取材:高橋美穂
愛は世の中にも、自分にも足りない
もともとTHE YELLOW MONKEYに憧れて音楽活動を始めたそうですが、今やってらっしゃるのはグラマラスなロックンロールとかと真逆のアコースティックなスタイルですよね?
はい。『JAM』の“この世界に真っ赤なジャムを塗って”って歌詞にすごく衝撃を受けたんですけど、あぁいう服装や化粧とかの見た目は吉井さんだからできるんだって最初から諦めがあって(苦笑)。でも、歌詞はこういうスタイルを自分もやりたいと思いましたね。あれだけ日本語を大事にしてる人って見たことがなかったから、最初は歌詞も歌い方も吉井さんの真似で(苦笑)。それから、バンドを組んでセッションしながら曲を作ってたんですけど、ふと行き詰まりを覚えたんです。“自分に言いたいことって何かあったのかな?”って。それでバンドも解散させてひとりでやり始めたんです。曲も、今までセッションで作ってきたんですけど、メロディーを後にして先に歌詞だけ書いてみようってなって。そうしたら悩んで1年近く曲ができなかったんですけど、やっとできたのが『春紫苑』なんです。そこで初めて、自分の歌詞のスタイルとしてOKなものが分かったんですね。
その、重要な転機となった「春紫苑」はラヴソングですけど、言いたいのは恋愛のことだった、って結論だったのですか?
いや、当時はむしろ真逆で、“ラヴソングなんか歌うか、この野郎!”って感じだったんです(笑)。でも歌詞の書き方を変えた時に、参考にいろんな人の歌詞を見たんですよ。その時にラヴソングって形でも好き嫌いだけじゃなく、他のことも伝えようとしてる曲もいっぱいあると気付いて、ラヴソングへの偏見が取れたんですね。それで挑戦の意味も含めて『春紫苑』を作ったんです。
あぁ、聴いてみて、恋愛のストーリーだけど、それより何処にでも咲いている春紫苑の美しさに気付ける幸せが大切だってことがテーマなんじゃないのかなって思いましたよ。
そうですね。そういう近くにさりげなくあるものが大切なんだっていう思いを伝えたかったんで。伝えるツールとしてラヴソングが適してるなら、それはそうなるっていう結果論ですね。
サウンドプロデューサーの深沼元昭さん(元PLAGUES、現Mellowhead、GHEEE)とはどんな作業をしましたか?
基本的には僕がアコギで弾き語ったものに、深沼さんが元になるアレンジをしてくださって、僕を含めスタッフが“あぁしたい、こうしたい”ってリクエストしてレコーディングするって感じです。深沼さんもバンドの中でヴォーカル&ギターっていう僕と同じ立場にいる人なんで、すごく理解してくれてると思います。
歌を重視されてる中で、曲へのこだわりってどんな部分ですか?
今まで、流行ってるものを取り入れたり、いろいろ試したけど、自分には合ってないのが分かって、結局、自然に出てくるものが一番いいなって。僕のメロディーって難しいものがないし、古臭いと思われることもあるんですよ。最近、面白いと思ったのが、僕が5歳とかの時に、親が武田鉄也さんの曲を聴いてたんですけど、その曲を久々に聴いたら、メロディーとか忘れてたのに、俺が今作ってる曲に似てたんです。それって無意識で自分の中に残ってて、それが今になって出てきてるからだと思って。だから、自分の中にあるものを濾過して素直に出せる技術を磨いていければいいんじゃないかなって。
一貫した歌いたいテーマってありますか?
それは、世の中に愛が足りないと思うから?
はい、世の中に足りないし自分にも足りないと思います。