったらうそ臭いんですよ。ならナ●ック星人におきかえてやろう というすばらしい発想がわいてきたのですw”</font>。
つまり、これはホルモン流のレベルミュージック。エンタテインメント性を高めることで、直球よりも攻撃的で、分かりやすい楽曲に仕上げているのだ。そして3曲目の「kill all the 394」はパンキッシュなショートチューンで、3曲の中では最もライトに聴こえるが、歌詞は…ブックレットに掲載されないので詳細を記すのも避けてしまうような攻撃的な内容である。亮君曰く<font color="#CC0000">“炎上してしまえばいいw”</font>だそうです。察してください。
以上、“重・暗・激”が三拍子揃った、極上に攻撃的なシングル。改めて、ホルモンの脅威を感じてほしい! でも、何より恐ろしいのは、こんなシングルについて、“悪魔の粉”(by亮君)がまぶされたハッピーターンを大人たちがボリボリ和やかに食べながら、チャットで語り合ってたって事実なんだけどね…。
マキシマム ザ ホルモン プロフィール

98年結成。メンバーはマキシマムザ亮君(歌と6弦と弟)、ダイスケはん(キャーキャーうるさい方)、上ちゃん(4弦)、ナヲ(ドラムと女声と姉)の4人で構成され、現代日本に出現した突然変異ハードコア・ミクスチャー・ロック・バンド、それが彼ら、マキシマム ザ ホルモンだ。

独特の言語感覚に彩られた、曲中で聴くととても日本語には聴こえないが歌詞カードを読むと確かに日本語という不可思議な詞、そして異様なバカテクに裏付けられた確かな演奏力によって繰り出される、ハード&ポップなサウンド・プロダクション。彼らの魅力はまさに唯一無二であり、真のオリジナリティとはこういうことを指すのだろう。

99年に、現在廃盤となっている幻の1stアルバム『A.S.A. CREW』でインディーズ・デビュー。転機となったのは、03年放送のTVアニメ『エアマスター』エンディング・テーマに起用された「ROLLING1000tOON」である。深夜にブラウン管から突如流れ出した「♪〜俺は延髄突き割るー!俺は延髄突き割るー!」という歌唱には一体何が起こったのかと驚かされた。その後も『闘牌伝説アカギ 〜闇に舞い降りた天才〜』『DEATH NOTE』などアニメ主題歌タイアップは非常に多い。

そして、02年リリースのアルバム『耳噛じる』より、ジャケットのアート・ワークに特殊漫画家・漫☆画太郎のイラストが使用される機会が増えた。『ロッキンポ殺し』(05年)、『ぶっ生き返す』(07年)などのアルバム・タイトル、収録曲タイトル(ここでは敢えてタイトル名は挙げないが……)と同様、そのインパクトによってリリースの度にキッズの注目を集めている。マキシマム ザ ホルモン Official Website
公式サイト(アーティスト)
公式サイト(レーベル)

OKMusic編集部

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