ラッパーにとって今は追い風、ラッパ
我リヤ HIP HOPシーンの今

アルバム「ULTRA HARD」に自信をのぞかせるラッパ我リヤのQと山田マン

 ハードラップの重鎮、ラッパ我リヤが3月29日に、通算8枚目となるアルバム『ULTRA HARD』をリリースする。1993年に結成、2000年にはDragon Ashの「Deep Impact feat.ラッパ我リヤ」に客演し、ミリオンヒットを放つなど一時代を築き上げてきた。最近ではメンバーのQが、TV番組『フリースタイルダンジョン』に出演するなど再注目されている。前作『MASTERPIECE』から約8年ぶりとなる今作についてQと山田マンは「良いアルバムを出せば1枚でひっくり返せる業界。ど真ん中にズドーンと打ち込むものになった」と自信をのぞかせる。活況を迎えるラップ/ヒップホップシーンにおいて彼らは今、何を思うのか。そして今作を通じて放つメッセージとは?

ラッパーにとって今は追い風。その上で、パンチの効いたもののほうが面白い!

山田マン

――8年ぶりのアルバムリリースですが、ゴリゴリのかっこよさは変わらずですね。でも昨今のラップブームで復活した? と思っている人も多いようですが。

山田マン 一部メディアで、復活と書かれましたからね。でも見え方としては、そうなんだろうなと思います。実際は、DJ Toshiはクラブで毎週回していたり、Qはイベントをやったり、ラッパ我リヤとしても、月に最低1回はライブをやっていて。

 ただ、僕がバイクでケガをしてしまって、なかなかリリックを書ける状況にはなかったので、それで迷惑をかけてしまったところがあって。健康第一だなって、実感しているところです(笑)。それぞれの家の事情もあったし、それを乗り越えてアルバムを作れたというのは、家族や仲間の助けがあってこそだったと思っています。

――そういうすべてが、血となり肉となり、このアルバムになったという。

山田マン まさしく。ただ音楽を続けるだけなら、ひとりぼっちでもできる。でも僕らは、ひとりぼっちでやるために音楽をやっているわけではなくて、聴いた人を驚かせたいとか喜ばせたいとか、一緒に叫びたいとか、そういう想いがあってやっていることなので。いろいろありながらだったけど、8年ぶりにこうしてアルバムが出せたことは、最高に幸せです。

――デビューから20年、歌う内容が少しは大人っぽくとか変化するのかな? と思っていましたけど、そこはまったく変わってなくて。変わっていないことのうれしさもありました。

Q 世の中にもの申すものとか、ラブソングを入れようとか、アルバム1枚のなかでバランスを取るような考えは、以前のほうがすごくあって。今回はそういうことを考えず、言いたいことだけをスピットすると決めていました。たとえばグラフに見立てたとき、平均化されているよりも、どこか一カ所だけ突き抜けているみたいな、そういう作品のほうが面白いと思うので。

 実は、そういう成り立ちのアルバムは、初めてなんです。ぶちかまして、必殺技を出して、盛り上げて“ズコーン”とやって“バチーン”となってみたいな。擬音ばかりになっちゃうみたいなものでも、良いんじゃないかって思って作ったのは。

山田マン 往年のプロレスみたいな感じです。

Q 大技をバンバン出して、16文キックに吸い寄せられるように当たりに行って、そこにフライングニードロップが決まっちゃうみたいな。

山田マン そこに、前田日明の危なさもあるみたいな。昔のプロレスを知っている人じゃないと分からないかもしれないけど(笑)。ハードヒップホップの魅力は、そこにはあると思っているので。

――本来はアルバムとして成立しづらいけど、今作でそれができたというのは、みなさんの熱量がそうさせたみたいな?

Q これくらい熱くないと壁はぶち抜けないし、氷も溶かせないんで。この8年で、ハードなヒップホップを取り巻く状況はだいぶ変わりましたし。昨今はラップバトルのブームのおかげで、こいつは何を言わんとしているのか? と、すごく言葉を聴いてくれる傾向にあって。そういう意味では、ラッパーにとって今は追い風なわけで、その上でこういうパンチの効いたもののほうが面白いという考えもあったし。

 そもそも興味を持っている人が増えていて、そこにブームやシーンがあるのなら、自分から突っ込んでいってかき回してやろうみたいな気持ちは、常にずっと持ち続けていますからね。

「ヤバイ=良い、すごい」という意味は、俺たちが広めた!

Q

――今作にはKj(Dragon Ash)さん、MUROさん、KOJIMA(山嵐)さん、DJ KENSEIさんなど古くからの盟友もいれば、サイプレス上野さんなど今を代表する方も参加。ここから、新旧問わずヒップホップシーンにおけるラッパ我リヤの存在感が、確固たるものがあると感じました。

Q そう感じてもらえたら、それが最高です。それに、単純に「みんなカッコいいラップが聴きたいでしょ?」というのがあって。それは、つまりガチであるということで。フリースタイルラップバトル、バスケの試合、高校野球も同じで、一回しかないその瞬間というガチさ。マイケル・ジョーダンの最高にかっこいいダンクシュートを見たやつは、一生その光景を忘れないように、一生忘れられないインパクトを持ったアルバムになりました。

山田マン 2000年のSummer Sonicのバックステージで、本物のJB(ジェームズ・ブラウン)を見たとき、誰もがビビって声をかけないなかで、俺らはカタコトの英語で握手を求めに行ったんです。そうしたらJBは、何とも言えない笑顔で握手してくれて、その手から彼のソウルがジワ〜っと伝わってきた。そのジワ〜だよね。パワーと言うか。それが、このアルバムにはあると思います。

――「My Way feat. Kj(Dragon Ash)」も話題。2000年にDragon Ashの「Deep Impact」にて客演したり、Dragon Ash主催のイベントTCMに出演などもしていて。Kjさんとは、ずっと仲が良いんですね。

Q 都内某所にミュージシャンとか集まるようなバーがあって、そういうところでちょくちょく会っていて。飲んでベロベロになりながら、また一緒にやりたいなんて話をするときもあって。それで、あるとき「ビートができたから」と送ってくれたんです。

山田マン それが元になって、2011年の3月5日か6日に曲ができて、それがすごくかっこよかったんですよ。でも、その直後に震災があって、ラップの出だしでQが「衝撃の波が脳天直撃」と歌っていたこともあって、とてもじゃないけどって、そのときは出せなくて。振り返ると、このアルバムに至る前段階から、今作に繋がる流れがありました。

――サイプレス上野さんなんかは、テレビ番組『フリースタイルダンジョン』でも知られていて。『フリースタイルダンジョン』には、Qさんがモンスターとして出演されていましたが、番組をきっかけにしたラップの人気は、どんな風に受け止めていますか?

Q 俺個人としては、番組でGADOROくんに勝ててすごく良かったです。もし負けていたら、ネットでいろいろ書かれるんで。現場の緊張感が本当にすごくて、やっている間はずっと吐きそうでした(笑)。勝ったあとは、同世代の仲間から「すごくカッコよかった」とたくさん言ってもらって。たかだか5分くらいの出来事だったけど、あの日の俺には花丸をあげたいです!!

山田マン ああいう番組が、もっと増えたら良いのになって思うし、深夜じゃなくもう少し早い時間帯で放送して欲しいよね。昔は、ヒップホップ=怖いとか悪いイメージがついていたけど、でも今は番組のおかげもあって、ヒップホップの楽しさやラップの面白さをみんな分かってくれてるって思います。そういう意味では、すごく良い番組ですよね。

ラッパ我リヤ

――アルバムには、普及の名曲「ヤバスギルスキル」の最新バージョンを収録。さらに「日本語ラップ」という曲には、マイクロフォン・ペイジャーとか、日本のヒップホップシーンの土台作りに欠かせなかったグループ名も出てくる。90年代当時のヒップホップシーンに対する想いも感じられますね。

Q 「ヤバスギルスキル」は、もともと1995年のコンピ盤『悪名』に収録された曲。これは大げさな話ではなく、「ヤバイ=良い、すごい」という意味で使われるようになったのは、この曲の影響もけっこうあって。100パーセント俺らってわけではないけど、かなりの部分で影響を与えました(笑)。

 今の若い人たちの間では、俺らのことを知らなかった人も多いと思う。でも実際に聴いてもらえれば、「なんだ、すごくカッコいいじゃないですか!」と、理屈抜きで言ってもらえるものができたと自負しています。

山田マン 楽曲には楽曲の楽しさや“ヤバさ”があって、フリースタイルにはフリースタイルの楽しさと“ヤバさ”があって。この『ULTRA HARD』は、楽曲という部分で本当に“ヤバイ”作品になっている。同時にライブ感もあって。あと、オリジナリティかな?

Q オリジナリティという部分では、モチーフやテーマを一切なくして、その場で感じたことを言葉にしてラップするやり方で作りました。「My Way feat. Kj(Dragon Ash)」で山田マンが、「誰々っぽくとかじゃねーよ」と言っているんだけど、確かにそうだよなって。自分の感覚一本勝負で、それはけっこうな冒険でした。

――包丁一本で勝負する料理人みたいな感じですか?

Q そうそう。料理人でもきっと、あの店の味がすごく美味いからって、研究して寄せに行くこともあると思う。でも、寄せることができたとして、それは自分のスキルが上がっただけで、それをそのまま出せば、あの店の味と似ていると気づくお客さんが必ずいる。そこまで計算した上で、そこに自分の味付けやアイデアを加えていくことで、オリジナルになっていくと思います。

人間調子に乗ってぶっ壊して、すべてを失うこともある

ラッパ我リヤ「ULTRA HARD」

――「Deep Impact」が出た2000年前後を当時のヒップホップシーンのピークとして、当時活動していたグループで、その後辞めていった人は多いですか?

山田マン いますけど、それは俺らの8年間と同じで。表舞台やメディアには出ていないけど、自分たちのライフスタイルのなかでヒップホップをやっていると思います。たとえばバーとか飲み屋さんをやっているやつもいるし、地方でイベントやライブをやっているやつもいるし。

 『フリースタイルダンジョン』のZeebraにしろ、やっているやつは、常に最先端に突き刺さってやろうと思って頑張っているわけで。そういう頑張っているやつを見ると、俺も頑張らなきゃ、俺らももっとやろうという気持ちになるし。

――あの当時は、本場仕込みのゴリゴリの人たちによる怖いイメージと、スチャダラパーのようなポップで楽しいイメージと、ヒップホップには両面の印象があって。ちょっと対立構造みたいなものがあったように思いますが、今はそういう垣根がまったくなくなさそうですね。

Q スチャダラパーのボーズさんなんかは、トークショーで一緒に出るときもあっていろいろ話しますけど、曲の印象とは裏腹に、人としての中身はすごくハードコアなんです。だからヒップホップって、イメージや印象で語るべきではなくて、スピリットの部分だと思います。だから、カテゴライズすること自体、意味がないというか。そもそもこんな小さい国で、ヒップホップシーンというさらに小さいジャンルをもっともっと細かく分けて、そんな小っちゃいなかでやって、何が楽しいんだ?って。

Qと山田マン

――結局、売れた人に対するひがみで。それが、そんな風な見え方になっていたのかもしれない。

山田マン それはそうだと思います。

Q 確かにそのへんの空気感は、今と昔では少し違っていたかもしれないです。きっと、20年以上やって、今生き残っている俺らのような世代がこういう風に思っているから、それが空気感となって漂っているんだと思う。小さいことを言ってないで、どんどん広めて行こうぜ! って。今は、ひとりでも多く売れるやつに出てきて欲しいと本気で思っていますよ。

山田マン 昔やらかしたことの反省でもないけど、僕らも含めて、人間調子に乗ってぶっ壊して、すべてを失うこともあるわけで。でも、そこでヒップホップは全部なくなってしまったわけではなかった。今は、新しい化学変化を起こしている途中だと思う。

Q 順風満帆をキープすることの大変さも分かるけど、一度沈んでそこから這い上がるときは、下から上を狙うしかないんで、やることは明確です。気持ち悪がられるくらいやらないと面白くないし、今ある波に乗らないでいつ乗るんだ? と思うし。

 良いアルバムを出せば1枚でひっくり返せる業界だとは思うけど、1枚じゃグラつかせるくらいにしかならない。ダウンを取るには、猛ダッシュで何発も打ち込んでいかないと。だからこれ1枚だけじゃなくて、間髪入れずにどんどん行かないといけないけど、まずは最初の一発がドカーンとしたものじゃなきゃ意味がない。そういう意味でこのアルバムは、正拳突きと言うか、ど真ん中にズドーンと打ち込むものになった。

 1998年の1stアルバム『SUPER HARD』から始まった俺らのキャリアなので、ここでさらに上の『ULTRA HARD』からもう一度、ラッパ我リヤ伝説を始めたいと思っています。

山田マン 整髪料の種類みたいなタイトルだけど、俺らみんな坊主だというね(笑)。

(取材・撮影=榑林史章)

 ◆ラッパ我リヤ 1993年に結成。メンバーはラッパーのQと山田マン、DJ TOSHI。1995年の伝説的ヒップホップコンピ『悪名』に「ヤバスギルスキル」が収録されて話題を集め、98年にアルバム『SUPER HARD』でデビュー。2000年には、Dragon Ashの「Deep Impact feat. ラッパ我リヤ」がオリコン総合2位にランクインしミリオンヒットを記録。2ndアルバム『ラッパ我リヤ伝説』は20万枚のセールスを記録し、全国にハードコアスタイルのヒップホップを知らしめた。

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