やり直し効かないのが人生、井上苑子
 SNSで支持集める若き音楽家

若い世代を中心に人気を集めるシンガーソングライターの井上苑子

 SNSなどを通じて若者から絶大な人気を集めるシンガーソングライターの井上苑子(19)が12日に、通算4枚目となるシングル「メッセージ」をリリースする。表題曲は映画『ReLIFEリライフ』主題歌で、歌詞は劇中の登場人物の気持ちを重ねている。カップリングにはテレビCM曲としても話題を集めている、槇原敬之「どんなときも。」のカバーを収録。同曲については「私らしさがありながら、強い意志の感じられるものになった」と語っている。兵庫県神戸出身。小学生の頃からライブをおこない、2015年にメジャーデビュー。同世代を中心に支持を集める彼女が今、メッセージを贈りたい相手とは?

最近会っていない父親にメッセージを贈りたい

――「メッセージ」は、4月15日から公開の映画『ReLIFEリライフ』の主題歌。井上さんは、もともと原作コミックのファンだったそうですね。

 はい。めっちゃファンでした。アプリ「comico」で読んでハマってしまって、「これは本当に面白いから読んだほうが良いよ!」って、友だちに薦めていたところに、マネージャーさんから『ReLIFEリライフ』主題歌のお話を聞いて。「え?」って、聞き間違いかと思うくらい驚きました。

――それほど大好きな作品の主題歌を担当するのは、うれしいですね。

 映画主題歌を担当させていただくこと自体初めてでうれしいのに、それが自分の好きな作品ですから、うれしさも倍増です。昨年のワンマンライブでみなさんにご報告させていただいたときは、「みんなも絶対喜んでくれるだろうな」って思って、ワクワクしながら発表出来たので、自分自身もすごくうれしくて楽しくて。とても良い経験をさせていただきました。

――「メッセージ」は、そんな映画『ReLIFEリライフ』のどういう部分をフィーチャーして書こうと?

 主人公は、人生を上手くやれていないニートで、突然現れた人から10年前に戻れる薬をもらって、高校生をやり直すというお話です。主人公は、最初は適当に学校生活をやり過ごそうとするんですが、他の生徒と関わりながら、徐々に気持ちが前向きに変わっていくんですね。私は、その様子にすごく感動して、自分の人生をもっとちゃんと生きなきゃ後悔しちゃうなって思ったんです。そういうことを考えながら、曲を作りました。

――歌詞の気持ちとしては、主人公に恋をしている日代千鶴の方ですか?

 はい。原作を知っているファンの方からは、「めっちゃヒシロン(日代の愛称)だね」って言っていただけました。

――千鶴は、コミュ障と言うか。笑顔がヘタなんですよね。

 そうそう。それで、同級生の狩生(玲奈)さんを誤解させて、ひと波乱あったりとか(笑)。日代さんは、人と話すのも得意じゃなくて。歌詞の通り、気持ちを言葉にするのが上手じゃない女の子なんです。それでも頑張っている健気な感じがあって、そこが見守ってあげたくなる感じで。マンガを読んでいて、全然自分とは違うのに、分かるな〜と思う部分もあったりしたんです。

――井上さんは、反対の性格のような気がしますけど、どういうところに共感を?

 日代さんは、自分の気持ちに蓋(ふた)をしてしまうところがあって。私は、気持ちを言葉にするのは苦手ではないけど、自分の気持ちに嘘を付いてずっと何もせずに生きている姿が、何だか分かるなって。私は勇気を出して一歩を踏み出せたから今の私があるんですけど、そこに至るまでの消費カロリーは、やっぱりものすごいんです。

 きっと日代さんは、まだその勇気を出してないだけなんだろうなって。そういう部分で、過去の自分と通じるものを感じたので、そのことを歌詞にしたいと思って。それで、自分自身に言い聞かせながら、同時にいろんな人の背中を押してあげられる曲になったら良いなと思いました。

――井上さんの同世代には、その一歩を踏み出す勇気が持てない子って、けっこう多かったり?

 すごく多いです。言いたいことがあっても直接言わずに、告白もLINEでやったりとか。そういうのって、すごくもったいなって、原作コミックを読んで思いました。SNSを使うことが悪いわけではないけど、気持ちを直接言葉にして伝えることの大事さも忘れないで欲しいということが、今のこの時代を生きているみんなに伝われば良いなと思います。

――「メッセージ」というタイトルですが、今誰にどんなメッセージを伝えたいですか?

 父が単身赴任で地方に行っているので、なかなか会って話す機会がなくて。「ありがとう」とか、直接伝えたこともないので、そういう気持ちを伝えたいですね。

 メールやLINEはよく来るんです。「職場の人が、お前のことを知ってたよ」とか。そういう報告みたいなのばっかりで、自分のこととか気持ちを書くことはなくて。

――たまに会ったときは、どんな感じになるんですか?

 母とは友だちみたいな関係で、素で何でも話せるので、いつも気持ちを言葉にして伝えているんですけど…。父親とか兄とかだと、素で言うのが照れくさくて。いつも、若干ムッとしながらで話しちゃうんですよね(笑)。だからこそと言うか。いつもムッとしてるけど、本当に感謝しているんだよって。

――今度は、素直に伝えましょうね。

 ああ〜〜。これを読んでくれれば良いかな(笑)。

槇原敬之さんのCDを昔よくレンタルしていた

井上苑子「メッセージ」

――カップリングでは、槇原敬之さんの「どんなときも。」をカバー。これは、スマホ「Galaxy S7 edge」シリーズのCMで流れていて話題の曲ですね。

 すごくたくさん流れていて。家でテレビを見ていると急に流れたりするので、「え!」って驚きます(笑)。

 最近は、リリースイベントとして各地で歌わせていただくことが多いのですが、「どんなときも。」を歌うと、いろんな世代の方が足を止めてくれます。お父さん世代の方とかが後ろのほうで、「誰が歌っているんだ?」みたいな感じで見てくださっていたり、小さいお子さんがお母さんに「CMの曲だよ」って言っているのが聞こえたりして。改めてテレビの影響力はすごいなって。

 この曲は…CMのストーリーが、主人公の女の子が上京するときに想いを伝えて、写真を撮ってメッセージと共に送るみたいな感じで。この曲の歌詞が、そのストーリーとぴったりなんです。たとえば<旅立つ僕の為に>という歌詞があるんですけど、それを「旅立つ彼女のために」と置き換えることが出来たりという。私が歌うことによって、女の子が主人公の歌に出来たんじゃないかって思います。

――昔の曲だけど、色褪せてなくて。井上さんが歌うことで、今の世代のリアルな曲になっている気がしました。

 ありがとうございます。今の季節というのにもぴったりだし。私の周りでも、地元を離れたり、何かから卒業する子がいて。世の中的には、新しいことを始めるという方もいるでしょうし。そういう人たちにとって、心に刺さる曲に出来たんじゃないかって思います。

――ピアノと歌だけというアレンジも新鮮で胸に響きました。

 はい。実は今、ピアノの練習中です。まだまったく弾けませんけど、いつかはライブで、ピアノの弾き語りも良いかなって思っています。ただ、このペースだと10年後くらいになりそうです(笑)。

――原曲とは違う魅力という部分では、どんな風に感情を乗せましたか?

 歌って、ちょっとした感情の動きで、まったく変わってしまうものなんですね。だから、曲を通してどういう感情で歌っているのか、じっくり聴いてほしいです。

 私の場合は、いろんな気持ちをストックしておいて、そこからいくつもアプローチして試していって、最後に全部聴いていちばん良かったものを選んで行くというやり方です。CMの主人公の気持ちを想像したり、ちょっと心の強さを持った人の気持ちになってみたり。

 かと思えば、子どもっぽいと言うか幼い設定にして、そういう人もきっといると思って、想像して歌ってみたり。結果、これは井上苑子らしさみたいなところなんですけど、かわいらしくフワッとしたところを残しつつ、でもどこかで強い何か意志の感じられるような歌になったと思います。

――井上さんが生まれる前(1991年)の曲ですけど、知っていましたか?

 何で知っているのか分からないんですけど、知っていましたね。それに槇原さんの曲は、昔からよくCDをレンタルして聴いていたんです。

――槇原さんの曲は、どういうところが好きですか?

 いちばんは、歌詞です。特に「遠く」の歌詞が好きで。故郷を離れて上京した人の気持ちを歌っているのですが、本当にストレートな歌詞で。きっと槇原さんご自身の体験なのかな?って思うんですけど、誰もが共感出来る部分がたくさん詰め込まれていると思います。

 でも「外苑の桜は咲き乱れ」という、すごくピンポイントのフレーズもあって。外苑に行ったことがない人でも、絵を想像することが出来る。そういう力が、ある曲だと思います。それは、槇原さんにしか表現出来ないものだなと思います。

やり直しがきかない人生だから、日々を精一杯生きたい

――カップリングには「おはよう」という曲を収録。これはポップで明るくて、“井上苑子”節といった感じ。

 聴いてくれるみんなが、手拍子をしながらノってくれるのが、私自身歌っていて楽しいので、そういう曲をもっと作って行きたい気持ちがありつつ。「メッセージ」はアップテンポでノリノリなので、「おはよう」は、いつどんなときに聴いても、そのときの気持ちやシチュエーションに合う曲になったらいいなと思って作りました。少しスキップしている感じの曲になったと思います。

――朝聴くと、仕事に行くのが楽しみになります。

 お仕事をされている方は、そういう気持ちで聴いていただけたらうれしいです。学生の方は、学校に行くときに聴いてもらえたら。お昼に起きる方には、ちょっとアレかもしれないですけど(笑)。

――ボーナストラックには、映画『ReLIFEリライフ』のエンディングテーマでもある、ケツメイシの「さくら」をカバーして収録。「井上苑子と海崎新太」名義で、新太役の中川大志さんがラップを担当していて。

 これは主人公の新太が、実際に高校生だった時代に流行っていた曲ということで選ばれていて。映画の季節感とも合っていて、若い子でも知っている有名な曲なので、いろんな世代の人に楽しんでもらえると思います。

――楽曲自体は2005年のヒット曲ですが、思い出があったり?

 私が8歳のときですけど、超聴いていましたよ。MVに鈴木えみさんが出ていらっしゃって、私は鈴木えみさんが大好きだったので、MVから入った感じでした。それ以降、カラオケでめっちゃ歌う曲になっていて。

 高校生のときは、MVがそのまま流れるカラオケで、映像を見ながら「えみちーかわいい〜!」って友だちとしゃべっていたことを覚えています。

 原曲とは違うしっとりとした曲調で、自分らしさを出せたんじゃないかと思います。ボーナスストラックに収録しているので、ぜひ聴いてください!

――最後に『ReLIFEリライフ』ということで、タイトルに引っかけて、高校生に戻ってやり直したいことはありますか?

 自分の性格は自分がよく分かっているので、高校生に戻ったとしても、きっと変わらないなって思うところもあって。結局繰り返すんじゃないかって。

――それは、『ReLIFEリライフ』のしがいがないですね。

 そうそう(笑)。私自身としては、基本的に後悔がないようにと思って日々を過ごしているので、そもそも『ReLIFEリライフ』する必要ないというか。

 それに、万が一、『ReLIFEリライフ』して、『ReLIFEリライフ』した人生のほうが上手くいったら、私はそのほうがショックだと思うんです。精一杯生きてきた、これまでの自分の人生を否定することになると言うか。

 今の自分に自信をなくしてしまうんじゃないかなって。やり直しがきかないのが人生、だからこそ、日々を精一杯生きて行きたいです!

(取材=榑林史章)

 ◆井上苑子 1997年12月11日生まれ、兵庫県出身。小学6年生のときから大阪で路上ライブを行うようになり、LINEなどのSNS、ツイキャスなどの動画サービスで中高生の女子を中心に人気を得て、17歳のときにミニアルバム『#17』でメジャーデビューし、現役女子高生シンガーソングライターとして話題を集める。映画『私たちのハァハァ』に主演の一人として出演する他、「ナツコイ」が「アキュビュー」CMソングに抜擢されるなど、多方面で活躍している。

ライブ情報

「井上苑子春ツアー2017いぬうえ幼稚園入園式 ともだち100人できるかな」
4月16日(日)愛知・Zepp Nagoya
4月26日(水)東京・中野サンプラザ

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