「聴いた人を驚かせたい、ぶっ飛ばし
たい」 菅原卓郎が語る、9mm Parabe
llum Bulletの矜持



そうですね。自分達で作ったということを置いておいても、かなり完成度の高い1枚ができあがったと思います。これだけのものを作れるバンドはなかなかいないぞっていう。

――その手応えは作っている最中からあったんですか?

いえ、完成してから何回も聴いているうちに段々、そういう気持ちが強くなってきました。最初は単純に、「やった!いいのができた!」って思っていたんですけど、最終的に、これはすごいんじゃないか?って(笑)。作っている最中は、ただただ必死でした。とにかく1曲1曲、完成度の高いものにするんだってことだけしか考えてなかったです。

――その必死だったという気持ちは歌詞にも如実に表れていますね。

『BABEL』 をレコーディングしようと決めた時には、滝の腕の不調はわかっていましたからね。曲自体はすでに80曲ぐらいあったのかな。2016年の間に滝がかなりの数を作っていたので、いつでもアルバムを作れるぞという気持ちではあったんですけど、ツアーをキャンセルしたり、滝がライブ活動を休養したりしたうえで、どうやって作るんだ?っていう。滝を含む全員で最後にライブをした昨年11月5日の豊洲PITで「アルバムを出します」って宣言しているんで、その前には作るぞってことは決めてはいたんですけど、そこに至るまでは、自分達が今まで体験したことがないハードな状況ではあったので。ただ、だからこそアルバムを作ろう、今しかできないものをアルバムに込めるんだって……それは毎回、言っていることではあるんですけど、今回こそ、まさにそうだと思いました。そういう前段階があってのレコーディングだったんですよ。

――ファンの中には、ツアーはなんとかやり遂げたけど、滝さんの腕のことがあるから、「9mm大丈夫なのかな」って心配している人達も少なからずいたと思うんですけど、結果、アルバムができあがってみたら、「9mm全然大丈夫だ」ってアピールする作品になっていた。

うん、そうですね。まず誰もが「滝、めっちゃ弾いてんじゃん!」ってなるっていう(笑)。自分達も含め、少なくない人が不安に感じたと思うんですけど、滝はギター自体は演奏できるんですよ。ただ、どういうふうに症状が現れるのか把握できるものではないので、無理にステージに立って、途中で中断しなきゃいけないことになったら、僕らも滝自身も不本意なんです。そういう事情がわかったうえでも、「9mmもうダメなんじゃないか」とか、「もうライブ見ない」とか思う人は少なからずいたと思うんですけど、そういう人達に対して、「まぁ、聴いてごらんよ、このアルバムを」って(笑)。まず音楽は全然、衰えていないぞっていうところを見せたかったんですよ。それで安心してほしかった。

――ファンの間でも、「これを聴きたかった」「すごく9mmらしいアルバムだ」って評判になっていますが、さっき言っていた80曲から選曲する時には、多くの人が9mmらしいと思えるものを作りたいと考えたんですか?

9mmらしいものを作ろうとは考えてなかったです。……滝が一人で受けたインタビューで「『BABEL』でやっているようなことをやらないと、人を驚かせることはできないぞって思った」って言ってたんですよ。。それを読んだとき、まさにそういうところが9mmらしさなんじゃないかと思いました。初めて9mmの音楽に触れた時に、聴いた人は多かれ少なかれ驚いたと思うんですけど、それをもう一度味あわせたかったんです。音楽的な9mmらしさって、どんどん移り変わっても来ているし、1stアルバムでやっていたことが9mmらしいのかっていうと、必ずしもそういうわけではないし。ただ、聴いた人を驚かせたい、ぶっ飛ばしたいという気持ちだけはずっと変わらないんです。だから、今回は80曲ある中からヘヴィでダークなものだけ選んでアルバムを作ろうって考えてました。レコーディングは、そこを突き詰める作業でしたね。

――そういうアルバムを完成させたことで、16年にサポート・ギタリストを迎え、ツアーをやっていた時や、『BABEL』を作り始める時と現在では、みなさんの心境は当然変わったと思うんですけど、どんなふうに変わりましたか?

滝の腕の不調がわかって、ライブを休みましょうってなった時は、どうやって滝の穴を埋めるかを、全員が考えたんですけど、でも、滝の代わりはいないってことに割と早めに気づけたんですよ。それなら、別のやり方で今、自分達が置かれている状況を乗り越えると言うか、楽しめるようにしようよって。『BABEL』が完成したことで、よりそういうふうに思えるようになりましたね。完成するまでは、俺達どうなるんだろうってところがどうしてもつきまとうと言うか、そういう空気が漂っている気がしていたんですけど、できあがった作品が、作った自分達が頼りにしていいような完成度のものになったので、とても気が楽になりましたね。『TOUR OF BABEL』ではギターを2人、サポートに迎えてやるんですけど、2人入れたからといって滝と同じ感じになるってわけではなくて、むしろ別の、今まで9mmがやってきたことと違う表現としてライブをやればいいんだって思えるようになりました。

――なるほど。

『BABEL』を作っている時も今しかできないものを作ろうと思っていたんですけど、ツアーに関しても同じだなって。周りから見たらピンチに思えるようなところで、どうアイディアを出すかっていうのは、すごく頭も回転するし、クリエイティヴなことだと思います。ツアーのリハーサルを、昨日、一昨日とやっていたんですけど……おもしろいですよ(笑)。『BABEL』って、ホントにギター・プレイがいっぱい聴こえてくると思うんですけど、それをどうやってやるのかって、アルバムを聴いた人は感じると思うんですよね。どう再現するんだろうって。でも、今回は手段を選ばずにやります。今までの9mmなら、絶対やらなかっただろうっていうようなこともして、ライブを作り上げることにしました。たとえば、これまでだったらCDではアコースティック・ギターが入っていても、ライブでは入れられない。そういう「ライブバンドなんだから、CDとは違う方法で再現しよう」ってところを、今回は贅沢にやっちゃおうよって。アルバムで鳴っているギターは全部聴こえるようにしたいという考えで、今、作っていますね。そのためにサポートが2人いるわけだから。

9mm Parabellum Bullet



――9mmってサポートを入れること自体これまであまりなかったじゃないですか。だから、滝さんがいることがベストではあるんだけれども、滝さんの代わりにサポートを迎えることが、メンバーにしてみたらプレイヤーとして新しい刺激になっているところもあるんじゃないですか?

そうですね。今までだったら、「わかるでしょ?」で済むようなことでも、サポート・メンバーはわからないから、そこはこちらから働き掛けないといけないですからね。武田将幸君(HERE)は元々、9mmが好きで、ファンをバンドに入れたって言えるぐらい9mm好きなんですけど、だからってバンドの演奏までわかっているかって言ったら、そういうわけではない。ライブで演奏するバンドとして新しいメンバーが入ったら、一から作り直さなきゃいけないわけだから、自然とやらなきゃいけないことも増えるんで、確かにクリエイティヴなところが引き出されますよね。でも、やっぱり一番大変なのは、滝のギターをプレイするサポートの2人なのかな(笑)。

――2人にはどんなリクエストをしているんですか?

幸い、9mmはアルバムを出すたびにバンド・スコアを作っていたんで、「とりあえずスコアのここを弾いてください」って(笑)。あとは、やっぱり9mmっぽいサウンドにしたいんで、「このギターで弾いてみて」とか、ギターのエフェクトの感じが変わるとちょっと違っちゃうから、「ここではこのエフェクターを必ずかけて」とかってリクエストはしていますね。

――16年にサポート・ギタリストを迎え、ツアーをやり遂げたことで、ベストとは言えないまでも、今後のライブのやり方として一つの道筋が見えたわけですから、今回は安心してツアーに臨めると言うか、楽しめるところはあるんじゃないですか?

サポートを2人、入れてやるライブをずっと続けるかどうかはわからないんです。ただ、『TOUR OF BABEL』に関しては、不安は全然なくて、どう楽しもうかなって気持ちになっていますね。聴いた人を驚かせたいとか、こんな音楽あるんだって思わせたいとかっていうアルバムを作った時の気持ちを、ライブでも体験してほしい。そこに迷わず取り組めていますね。ライブでやるからには、やっぱりアルバム以上にしたいし、ライブではこうなるんだって思わせたいし。

――『TOUR OF BABEL』では、アルバムの10曲は――

やりますよ。今までも割とアルバムをリリースしたら、律儀にアルバムの全曲をセットリストに入れてツアーをしてきたバンドなんで、9mmは。それに今回はコンパクトに10曲ってところもありますしね。

――これはライブで、ぜひ聴いてほしいっていう曲はありますか?

いや、『BABEL』は、もう全曲ヤバいですよ。ホントに。ホントにヤバいです(笑)。すっごいおもしろいと思う。しかも、今回は(メンバーの)立ち位置が今までと違うんですよ。普段だったら滝がいる上手に、あのバカでかいドラム・セットがどーんと来る。サポートの2人は、俺ら3人の後ろにいるんですけど、一目でこの3人が正規メンバーだってことがでわかるようにしたいぞっていう。(中村)和彦(B)も、かみじょう(ちひろ/Dr)君もパッと見るだけで、常に全員を見ることができる位置になるんで、今までよりもアイコンクトと言うか、演奏中の意思の疎通が取りやすいんじゃないかな。ギターもツイン・ギターどころか3本なんで、それだけでもかなりおもしろいと思います。……そうそう、武田君は9mm MOBILE会員なんですよ。月額300円払っている(笑)。9mmが好きすぎるがゆえに「9mmはこうでなきゃ」っていう気持ちも強いから、そこはもっと自由でいいし、武田君らしいところも見たいってところもあるし。俺達3人が前に出ることで、後ろにいるサポートの2人は自由にできると言うか、自由な気持ちでいられる割合が増えるんじゃないかなとも思って。武田君ともう2人、武田君と同じHEREの三橋隼人君(名古屋公演)とfolcaの為川裕也君(横浜&神戸公演)もサポートしてくれるんですけど、みんな9mmをリスペクトしてくれてるから、気負いもあるんですけど、俺らの背中を見てれば大丈夫だよってできたらいいですね。

――folcaの為川さんはどんなつながりで?

今回、ツアーをやるにあたって、何人かのギタリストに俺らと一緒に演奏してもらったんですよ。昭和女子大学人見記念講堂でやる7月2日の『TOUR OF BABEL II』では石毛(輝)君がスペシャル・ゲストで来てくれるんですけど、石毛君と演奏してみたら、あまりにも石毛君すぎて(笑)。最高なんですけど、最高すぎるから、ゲストとして来てもらおうと思いました。そんなことも含め、何人かとやった中で、いろいろな面白さがあったんですよ。全員、素晴らしくて、来てくれたギタリストの方々に俺達が「最高ですね」って言うだけの集まりになっちゃったんですけど(笑)、裕也と三橋君はそもそも武田君の推薦枠だったんです。「こいつらきっと合います」って武田君が言うから、それならと思って、実際にやってみたら、9mmへの馴染み方が良くて。しかも裕也は俺に似ている。何がって、顔なんですけど(笑)。

――これは聞いちゃいけない質問なのかもしれないですけど、9mmに憧れている若いバンドマンっていっぱいいるじゃないですか。そういう子達が今後、9mmのサポート・ギタリストになれる可能性もあるんですか?

それは全然ありますよ。アイディアとしてはありなんじゃないかな。今、24、5歳ぐらいのバンドマンに会うと、「9mmすごく好きなんです」って言ってもらえることが多くて。この間、go!go!vanillasと対バンした時にも、ギターの柳沢進太郎が9mmのリハを見ながら、俺らがやっている曲をずっと弾いているんですよ。それを見て、「あ、あいつ弾けるんだ」「慣らしておいてね」って思いました(笑)。常にそういうところに目を光らせるようになっているかもしれない。「9mm好きだ」って言ってるなら、言うことを聞くかなって(笑)。

――じゃあ、希望者はどんどんアピールしたほうがいいですね(笑)。

そうですね。ただ滝先生は相当、厳しいんで(笑)。

――ところで、『BABEL』のツアーが7年ぶりのホール・ツアーになったのは、どんな理由からだったんですか?

ものすごく完成度の高いアルバムだから、その再現性も高めたいと思ったんですよ。もちろん、再現すると同時にさらにその向こうってことなんですけど、そういうことをやるならライブハウスではなくて、ホールで鳴らしたほうがいいんじゃないかってことになったんです。サポート・ギタリストが2人いるし、ドラム・セットの配置も今までと違うっていう見せ方も含め、アルバムの世界観を見せるためには、やっぱりホールだろうとなりました。その意味では、自分達で作ったものにもかかわらず、相当、手強いですけど、でも、いいライブになるっていうことがリハーサルしながら確信できました。それこそ(バベルの塔のように)塔を作るみたいな、建築物を作るみたいな感じで、でっかいものを出現させようっていうふうに思いますね。

――ファンならぜひ見ておきたいですね。

絶対、見たほうがいいですよ。今回は横浜、神戸、名古屋の3本なんで、もっといろいろな場所でやりたいんですけど、こういうスタイルでやることが初めてだから、まずはこの3本を、どこまで高められるかやってみたいんですよ。それがうまくいけば、いろいろなところでできるじゃんって自分達も確信できるだろうし。

――そして、『TOUR OF BABEL』の後は『SORO SORO SOLO TOUR』と題した菅原さんのソロ・ツアー、そしてTHE BACK HORN、Nothing’s Carved In Stoneと対バンするスリーマン・ツアー『Pyramid ACT』と続くわけですが。

『TOUR OF BABEL』の後にどうなるかは、『TOUR OF BABEL』でどれくらい自分達が思ったようなライブができるか次第だと思っています。4本のライブでバンドをどれぐらい違うレベルに持っていけるか。対バンにしろ、フェスにしろ、ツアー以降のライブで9mmは今、こういう形で乗り越えようとしている、サヴァイヴしようとしてやっているんだなって感じてもらえるように、できるだけその前の段階である『TOUR OF BABEL』を強いものにしたいと思っています。そこから先のことは、ホント、それからですね。まずは『TOUR OF BABEL』をやり遂げるっていう。

――サヴァイヴとおっしゃいましたけど、楽しんでいると言いながら、やはりそういう気持ちもあるわけですね。

滝の腕の不調が出たとき、活動を休止するのか、解散するのかっていろいろな話が出たんですけど、長いスパンで見たら、ほんの1年のことかもしれないし、3年続いたとしても、3年後に滝がライブに戻ってきたら、「たった3年じゃん」って振り返るられると思うんですよ。自分がやりたいのは、まさにそれで、そういうふうに考えたら、どんなことでも大体、乗り越えられるんじゃないか。これは長い期間の中のほんの一瞬のことでしたって思えるんじゃないかって。もっとも、大変だってことには変わりはないんですけど(笑)。……Dragon AshのKJもインタビューで言っていたんですよ。「20年続けるには、20年やるしか方法はない」って。まさにそうだよなって思いました。20年続けるには、ただボーっとしているだけでは無理じゃないですか。ボーっとしていても、「20年やりました」って言えるには言えるかもしれないけど、それでいいのか?って思いますしね。だから、死に物狂いな部分っていうのは、常に持っていたいんですよね。

取材・文=山口智男

ツアー情報9mm Parabellum Bullet "TOUR OF BABEL"
6月11日(日) 神奈川県民ホール 大ホール [横浜]
6月18日(日) 神戸国際会館こくさいホール [神戸]
6月25日(日) 日本特殊陶業市民会館(ビレッジホール) [名古屋]
【横浜/神戸/名古屋公演】
全席指定5,800円(税込)
チケット発売中

オフィシャルモバイサイト[9mm MOBILE]会員限定ライブ
9mm Parabellum Bullet"TOUR OF BABEL II"
7月2日 (日) 昭和女子大学人見記念講堂 [東京]
※チケットSOLD OUT 
リリース情報7th Album『BABEL』
2017.5.10 Release『BABEL』

[CD]
1.ロング・グッドバイ
2.Story of Glory
3.I.C.R.A
4.ガラスの街のアリス
5.眠り姫
6.火の鳥
7.Everyone is fighting on this stage of lonely
8.バベルのこどもたち
9.ホワイトアウト
10.それから
[DVD]
・「TOUR 2016 “太陽が欲しいだけ”」 16.11.05 At 豊洲PIT
1.太陽が欲しいだけ
2.Discommunication
3.モーニングベル
4.インフェルノ
5.ロンリーボーイ
6.スタンドバイミー
7.反逆のマーチ
8.Lost!!
9.The Revolutionary
10.生命のワルツ
11.Talking Machine
・ボーナストラック「BABEL」レコーディングドキュメンタリー

[スコアブック]
メンバー監修「BABEL」バンドスコア【初回限定盤 Special Edition】CD+DVD+スコアブック/COZP-1326~8/¥6,481+税
【初回限定盤】CD+DVD/COZP-1308~9/¥3,333+税
【通常盤】CDのみ/COCP-39909/¥2,593+税
【アナログ盤】LP+ダウンロードカード/COZA-1320~1/¥3,333+税
※収録内容はCDと同様
■「BABEL」スペシャルサイト
http://9mm.jp/7th_album
9th Single「サクリファイス」
2017.06.07 Release「サクリファイス」

[収録曲]
1.サクリファイス(TVアニメ「ベルセルク」第2期オープニングテーマ)
2.午後の鳥籠
3.インフェルノ Live Track From TOUR 2016 ”太陽が欲しいだけ”16.10.30 at Zepp Namba
CD:GNCA-0498 ¥1,500+税

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