文:高木智史

このメッセージ聞こえるかい?

編集部に髭(HiGE)の新作が届いた。髭(HiGE)ファンである僕は即座に担当者に、その音源を貸してほしいと告げると、その担当者は少しいやらしい笑みを浮かべてこう言った。
“1曲で40分ぐらいあるよ”。
“…?…”。
音源を受け取るまでに何秒かかかってしまった。そして、こう思った。
“とんでもないものを受け取ってしまったかも…”。
髭(HiGE)の作品において“とんでもないもの”と思うことは通例である。彼らのメジャーデビュー作であるミニアルバム『Thank you,Beatles』を初めて聴いた時、そのグランジやオルタナの揺れて歪んだロックにダンスやテクノ、加えてJ-POP的なポップ感、キャッチーな歌詞のそれらを鳴らせた、なんだかデタラメだけど気品を感じる楽曲に“とんでもない”と思ったのを今でも覚えている。最もリーセントリーな作品であるアルバム『Chaos in Apple』では『Thank you,Beatles』と耳ざわりは変わったものの、サウンドの重量感や独自のユーモアセンスが増幅し、髭ロックのひとつの果実が熟したかのように、そのインパクトはまた、とんでもなかった。と、かつての“とんでもない”にはスリリングな興奮が内含されていたのだが、今回は前述のものとはまったく異質の、聴くことを迷うほど危険なとんでもない予感を感じていた。
そして生唾をひとつ飲み込み、CDの再生ボタンを押す。ささやくように“このメッセージ聞こえるかい?”というフレーズが聴こえ、コンスタントなテンポでリズムがとられていく。それが際限なくループし、次第にいろいろな音が合わさっていく。激しくどろどろとした音を予想していた僕は完全に意表を突かれて、なんとも言えない温かい音に宇宙を浮遊しているかのような心地の良さを感じていた。サウンドとハーモニーは神秘的で神々しさすら感じられる。さらに自然と歌詞やリズムを覚えてしまっている民謡のような絶対的な浸透力をも、この楽曲は持っていると言える。また、歌詞はほんの8行ほどの文量で、何度もリピートされていく。規則的なそれが宇宙人からの交信のように思え、先述の宇宙を浮遊しているような感覚を覚えたのである。ハッと気付くとすでにすべてを聴き終えてしまっている。途中、サイケやテクノ、ダブ、土着的なサウンドなど、耳を凝らすと改めてそのさまざまなアプローチを見せた緻密さに驚く。飽きることなく聴かせる妙をもってして髭(HiGE)はこの作品を完成させていたのだ。やはり、とんでもない。ジャンルなど蛇足で、その音楽はまさに未知との遭遇と言えるほどだった。しかも再び最初から再生してみると、作品の終わりからまた違和感なく続けて聴けるような味わい深い構成になっている。では、最終的に彼らはこの作品で何をしたかったのだろうか。メンバーが言うには“遊びが高じてできた作品”ということらしいが、思うに、このメッセージを彼らの宇宙的世界観から、ひたすらリスナーに共鳴、共有させるべく投げかけたかったのではないだろうか。
今作のタイトルは“Electric”。おおよそ、そう聞くと“電気的なもの”を想像する人が多いだろう。だが、この単語には別の意味もある。それは“胸をときめかせる”や“興奮させる”といった意味だ。またしても僕は髭(HiGE)の作品にこれまでに感じてきた興奮を再び感じることとなってしまった。やはり“とんでもない”作品だったのである。
髭(HiGE) プロフィール

ヒゲ:5人組のツインギター、ツインドラム編成のロックバンド。2005年5月にミニアルバム『Thank you,Beatles』でメジャーデビュー。07年11月『Chaos in Apple』をリリースし、それを引っ提げたツアーも大成功に収めた。髭(HiGE)オフィシャルサイト

OKMusic編集部

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