カルテット主題歌「おとなの掟」に見
るヒット曲の新たな傾向

松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平による番組限定ユニット、Doughnuts Hole

 女優の松たか子、満島ひかり、俳優の松田龍平、高橋一生の4人からなる「Doughnuts Hole(ドーナッツ・ホール)」が歌う「おとなの掟」が、昨年ヒットした、桐谷健太扮する浦島太郎の「海の声」、そして、星野源が歌う「恋」に次ぐ、新しいヒットのかたちを示している。音楽の受容形態が変化しつつある今、ヒット曲にも新たな傾向のようなものが、浮かび上がってきている。

椎名林檎と斎藤ネコ

 同曲は1月から3月21日にかけて放送された、前記4人が出演したTBS系ドラマ『カルテット』の主題歌。CD音源としてはリリースされていないが、2月7日にデジタル・ダウンロードシングルとして配信が始まり、ウィークリーチャート1位を獲得。

 その後も楽曲評価の高さとドラマの盛り上がりが話題を呼び、ドラマ最終話放送の翌週に再度返り咲き1位を記録。さらにレコチョク、オリコンミュージックストア他、主要配信サイトで3月度月間ランキング1位を獲得し、早くも30万ダウンロードを超えてロングヒットしている「おとなの掟」は2017年最大の配信ヒットとなっている。

 作詞・作曲を務めたのは、シンガーソングライターの椎名林檎。“椎名節”と言ってもいい独特の大人の女性の魅力を振り撒く歌詞と、怪しげな雰囲気を引き立てるメロディと編成がドラマの世界観にもマッチしている。途中でミュージカルのような、ハッキリと明暗を分ける曲展開が楽曲のありきたりさを無くし、クセになる中毒性を孕んでいる。

 そして、編曲にはバイオリニスト、作曲・編曲家の斎藤ネコ。彼は椎名の1stアルバム『無罪モラトリアム』(1999年)でバイオリニストとして参加して以降、編曲、バイオリン奏者と携わっているという、椎名のよき理解者でもある。

 その斎藤がリーダーを務める「斎藤ネコカルテット」もこの楽曲の演奏で参加している。彼らは、1990年に聖飢魔IIのアルバム『XXX -THE ULTIMATE WORST-』に収められている「OVERTURE~BAD AGAIN~美しき反逆~」でも演奏するなど、クラシックのフィールドだけに留まらない活動をおこなっている。

新しいヒットのかたち

Doughnuts Hole「おとなの掟」

 ドラマ主題歌のヒットは、90年代から00年代にかけては、特にフジテレビ系で月曜夜9時に放送されるドラマ、いわゆる“月9”の主題歌は、宇多田ヒカル「Can You Keep A Secret?」(01年・『HERO』主題歌)や小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」(91年・『東京ラブストーリー』主題歌)などに代表されるようにCDセールスにおけるヒットの代名詞となっていた。

 しかし、YouTubeやニコニコ動画での動画を伴う音楽の視聴や、音楽ダウンロードや定額制音楽配信サービスの普及により、CD販売は減退の一途を辿っている。好みの多様化も加わり、世代や性別などを超えた、社会現象を起こすような大ヒット曲というのは生まれにくい、見えづらい傾向にある。

 そのなかで、新しいヒットのかたちを示した曲が俳優・桐谷健太扮する、浦島太郎が歌う「海の声」だ。2015年夏にテレビCMで歌われた同曲の音源化で、当初はダウンロード配信のみのリリースとなったが昨年7月の時点で80万ダウンロードを突破、浦ちゃん(浦島太郎)が歌唱するYouTube動画再生は4400万回を超えた。9月には桐谷自身がアルバム『香音-KANON-』でCDデビューし、音源化も実現した。

 そして、「海の声」は「レコチョクランキング2016」ダウンロード(シングル)部門で年間1位を獲得。さらに『第58回日本レコード大賞』で「優秀作品賞」を受賞、2016年を代表する曲となった。

 さらにもう1曲、新しいヒットのかたちを示したのが、星野源の「恋」である。昨年、『カルテット』と同じ火曜10時枠で放送された、TBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の主題歌でもある同曲。星野自身が出演し、共演した女優の新垣結衣やドラマ共演者らが番組エンディングで楽曲とともに踊った「恋ダンス」はYouTube上での動画総再生回数が7500万回以上に及び、一般人から著名人までSNSなどで「踊ってみた」動画などが投稿されるなどの反響を呼び、社会現象となった。

 「恋」はBillboard Japan Hot 100総合シングルチャートでは7週連続、通算11週にわたり週間1位を獲得。また、2016年のJapan Hot 100年間チャートでは第3位を記録した。CD25万枚以上を出荷。デジタル・ダウンロードでは100万ユニット以上を売り上げ、現在もヒットし続けている。

4人の演者が歌唱するという斬新なスタイル

 そうしたなかで、もう一つのかたちを示しているのがTBS系ドラマ『カルテット』主題歌であるDoughnuts Hole「おとなの掟」だ。『カルテット』は、男女4人が長野・軽井沢の地で弦楽四重奏を組み、共同生活を送る中繰り広げられる“大人のラブサスペンス”。松演じる、ミステリアスな主婦の巻真紀や、それぞれ登場人物が抱える訳アリの過去や謎がドラマを盛り立てていた。

 そして<おとなは秘密を守る♪>と歌われる「おとなの掟」の歌詞にも、何かドラマの内容と繋がる伏線が含まれているのではないかと一部の視聴者からネット上でも噂されたという。クライマックスに向かうストーリーとは別に、楽曲も盛り上げ役に一役かったのではないだろうか。

 星野はアーティストでもあるが、今回、「おとなの掟」を歌うのは俳優業を主に活動する4人。この4人は、劇中でカルテットを組む演奏家を演じているわけだが、今作では4人の演者が歌唱するという斬新なスタイル。番組エンディングで黒を基調とした衣装をまとい、悩ましげな表情で歌う4人の映像にも反響があったようだ。

 松は「明日、春が来たら」(1994年)や、2014年のディズニー映画『アナと雪の女王』の日本語吹き替え版主題歌「Let It Go ~ありのままで~」での歌唱でもよく知られる。「おとなの掟」では、その伸びやかな歌声を抑えながら歌う大人の色気をまとった歌唱も話題となっているという。

 満島は過去にFolder、Folder5として音楽活動をおこなっていた。松田もRIP SLYMEのメンバーPESのソロアルバム『素敵なこと』に収録されている「OK!MEXICO」にボーカルとして参加している。高橋はロックバンドのnever young beachの安部勇磨(Vo&Gt)を弟に持つなど、それぞれに音楽との関わりには、深いものがあるのも興味深い。

共通する点

 さて、「海の声」、「恋」、そして『カルテット』の「おとなの掟」には共通点がある。

 「海の声」は、2016年カラオケリクエストランキング総合1位(第一興商 DAM調べ 集計期間2016年1月1日~12月31日)を獲得している。その「海の声」のオリジナルはBEGINの楽曲で、作曲はメンバーの島袋優(Gt、Cho)。BEGINは1990年3月にデビューしている。BEGINは「島人ぬ宝」や森山良子が歌う「涙そうそう」を作曲するなど、国民的ヒットソングを世に送り出してきた。

 星野の「恋」は2017年1月、2月のカラオケランキング1位となっている(第一興商 DAM調べ)。「恋」を手掛けたのは星野本人だが、その星野は2000年にインストゥルメンタルバンド「SAKEROCK」を結成し、2010年にはソロデビュー。2015年にバンドは解散したが、順調な音楽活動を続けている。最新アルバム『YELLOW DANCER』は30万枚を超えるヒットを記録している。

 そして、椎名も1998年のデビュー以来、20年近く第一線で活躍し続けている。「渋谷系」になぞらえ“新宿系”と名乗って話題となった彼女だが、まさに「歌舞伎町の女王」としてその地位を確固たるものにしている。

 言わば3アーティストともに20年、30年という長い音楽活動の中で独自の世界観を確立している、と言っても過言ではないだろう。その世界観の中で口ずさめて、彼ら独特の節が感じられるという特徴が上記の3曲にはあるのではないか。

 『カルテット』最終話では、4人が移動に使っていたワゴン車“Doughnuts Hole号”の車中で彼らが「おとなの掟」を歌いながら走るシーンも見られた。ここでも楽曲と物語の深い繋がりを想起させた。ドラマでは多分に4人で演奏するシーンがあったのも印象的だった。ドラマは終了したが、「Doughnuts Hole」として4人が音楽的活動をこれからもどこかでおこなってくれることを期待したい。(文=松尾模糊)

MusicVoice

音楽をもっと楽しくするニュースサイト、ミュージックヴォイス

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着