「満たされたい」のに「終わってたり
」? Mrs. GREEN APPLEが描き出す「
うブ」で大人びた愛への眼差し

でも正直、それ、件の少年少女達にとっては迷惑なんじゃないだろうか。

若くしてデビューしたミュージシャンやバンドは数おれど、昨今の音楽シーンで天才子役のような存在と言えばやっぱりMrs. GREEN APPLEだろう。
ギターロックを軸としながらもそれに固執せず、UKのインディーポップやテクノなども取り入れたバリエーション豊かなサウンドと昨年二十歳になったばかりのボーカル大森元貴によるメッセージ性の高い詩的な歌詞が印象的な彼等は、平均年齢約22歳と言う若さから、ジュブナイル的な爽やかでポップなイメージが強い楽曲が多い。邦ロックリスナーの間でもそんな印象を持っている人がやはり多いようだが、今年一月にリリースされたアルバム『Mrs.GREEN APPLE』には、そんなイメージを真っ向から覆す楽曲が収録されている。
『うブ』だ。



この曲は、普段はあまり前面には押し出されないテクノ風のキツいシンセサイザーが印象的なイントロから始まる。幅広い声域と美しいヴィブラートが特徴的な大森元貴のボーカルにもオートチューンが強くかけられ、ボーカロイドのような無機質な質感だ。
冒頭からミセスのいつものイメージからはかけ離れた要素が詰め込まれているが、その歌詞も更に異質。



大森の哲学的思想を軸として普遍的で優しい言葉が選ばれたメッセージソングが多い中、この曲の歌詞はとてもトガッていて大人っぽい。エロチックな恋の駆け引きのイメージすら想起されるが、描かれるテーマは今時の少年少女達が置かれている世相への剥き出しの皮肉だ。

最近じゃ、恋愛に限らず人付き合いもすべてネット上などで成立してしまうのが当然になっている。ちょっとでも不用意な口を利けば一般人も芸能人も片っ端から炎上するし、仕方ないから「嫌味じゃ無い様に」当たり障りなく付き合うしかない。
せっかく望んだ相手とお近づきになれても、「戸惑いが焦らしたり」しているうちに本音を見せ合える機会を失い、「のらりくらり」と消滅してしまう関係性の方が多かったりする。



私達は誰もが淋しさを抱えていて、どんなにひとりが好きな人でもついつい人との繋がりを求めてしまう。満たされたいなら「上辺じゃない様に」その人と心の底からかかわっていかなければいけないのに、きっと私達はそれが怖いのだ。他人に深入りする、される事を恐れ、ただただ上辺の付き合いを今日も続ける。
でも、それだけじゃ、悲しい事だけど、気がついた時には全て、「終わって」いるのだ。



うっかりマジになるだけで笑われてしまう今時の風潮では、自分の身を守るために予防線として「irony(皮肉)」を口にし、のらりくらりとかわしてしまうのが癖になっている人も多い。そうしているうちに、満たされないまま終わってしまう関係があるのだ。

作詞を手がけた大森は、まだまだ二十歳の男の子。言わば曲中で皮肉られる若者側なのだが、選ばれる言葉の端々に、彼だからこその生々しさが滲み出している。



これは二番のメロ部分の一節だが、一見何のことやらわからない不思議な言葉遊びにもSNSを使いこなす今時の若者らしさが見える。
「鳥」と書いて「つぶやき」と読ませる所以は、おそらくツイッターのロゴマークの青い鳥。
ネット上で顔の見えないオトモダチをどれだけたくさん作れるか、と言う事にしか楽しみを見いだせない、広く浅い付き合いしか出来ない若者達は、きっとミセスのファンである中高生にもたくさんいるだろうと思う。下手をすれば彼らに嫌われてしまいかねないのに、大森は敢えて暴力的なまでの言葉で彼らに向かって「童(がき)に用は無い」と吐き捨てるのだ。
その若々しさとはアンバランスな程の冷徹な眼差しは、無機質なオートチューンボーカルとも相まって不思議な迫力すら感じてぞくっとさせられる。

タイトルの『うブ』と言う造語は「ラブ」に見えると言うことからつけられたらしい。この事から、この曲は人との繋がりや愛に関する事を描いた歌である事がわかる。
彼の綴る詞世界を味わうと、今時の少年少女はオトナが「うブ」で何も知らないと決めつけているだけで、希薄になりつつある現代の「愛」のカタチと、思いの外冷静な眼差しで真面目に向き合っているのかもしれないと思えてくる。

UtaTen

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