クラブ・ALZARのオープニングイベン
ト『YOUAREHERE』に見る大阪クラブシ
ーンの未来



一般的に大阪道頓堀にあるニュージャパンビルと言えば、真っ先に思い浮かぶのはサウナ&スパ及び、カプセルホテルとしての顔かもしれない。しかし、大阪のクラブミュージック界隈では少しその印象は異なる――2014年に同ビル7階にオープンしたROOFTOP BAR OO(ルーフトップバー「ウー」)で、国内外のアーティストを招いてのイベントを開催してきたからである。オープンエアのルーフトップにはプールとステージが設けられ、多くの人々が楽しんでいた。ところが法律上の規定に合わないとの指導を受けて、現在はイベント運営を自粛している。それとは別で、オープンエア故の天候によるリスクのあるルーフトップバーだけでなく8階屋内部分にクラブを新設するという噂話が聞こえてきたのが2016年の初旬だったと記憶している。それは2016年6月23日(木)に終夜営業を認める改正風俗営業法が施行されたタイミングでのオープンを狙ってのことだった。

しかし、待てど暮らせど新店がオープンすることはなかった。オープンについて幾つかのタイミングが噂されては消え、噂されては消えといった状態に、“本当にオープンするのだろうか?”との声も上がっていた。実際には工事自体の遅れと、適正な許認可の取得を行う為の延期であったのだ。そして2017年5月5日(金)に“ALZAR(アルザル)”と名付けられた新店が、ようやく正式オープンとなった。

オープン前のサウンドチェックにも余念がない 撮影=senda

それだけの時間をかけてきただけに、ALZAR(アルザル)のこだわりは強い。内装の圧倒的な世界観は、ベルリンの音楽史を語る上で欠かせないクラブTresor(トレゾア)を彷彿とさせる。トレゾアとはドイツ語で金庫を意味し、ベルリンの壁崩壊から間もない1991年に、廃墟となっていたデパートの地下金庫にオープンしたクラブだ。ALZAR(アルザル)のDJブースには鉄格子がはまっている。またサウンド面のこだわりも強く、音響システムデザイナーのHIRANYA ACCESS代表・藤田晃司氏による施工で、位相をうまく使ったローボックスの配置等、計算し尽くされたサウンドデザインになっている。一つのサウンドシステムで、二つの空間(メインフロアとチルスペース)を作り上げ、横方向に長いフロアの弱点を克服することにも成功している。そして、クラブとしてもっとも重要であるコンテンツ面のこだわりは、ジャンルをテクノとハウスに絞ったことだ。金曜日には海外アーティストを軸に良質なパーティーを開催し、土曜日には関西圏で活躍中の5名のレジデンツDJによるプロデュースで一晩を飾る予定だという。

ASHIKAGA 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)

23時。オープンを待ちきれず列を成していたお客さんたちが、続々と入場しはじめる。オープンDJのASHIKAGAは、これから始まる夜の盛り上がりを期待させるには十分なDJで、徐々にビルドアップしていくサウンドで自然と観客をフロアに誘導していた。

ALZAR(アルザル)のブッキングと広報も担当しているTORU IKEMOTO 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)

続くTORU IKEMOTOは、自身のトラックのみで構成されたライブを展開した。彼の紡ぎ出す芯の通った重さと抜けのいいサウンドにALZAR(アルザル)のサウンドシステムはマッチしていた。この頃には、既にフロアの盛り上がりも十分だ。『YOUAREHERE』ファンも多数駆けつけているようだった。

YOUAREHERE 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)

ちなみに『YOUAREHERE』は、NAO NOMURA、JUNICHI KUWATA、TORU IKEMOTOの3人のメンバーによって、今は亡き心斎橋のクラブ・オンジェムで立ち上げたテクノパーティーだ。これまでにガイザー、ドゼム、タイガーストライプス、ツーサウザンドワン、ダニーデイズ、HITO、サトシ・トミイエ、ナスティアという世界のトップランカーを迎え開催し続けている。オンジェム閉店後は自らをモバイルパーティーとして定義し、ROOFTOP BAR OO(ウー)、JOULE、ZAKUROといった様々な場所で不定期にイベントを開催している。

NAO NOMURA 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)

その『YOUAREHERE』を牽引するNAO NOMURAがDJを始めると、フロアの温度が上昇した。旬なテクノサウンドを投下し続けることで、観客の足が止まることはなかった。重さと軽さの絶妙なバランスで、実に艶めかしい音色を奏で続ける彼のDJにファンが多いのも頷ける。

マシュー・ディア 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)

そして、この日のゲストDJであるマシュー・ディアが登場し、フロアが、ひときわ盛り上がる。彼はデトロイトを拠点に活躍する鬼才にして、テクノシーンのみならずハウスシーンにおいても大ヒットを連発している稀代のDJ・プロデューサーだ。そんな彼の2時間のDJセットを堪能できるということで多くの観客が集まった。それも、実に6年ぶりとなる貴重な来日公演ということで、ファンならずとも注目のセットだった。序盤はテクノ的なアプローチでじっくりと躍らせる。1時間経った頃にはハウス的なアプローチにシフトし、開放的に躍らせ、最後にまたテクノに戻ってくるといった具合にフロアを飽きさせることのないDJだった。

鉄格子にかぶりつきな観客 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)

終演後、マシュー・ディアはALZAR(アルザル)について、「音も雰囲気も良い感じだね!」と語っていた。その言葉通り、会場全体の音が非常にバランス良く鳴っており、ブース前は無心で音に浸れるし、バーカウンター側は少しボリュームを抑えつつも綺麗に音が届いている。友人との会話も大声を張る必要がないし、耳が痛くなる事もない。それ故に観客の表情は皆一様に笑顔だった。

JUNICHI KUWATA 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)

マシュー・ディアに続いて『YOUAREHERE』の最後を締めくくるべくJUNICHI KUWATAがブースに登場した。最後まで踊り続ける観客と共に、パーティーの終わりを感じさせないDJが続いた。いつまでもこのまま続いていくのではないかと錯覚させる音だったが、無情にも終焉の時間は訪れた。

『YOUAREHERE』を楽しんだ観客 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)

最後までパーティーを楽しんだ彼女たちも「内装がかっこいい」「音がいい」「外国のクラブのような雰囲気で新鮮」「音楽好きな人が沢山集まる場所になって欲しい」「みんなが遊びに行きたくなる遊び場として機能して欲しい」「非日常的な雰囲気の中、ストイックに音を感じることができて気持ち良かった」など口を揃えていた。残念なことが1つあるとすれば一部電源トラブルもあったことだ。これは、次回以降には改善されていることだろう。

オーナーの中野氏とマシュー・ディア 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)

終了後、オーナー中野氏に話を伺った。中野氏は大学時代にロンドンのクラブシーンを体感し、その圧倒的な重低音に魅了されたという。そしてROOFTOP BAR OO(ウー)を立ち上げ、音楽やイベントとの関わりが強くなったことで、改めて当時のクラブシーンへの憧れを思い出し、それを具現化したのがALZAR(アルザル)だという。中野氏自身がクラブに遊びに行く際には、洗練された音、カオスな空間、それに集う人々。それらが一体となった瞬間に良いクラブに来たと感じるのだという。ALZAR(アルザル)もそういったクラブを目指しているとのことだ。

終了後に記念撮影 撮影=HALKI KITAJIMA

モバイルパーティーとして『YOUAREHERE』が見せてくれる景色は、いつも新鮮だ。今後も場所を問わず様々な会場とコラボしていく予定だという。それは、彼らが皆に紹介したい最新の音楽を最大限表現するための選択なのだろう。そして、その開かれたスタンスだからこそ『YOUAREHERE』には人が集い、愛されているのだ。場所もしがらみも関係なく、全ての人々を巻き込んで開催されるオープンマインドなパーティーとして、今後も大阪のクラブシーンを盛り上げてくれることだろう。ALZAR(アルザル)もまた、多くの感動と文化を生み出す場所として、人々に愛されていくことを願っている。

取材・文=senda 撮影=Jun Izumi (desidistech / SiiNE)、HALKI KITAJIMA

イベント情報YOUAREHERE
日時:2017年5月5日(金)
会場:ALZAR
出演者:Matthew Dear (Ghostly International, Spectral Sound / US) / NAO NOMURA (BASS WORKS RECOEDINGS) / Junichi Kuwata / Toru Ikemoto (SiiNE) / ASHIKAGA

ALZAR official HP https://alzar.jp/

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